初登場、岡寺のぶよ!6
倒れかかった岡寺のぶよを、バンドマン ツヨシが必死に支えた。
岡寺のぶよは、バンドマン ツヨシの顔をじーっとのぞき込むと、言った。
「あんたまだここにいたの。あんた、うざいから、どっかハケてくれない」
バンドマン ツヨシは、むくれて、会社の「平安クリーンスタッフ」に帰って行った。
岡寺のぶよは、腰掛け(いす)に座らせてもらい、水をコップ一杯望んだ。
「もちろん、氷も入れてね」
岡寺のぶよは、少しばかり落ち着いたのだが、すると、試食会に出されていたジャムのトースト。そして、コーヒーとナポリタンスパゲッティを食べたいと言い出した。
マスターは、岡寺のぶよのためにコーヒーとナポリタンスパゲッティを用意した。岡寺のぶよは空腹だったのか、一口でジャムのトーストを食べてしまった。
さらに勢いよくナポリタンスパゲッティを平らげた。そして、一口でコーヒーを飲み干した。
「なんか、あまり美味しくはない。でも、昔、若い頃、ナポリタン食べてた頃の事思い出す味だわ。チーズとタバスコ」
それに対して、マスターは、すまなさそうに言った。
「ナポリタンスパゲッティは、十年ぶりに復活させるメニューでして、調整不足だったかも知れません。今の若い人には合わないかも知れませんね」
岡寺のぶよは、それには、答えずに、少し黙っていた。そして、また、気分が落ち着いてきたのか、コーヒーのお代わりをした。
岡寺のぶよは、さらに落ち着いてきた。
岡寺のぶよは、冷静で、礼儀正しい話し方で、マスターに問わず語りを始めた。
「マスターなら、私の気持ちがわかると思うから、私の本当の気持ちを話しておきたいの」
「お猿のゴンくんの存在を知った時、わたし、すべてのことを一瞬で見通してしまったわ。そして、この町に襲いかかりつつある不幸の本質を見抜いたのよ。世界の仕組みのすべてが理解できると思えたの。本物の占い師にもめったに体験出来ない覚醒の一瞬。あの時のことは忘れない」
「はっきりと言っておかなければならないけど、みんなが心配しているゴンくんとかいうあの猿は、もう助からないわ」
「一流の獣医もよばれ、治療に当たっているらしいけど、医者が治せる病気じゃないわよ。妖怪ネコまんまが、……不幸な運命を生きた飼い猫だった、妖怪ネコまんまが、……幸せに生きている猿のことを妬んで、呪いをかけたのだからそれが医者に直せるわけがないのよ」
岡寺のぶよは、話し終わると、笑い始めた。
岡寺のぶよの気持ちは、再び高ぶりを見せ始めた。
「勝ったのよ! 私が勝ったのよ! 私のことを無視するとどういうことになるか、バカどもにも今度ははっきりとわかったでしょう。私に跪きなさい。さもないと、この不幸はやむことはないのよ」
「お猿のゴンくんの事件に絡んできた塚原瑛太とかいうおばかさん! あの塚原瑛太とかいうやつは、お猿ゴンくん事件では、大失態。日本中で、笑い物になること間違いなしだわ」
電話が、コーヒーパーラー「ライフ」にかかってきた。
動物園からであった。それは、お猿のゴンくんが危篤状態に陥ったという知らせであった。
それを聞いた、岡寺のぶよは、さらに勢いをつけて笑った。笑った。笑いまくったのであった。
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しかし、それからまもなくして、また一本の電話が、コーヒーパーラー「ライフ」にかかってきた。それは、塚原瑛太からの電話であった。塚原瑛太の声は晴れやかだった。
「すべては解決しました。これで、お猿のゴンくんは持ち直すはずです」




