初登場、岡寺のぶよ!
「くそたれ! えさ供給装置が起動しないぞ」
お猿のゴンくんは思った。
昼ご飯の時間だというのに、同じメッセージが繰り返し表示されるばかりだ。
「オヒルゴハンハ、……」
「……シュウリョウシマシタ」
「オヒルゴハンハ、シュウリョウシマシタ」
「マタアシタ、……」
「……オアイシマショウ」
「ゴキゲンヨウ」
お猿のゴンくんは、昼の時を知らせる時報訓練されてきた順番にボタンを押したあと、昼ご飯の受け取り口をのぞいてみた。
しかし、そこにはお猿のゴンくんが受け取るべき昼ご飯は存在しなかった。
ただただ、昼ご飯は終了したというメッセージがモニターに表示されるばかりである。
お猿のゴンくんは、自分の行動を再チェックしてみた。
まず、きちんと顔と手を洗ってみたか。
はい!
ボタンは注意深く順番を間違えないように押した。
はい!
確認。やっぱり、牛乳とサツマイモやバナナなどのいつももらえる昼ご飯が出てこないか。
はい!
お猿のゴンくんは、異変を知らせるキーキッという鳴き声を上げてみた。
そして、お猿のゴンくんは、あたりを見渡した。
ふだんなら、お猿のゴンくんの飼育員の人がいて、異常に気づくはずなのであるが、今日は、だれもお猿のゴンくんの異常事態に気づいてはくれなかった。
お猿のゴンくんは、キーキッと雄叫びをあげた。
お猿のゴンくんの空腹の怒りのボルテージは、さらに上がっていった。
そんなとき、お猿のゴンくんの様子を見守っている二つの目があった。
この二つの目は、檻おりの外の通りの植え込みのその先にあった。
お猿のゴンくんは、その二つの目に気づいていた。
お猿のゴンくんは、なぜかこの二つの目玉のため不安になった。
お猿のゴンくんは、この不安で、おなかの空きを忘れるわけではもちろんないのだが……。
しかし、警戒をまじえてのキーキーキッというお猿のゴンくんの鳴き声のトーンにはある種の変化が見られた。
このあらたなトーンの変化は、人間でいうと、「鬱」というたぐいのものを表しているのかもしれない。
たしかに、お猿のゴンくんは、この数日、胸の中の不安がどうにも収まることはなかった。
なにか大事なもの、暖かいものが自分から、奪い去られてしまいそう。
お猿のゴンくんは、そういうわるい予感がなかなか消えてくれないのを感じていたのである。
その悪い予感が、ついに的中してしまったのかと、お猿のゴンくんは絶望したのだろう。
しかし、お猿のゴンくんの絶望を理解してくれるものはお猿のゴンくんの周りにはいなかった。言葉で、意志を伝えられないお猿のゴンくんには、この絶望を乗り越える道は存在しなかった。
このようにして、一つの事件が、東京マリーン動物園で始まった。




