第1話(2/5)
『コンラッド王国』滅亡後、ボクは大道芸人の道化師となり、稼いでいた。
元々手先が器用なボクにはピッタリだった。
中々に好評で、良い稼ぎとなった。
時代が「魔王誕生」の話題で盛り上がってから数日が経った頃、ボクは大道芸人を辞めた。
そして、勇者を目指す旅に出たのだった。
道化師の頃の化粧をしたまま。
なぜなら、「これが(今の)ボク」だからだ。
“ブルズアイ”の名を隠すために・・・。
路地裏から通りに出て、そして街の外へとやってきた。
「彼女」の力を見るためだ。
「え~と・・・。」
彼女は周りを見回していた。
攻撃対象を探しているのだろう。
「ん~・・・、あの人でいいか。」
彼女はなんと、前方から来ている通行人の男性に目を付けた。
魔物や猛獣とかではなく、人間にだ。
「おいおい、冗談は・・・。」
ボクの言葉が終わる前に、彼女は「ふふっ♡」と微笑みながらポケットから黒い手袋を取り出した。
そして二つとも両手にはめると、通行人のもとへ近付いた。
お互いにすれ違う瞬間に黙って頭を下げて挨拶をした。
そしてそのまま離れた。
・・・。
一体なんだったんだ?
彼女はしばらくして戻ってきた。
微笑みながら。
「じゃ~ん。」
すると彼女は、その言葉と同時に後ろに隠していた右腕を前に出してきた。
右手には大きめの財布を握っていた。
・・・。
なんとなく嫌な予感がした。
「こ、これってまさか・・・。」
「うん、さっきの人の。」
・・・やっぱりか。
嫌な予感が的中した。
「大丈夫、すぐ返してくるから。」
そう言って彼女はさっきの人を追って街に再び入っていった。
大丈夫なのだろうか・・・。
しばらくして、彼女が戻ってきた。
「えっとつまり・・・。」
「うん。 私はいわゆる盗賊みたいな感じ。」
なるほどね・・・。
まあ、話の内容的に本当の盗賊ってわけじゃなさそうだから、別にいいか。
「で、合格かしら?」
彼女は手袋を外すと、腕を後ろで組んで上目遣いで聞いてきた。
うーむ・・・。
まあ、役には立ちそうな特技ではあるな。
むしろ、こういう戦い以外でも役に立ちそうな仲間の方が貴重かもしれない。
ならば、答えは一つか・・・。
「合格だ。 これからよろしく頼む。」
ボクは握手をするために、右手を前に出した。
彼女もそれに答えるように右手を出してボクの手を握った。
「ありがとう。 必ず役に立って見せるわ。」
そう言うと、彼女はボクの右手を両手で包むように握った。
彼女が見せた笑顔を見て、ボクは少し照れてしまった。
「あ、改めて、“ブルズアイ”だ。 だが、人前ではあまり名を呼ばないでくれ。」
「わかった。 私は“フィオナ”よ。」
“フィオナ”。
それが彼女の名だった。
フィオナが仲間になった。
彼女はとても明るく、可憐だった。
「まさか大道芸人、しかも道化師になってるなんてね。」
「まあ、色々あったんだよ。」
「しかし、道化師の化粧のままで旅をしなくても・・・。」
やはり気になってたか。
さっきからそのことに触れてこなかったから違和感を感じたんだよな。
逆によかった。
「ボクの正体は、あまり知られたくないんでね。」
「なるほどね。」
彼女は並行しながら、改めてボクの顔をまじまじと見つめてきた。
なんだか照れる・・・。
「・・・その赤鼻、どうやって付けてるの?」
「ああ、これは・・・。」
このように雑談をしながら、ボクらは次の街まで歩き続けたのだった。
道中、ボクたちは休憩施設へ寄っていた。
「うーん、美味しい・・・。」
フィオナはテーブル越しの向かいの席に座り、チーズケーキを食べていた。
施設は街のレストランなどと違って、木造建築の小さい建物だった。
だが、自然を感じてとてもいい。
当然ボクたち以外にも旅人らしき客人たちもいる。
とても賑やかだった。
「ブルズアイもなにか食べれば?」
チーズケーキを食べてた手を一旦止めて、フィオナが話しかけてきた。
「いや、ボクはいいよ。」
とくに空腹ではなかった。
レストランで食事もしたし。
それより、フィオナに言っておくことがある。
「あと、名前をあまり呼ばないでくれ。」
「ああ、そうだったわね。 ごめん。」
フィオナは苦笑しながら言った。
そして一口チーズケーキのカケラを食べると、再び喋り出した。
「でも、呼び名がないと不便よね・・・。」
フィオナは人差し指を口元に当てながら発言し、やがて考え出した。
チーズケーキを食べるのを中断してまで考え込んでいた。
そして、しばらくして、なにかを思いついたようで、人差し指で上を指した。
両手をテーブルに置き、こちらに向かって身を乗り出してきた。
「じゃあさ、“ブルー”って呼ぶのはどう?」
「“ブルー”、ね・・・。」
「青」か・・・。
・・・まあ、問題はないかな。
「わかった。」
ボクの返答を聞いて彼女は満足したようで、再び深々と椅子に腰を掛けた。
そして再びチーズケーキを食べ始めた。
本当に元気な人だ・・・。
ふと、ボクは周りを軽く見渡した。
ボクたち以外の客は、ほとんどが旅人のような恰好をしていた。
防具を身に着けている人もいれば、軽装の人も。
おそらくボクたちと同じく魔王討伐を目的としている人たちもいるのだろう。
「やぁ、そこの美人さん。」
「ん?」
ふと前から声がした。
声のした方向を見ると、フィオナが客の一人に話しかけられていた。
客はボロボロのマントを身にまとった、旅人の男だった。
顔は結構二枚目寄りだった。
「お暇ですかな?」
「いえ、食事中です。」
「お一人ですかな?」
「いえ、二人です。」
・・・。
前言撤回。
どうやら三枚目のようだ。
「・・・僕とデートしませんか?」
「いやです。」
なんとも下手なナンパの仕方だ。
色恋沙汰に疎いボクでも分かる。
「私たちは先を急ぎますので、そんな事をしている暇はありません。」
フィオナはバッサリと言った。
男はショックのあまりか、フリーズしてしまった。
哀れなり。
フィオナはチーズケーキの最後の一欠片を口の中に入れ、フォークを皿に置いた。
そして手を合わせた。
「ごちそうさまでした。」
フィオナはそういうと、隣にいる男には一切気にせず、ボクのそばに来た。
「お待たせ。 早く次の街に行きましょう。」
ボクの腕を掴んで、笑顔でそう言ってきた。
ボクは引っ張られたので、慌ててイスから立ち上がって、休憩施設を後にした。
休憩施設から数メートル離れたところで、フィオナはボクの腕から手を離した。
そして、後ろに気配を感じた。
ボクは足を止めた。
フィオナはそれに反応し、こちらを振り向いた。
すると、どうやら先にフィオナは後ろの光景を見たような反応をしていた。
ボクは腰に差している刀の柄を握った。
そして勢いよく後方に振り返った。
するとそこには見た顔が。
さっきの男だ。
「俺は認めんぞ。 お前のようなピエロの化粧でウケ狙いをしようとしている輩が、そんな美人でエロい女性を連れ回して・・・!!」
めんどくさいことになった・・・。
「いや、そういうわけでは・・・。」
「うるさい、くらえ!」
ボクの話を一切聞こうとせず、男は言葉をかぶせてきた。
そしてマントに隠れていた左腕を前に出してきた。
しかしその左腕を見て、ボクは驚愕した。
男の左腕は銀色に光っていた。
つまり、「機械」の腕だったのだ。
「うおおおおおー!!!」
叫び声と共に男の左腕から手の部分が握りこぶしになってこちらに吹っ飛んできた。
ボクは慌てて横に吹っ飛んで避けた。
「うおおおりゃー!!」
次の瞬間だった。
飛んできた拳が今度は勢いよく横に移動してきた。
ボクは瞬時に刀を抜き、刃の部分でガードした。
拳が刃に当たり、刃の部分が振動したことを押さえていた左手で感じ取った。
飛んできた拳をよく見ると、腕と拳の間に長いワイヤーが付いていた。
これが横に移動してきたトリックか。
男は飛ばした拳を巻き取って回収し、再び腕にくっついた。
「(これは、やるしかない。)」
ボクは男の拳が引っ込んだ瞬間に、一直線に男のもとに走った。
当然男は再び拳を吹っ飛ばして来た。
だが、そうすることは分かっていたので、ボクは吹っ飛んできた瞬間にすぐに横に回避した。
そして着地と同時にさらに走力を上げ接近した。
そして腰の鞘から刀を抜いた。
「・・・!」
次の瞬間、男の首元に刀の刃を勢いよく近付け、寸止めした。
しばらく互いに止まったままだったが、5秒後に男は腰が抜け、尻もちをついた。
「な、なるほど・・・。 よく理解したぜ・・・。」
男はそう一言発した。
男が戦う気がないことを確認し、ボクは刀を鞘に納めた。
「あー、ブルー・・・?」
突然後ろからフィオナに呼ばれた。
何事かと振り返ってみると・・・。
「(また・・・、めんどくさいことになった・・・。)」
ボクが回避した拳が、どうやら後ろからやってきた人の顔面に激突したようだ。
しかもどうやら6人グループらしい。
倒れた男性の周りに5人が立っており、全員がこちらを睨んでいる。
「テメエら、なにしやがるぅ!!」
・・・。
男たちは今にもコチラに襲い掛かってきそうだった。
あと、いつの間にかフィオナがボクの近くに移動してきていた。
「どうする、ブルー・・・?」
困惑した様子でフィオナが喋りかけてきた。
ボクはしばらく考えていたが、後ろで腰を抜かしていた男がいつの間にか立ち上がって、ボクたちの斜め前に出てきた。
「あれは、『モルジャ組合』の者たちだな。」
「え?」
どうやら男は目の前の連中について知っているようだ。
「『モルジャ組合』って?」
「恐喝などをして、弱者から金品を巻き上げる悪党共だ。」
フィオナの問いに、男は答えた。
なるほど。
魔王とは別の「悪」というわけか。
「どうやら、やるしかないようだ。」
「やっぱり?」
ボクはフィオナに先ほどの相談の答えを出して、再び刀の鞘を握った。
隣の男も鉄の拳を巻き取って回収し、戦う気だった。
「やっちまえ!!」
『モルジャ組合』の言葉と共に、戦いは始まったのだった。