表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/63

6.5日目 メスガキちゃんは帰らない

「よっし、今日の作業終了!」


 俺が大きく伸びをすると、ジャラジャラと音をさせながらジャガリコの筒が差し出された。


「お疲れ様。おじさんも食べる? 炙り明太味だって」

「お前、結構渋い味が好きなんだな」


 勧められるままに一本貰いつつ、テレビに映るゲーム画面に目をやった。


「ねえおじさん。キャラメイク、あんまし可愛くならないんだけど」

「それ髪型は最初はスキンヘッドの方が作りやすいぞ。あと□ボタンで照明変えれるから」


 もう一本ジャガリコを口に放り込んだところで、俺はあることにようやく気付く。


 ……こいつ、いつ帰るんだ?

 既に時刻は夕方5時を回り、窓の外は薄暗くなってきている。


「お前なんでモンハンのキャラ作ってんの? やってくの? それにお菓子食いながらコントローラー握るなよ」

「うるさいわね、あんたのキャラ勝手に使っちゃ悪いでしょ。しかもいい年したおじさんが女キャラ使ってるとか。ひいき目に見てもキモすぎだし」

「……お前、そこはセンシティブな問題だ。触れてくれるな」


 なにしろゲーム機の中身なんてプライベートの塊だ。俺のパソコンの外付けHDDの次くらいに。


 そういやこいつ、結構長い間PS4をいじってたよな。俺、変なゲームDLしてなかっただろうな。


 多分してない……してないはず…………してないといいな…… 


 俺がソワソワとメスガキの様子を窺っていると、その視線に気付いたのか。

 ストライプのニーハイに包まれた太ももをポンポンと叩くメスガキ。


「んー? ひょっとして構って欲しいのかな♡ 寂しいなら、あたしの膝に乗る?」

「乗らないし。駅まで送るからゲームの電源落とすぞ」

「えー、まだ本編始まって無いんだけど」

「俺、これから用事があるし。大人は忙しいんだ」

「むー」


 メスガキはうつ伏せに寝そべると、ベシベシとボタンを叩く。

 

「じゃあキャラクリエイト終わってー セーブしてからー 善処しますー」


 ペシペシペシ。

 更に乱暴にボタンを叩くメスガキ。

 

「お前帰る気無いだろ。またその内、続きしに来ていいから。今日はもう帰れ。な?」


 何気ない俺の言葉に、メスガキがキラキラと目を輝かして跳ね起きる。


「また来ていいの?! ホント?」


 ……あれ? 俺、口を滑らせた?


「その内だぞ、その内。早くて桜の花が咲くころだな、うん」

「つまり、あたしの笑顔を桜の花に見立てているのね。意外と気の利いたこと言うじゃない♡」


 言ってないし、そんなこと思ってないし。


「いいから駅まで送るぞ。荷物まとめろ」

「はーい、駅までお散歩デートだね。この幸せ者♡」


 ……色々と言いたいことはあるが、ここは我慢が大切だ。

 とにかく家から追い出してしまえば、どうにでもなる。


「忘れ物ないな? あっても届けてやらないぞ」

「うん。次来る時までしまってて」


 アパートを出ると、花壇の手入れをしている老婦人と目が合う。

 この人はアパートの大家さんだ。たまにこうやってアパートの周りを掃除している。


「大家さんどうも。お疲れ様です」 

「あら、田中さん。陽が沈む前に会うなんて珍しい———」


 大家さんの視線が隣に並ぶメスガキにぴたりと留まる。

 ……あれ。いま俺、かなりの窮地に陥ってない? ワンミスで人生ゲームオーバーになる勢いなんだが。


「えー、あの、こいつは親戚の子供で———」

「うちの田中がいつもお世話になってまーす♡」

「ちょ、おい」

「あら可愛いお嬢さん。姪っ子さん?」


 メスガキがいきなり俺の腕にしがみ付いてくる。


「んーん。あたしボランティアで寂しいおじさんを構ってあげてるの。この人、意外と寂しがり屋だし♡」


 こいつの軽口に思わず固まる大家さん。

 俺は勢い良く首を横に振る。


「はは、こいつ冗談が好きで! 次から見かけても、気にせず無視しといてください」

「あ、冗談よね! びっくりした。姪っ子さんなら歓迎よ。昼間は私が101号室にいるから、おじさんがいないときには遠慮なく来て頂戴ね」

「あ。ちゃーんと合鍵も持ってるから安心してください。おじさん、あたしが居ないと駄目なんでーす♡」


 いやもう、こいつなに言いやがるのだ。

 ……だが、大家さんはこいつを姪っ子だと信じてくれてるらしいし———


「あらあらまあ……」


 小声で呟きながら、目を細めて俺の顔を見る大家さん。

 ……あれ? 信じてくれてる……よな?


「そ、それじゃ、こいつを駅に送りますんで! さ、行くぞ」

「はーい。おじさん♡」

「こら、腕に身体を押し付けるなって」


 背中に刺すような視線を感じながら、俺は急ぎ足で角を曲がる。


「ねえ、おじさん。おじさんで良かったね」

「なんにも良くねえって。つーか俺おじさんじゃないし」

「だって大家さん、本当の姪だって思ってくれてたじゃん」

「……いや、割と微妙なラインだったぞ。つーか腕放せって」


 微妙どころかかなり疑われていた気がする。

 ……帰りに賃貸物件の情報誌でも貰ってくるか。


「明日は午後から来るから。少しは部屋を片付けといてよね」

「は? いやいや、また今度だ。さすがに連日は大家さんに怪しまれるからな」

「けーち。甲斐性無しのケチおじさん」


 メスガキはしばらく膨れっ面をしていたが、何か悪だくみでも思いついたのか。

 途端にニヤニヤと俺を見上げて来る。 


「じゃあ……このまま改札まで腕組んでくれたら、明日は勘弁してあげる♡」


 ……なにその要求。


 とはいえ、現在進行形で駅前商店街を腕組んで歩いてるのだ。

 ここまで来たら、改札まで送ったところで変わりはしまい。


「それで気が済むならいいぞ。約束だからな」

「はーい♡ おじさんも約束だからね」


 まったく、小娘め。俺が照れて折れるとでも思ったか。

 所詮小学生の浅知恵だ。


 ほらもう、商店街を抜けて駅前広場が見えてきた。

 駅前広場の交番の前を通り過ぎれば、すぐに駅の改札が———


 ……交番?


 思わず足が止まる。

 メスガキが俺を掴む腕に力をこめる。


「おじさーん、どうしたの? 駅に行かないのぉ?」


 はしゃいで小さく飛び跳ねるメスガキ。

 俺は大きく溜息をつくと、絞り出すように言った。


「……腕、放してくれるか?」


 メスガキはニコリと青空のような笑みを浮かべる。



「それじゃ、おじさん。また明日♡」

 本日の分からせ:分からせられ……30:70


 アラサーさん、なんとかメスガキちゃんを追い返しました。色々と失った気もしますが、失ったものは返らないので諦めましょう。

 次回、調子に乗ったメスガキをアラサーさんが今度こそわからせます。


 繰り返しで大変恐縮ですがお読み頂いた皆様にお願いです。

 この新連載の行く末は、皆様の心にたぎる“大人のわからせちから”に掛かっています。

 メスガキさんをわからせたい方は、ブクマとバナー下から★~★★★★★にて、大人の強靭わからせエナジーを充填お願いします!


 わからせられたい人も、メスガキさんに★マークをお捧げ頂ければ幸いです。きっと、メスガキさんがあなたのゲーム中に、ジャガリコを口にくわえて食べさせてくれます。一本千円で。

 ちなみに私は、足の指で掴んで差し出されるのも有りだと思います。いやむしろ(以下略)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ご褒美…ですね? [一言] 姪っ子って言って違和感のない年の差か… 大家さんに通報されないことを祈ります!
[良い点] 田中さん、そこは堂々と交番の前を通りましょうよ。一度見せれば疑われないですよ。 [一言] メスガキちゃんもいっそ田中さんの部屋に着替え置いていくとかすれば既成事実になるでしょうに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ