表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/63

36日目 今日も感謝して働きましょう

 ———11月23日勤労感謝の日

 

「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう……か」


 俺はGoogle先生の勤労に感謝しつつ、スマホをしまう。

 煙草の煙でかすむ空をぼんやり眺めながら、頭の中で仕事の進捗を確認する。


 祝日は外部からの問い合わせが少ないので仕事が捗る……なんてことはなく、弊社の労働環境は取引先に知れ渡っているので、むしろ緊急案件がバンバン入ってくるという悪循環だ。


「どうも、お疲れっす」


 カチカチとライターを鳴らしながら恋川が姿を現す。


「お疲れ。そっちは進捗どんな感じだ」

「順調っすね。週末にはテスト環境の設定が終わります」


 煙草をくわえたまま、にやりと笑う恋川。


「主任、今日はいつにも増してくたびれてるっすね。月曜からお疲れっすか」


 うんまあ、この週末もなんだかんだで疲れた気がする。

 なんでかな……なんでだろうな……


「だって祝日じゃん。なんかやる気でないって言うか」

「今更っすか。そんなのとっくに通り越してるかと思ってました」

「俺にも心はあるんだぜ……?」


 仕事が辛いとか、休みが無いと心が死ぬとか、最近ようやく思い出しつつあるのだ。

 色々と脳内スイッチを入り切りしていて凌いで約10年。そろそろスイッチが劣化しつつある。

 

「じゃあ次の祝日、二人でサボりますか?」

「でも今年、もう祝日無くね」

「え、マジっすか」


 恋川は眉をしかめてスマホのカレンダーを確認する。


「ショック……ではないっすね。どうせ仕事だし」

「仕事だしな。電車空いてるのだけが救いだ」

「そういやうちって年末、休みとかあるんすか?」


 不安そうに聞く恋川を安心させようと、俺は笑顔でうなずく。


「当り前だろ。うちは年末年始は30日くらいから———」

「くらいから?」

「———フレックスな感じになるんだ」

「…………感じ」


 恋川は目を閉じ、しばらく何かを深く考えているようだった。

 煙草の半分ほどを灰にした頃、ようやくゆっくりと目を開ける。


「えーと、つまり。年末年始は来ても来なくてもいいってことっすか……?」

「なんだろな……。出退勤の時間は問わずに、みんななんとなく顔出して仕事したり掃除したりして……独身組は大晦日に蕎麦食って飲み行ったりする感じかな」

「うわ。年内に入籍しないと」


 恋川は苦笑いしながら、火の消えかけた煙草を小刻みにふかす。


「まあ頑張れ。でも年末年始の緩い感じも悪くないぜ。仕事だけどのんびりできるから、得したって言うか」

「私には丸損にしか思えないんすけど」


 えー、だって仕事中にテレビ付けてても何も言われないし。

 課長なんて大みそかの午後なんて酒飲みながら働いてるんだぜ。


 あれ。働いて———るぞ。毎年、大晦日も夜まで働いてる気がする。


「……あれ、ホントは俺、毎年損してた……?」

「損得はともかく、今年は休みましょうよ。実家とか帰らなくて何も言われません?」

「この3年は帰ってないなあ」


 親戚一同に囲まれて早く結婚しろの大合唱を聞かされるのだ。

 足も遠のこうというものである。


「そう言えば今日って何の祝日ですっけ」

「勤労感謝の日だよ。感謝して働こうぜ」

「マジっすか。うちらが仕事に感謝するんすか」

「課長には毎年そう言われてるからな」


 全く、誰か一人くらい俺をいたわってくれる人はいないものか。


 ……さて、そろそろ有難い仕事に戻るとしよう。俺は煙草をねじ消す。


「んじゃ、俺は先に戻るな」

「もう一本くらいどうっすか。たまには私のも吸ってください」


 戻ろうとする俺に向かって、恋川が自分の煙草の箱を差し出してくる。

 ……ま、もう少しくらいサボってもどうってことは無いよな。


 俺は素直に一本受け取ると煙草に火を点ける。メンソールの冷たい香りが喉を通り過ぎる。


「どうした恋川。今日は随分優しいな」

「勤労感謝の日なんで、せめて私が主任に感謝してあげるっす。感謝してください」


 結局俺も感謝するのかよ。

 苦笑いする俺に向かって、手すりに両肘をついた恋川がぶっきらぼうに呟いた。 



「……主任、いつもありがとっす」




 本日の分からせ:分からせられ……ノーコンテスト


 アラサーさんにとって、勤労感謝の日は仕事に感謝する日のようです。感謝するって素敵ですね。

 そして可愛い女の子に感謝されるのはそれ以上に素敵です。


 そんな恋川さんが天使に見えてきた人も、悪魔でもいいからなにかして欲しい人も、バナー下から★~☆~で応援頂ければ大変に助かります。

 きっと恋川さんが、さり気なく缶珈琲をあなたの机に置いて『深い意味ないっす。ただのお礼っすから』と言ってくれます。


 私は可愛い子に飲みかけの缶珈琲を机に置かれて『もったいないから残さず飲んでください』って言われたいですけど、そんなカフェはどこかにないでしょうか。

 GoTo使って通います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぶっきらぼうに 「主任、いつもありがとっす」 と言ってくれる恋川さんは 絶対天使に決まってる!! 絶対その時、顔真っ赤に決まってる!!
[一言] 勤労感謝の日に働きたくない不労所得で生活したいって歌流した公共放送が…… 現代の闇は深そうですよ? コーヒーなんて贅沢言わないんで可愛い子の飲みかけの缶ビール飲めるとこないですかねえ
[一言] 本日も労働させていただける喜びを噛み締めながら休日出勤完了いたしました(諦念) 恋川ちゃんみたいな後輩が居てくれればもっと頑張れるはずなんですよ… 祝日?三連休?GoTo?そのような物はまや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ