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34日目 そろそろ誰かガツンと言うべきです

 今日は11月には珍しく、気温が25度を超えている。

 25度を超えれば夏日と呼ばれるのだから、今年最後の夏が訪れたと言ってもいいのだろう。


 1DKのアパートの一室。

 締め切った部屋には湿っぽい熱気がたちこめている。


 二人分の———熱気。


 メスガキはいつもとは少し違う、落ち着いた声で低く呟く。


「……それじゃ、あたしが上になるね」

「ああ……頼む」


 ……身体にかかる重み。俺は喉の奥で小さく呻き声をもらす。


「無茶するなよ。折れたりでもしたら目も当てられないしな」

「安心してよ。昔はパパにもしてあげてたから。上手だって褒めてくれてたよ」

「それって何歳の頃だよ。今とは身体も違うだろ?」


 俺の軽口に、メスガキは軽く鼻を鳴らす。


「だっておじさん、小学生くらいの子が丁度いいんでしょ? あたしピッタリじゃん」

「小学生ったって、妹にしてもらってたのは低学年の頃で———」

「あーもう、グダグダうるさいわね。男なら覚悟決めなさい」


 メスガキは一気に体重をかけて来る。


「馬鹿、もっとゆっくり……うわ」


 思わず声を出すと、メスガキは余程面白かったのか。

 くすくす笑いながら身体を揺らす。


「……気持ちいい?」

「気持ちい———つーか片足に体重掛けるなって。あー、もうちょい後ろを頼む。尾てい骨のあたりにじんわり重心を移してくれ」

「注文が細かいわね。ほら、こんな感じ?」  


 うつ伏せになった俺の腰に、メスガキの両足が容赦なく体重をかける。


「あー、そうそう。そのままそのまま」

「もう、まだ30でギックリ腰とかやんないでよ」

「やってないし。ギックリの予感が漂っているだけで、全然まだいけるし」


 ……そう。ついに限界を迎えた俺の腰をほぐしてもらっているのだ。

 妹が子供の頃、背中や腰が痛いと良く乗ってもらっていたが……意外とこいつでもいけたのは収穫だ。


「40代のパパよりボロボロじゃん。ギックリ腰までするし、全然いけないってば」

「ちょっと職場のサーバーを動かそうとしただけだし、決してギックリ腰などではない。それははっきりしてるんだ」


 昨日はちゃんと残業(無給)もこなしたし、今朝も朝から在宅ワーク(無給)で働いた。

 これだけ働けるのだから決してギックリ腰などでは———


「うおおお……。もうちょいゆっくり。あ、ついでに背骨周りの筋もほぐしてくれ」

「ホイホイ」


 推定3●キログラム。メスガキの足が俺の背中を踏みほぐす。


「あー、もういいぞ。助かった。これであと10年は戦える」

「次は裸足で乗ってあげようか。男の人ってそういうのが好きだって友達に聞いたんだけど」

「……そのお友達には気を付けなさい、マジで」


 それにそういうのが好きなのかは人による。

 そして俺も相手によっては、やぶさかではないことは確かである。


「さ、降りた降りた。年頃の女の子が男の上に乗るんじゃありません」

「なによ、自分から頼んどいて」


 メスガキは俺の背中から降りた———

 かと思ったその刹那、俺の腰の上に腰掛けてきた。


「ぐおっ! お前、なに座ってんだ」

「ふーんだ。人に乗らせておいて、スッキリしたらそれでお払い箱なんだー」


 こいつ、なんか拗ねてやがる。

 だが、この体勢で無理に動けば俺の腰が本格的にギックリしてしまう。

 

「悪かったって。感謝してるから早くどいて———」


 ……ん?

 いや待て。腰の上に掛かっているこの重み。


「……そのままだ。動くな」

「え、なに突然。キモいんですけど」

「この体勢が丁度腰にジャストフィットしてるんだ。つまり今、俺のHPが音を立てながら回復している」


 絶妙な力のかかり具合で、あるべきところに収まっていく———椎間板。


「全然分かんない。けど、あたし役に立ってるの? もっと体重掛ける?」

「あ、こら、俺の上でグリグリ動くな!」


 それはマズい。色々と。


「おじさんもこれであたしの有難みが分かったでしょ?」


 メスガキはフフンと笑うと、俺の上で足を組む。


「この週末は任せといて。あたしがおじさんのお世話をしたげる♡」

「いや、あとは寝てるだけだし。お前は気にせずに帰っていいぞ」


 流石に大人として小学生に面倒を見てもらう訳にはいけない。

 帰りだって駅まで暗くなる前に帰ってもらわないと。


「え。でもほら、食事とかどうするの」

「お前、シチュー作ってきてくれたじゃん。あれご飯にかけて食うし」

「え……ご飯にかけるの……?」


 ……何か問題が。シチューをカレーがけして何がいけないのか。


「ねえ、あたしちゃんとしたご飯作ってあげようか? シチューをご飯にかけるほど困ってるなら———」

「待て待て。シチューはご飯のおかずだぞ。カレーと似たようなもんだから、一緒に皿に盛ってもおかしなことは無いだろ?」

「……そうだね。うん、大丈夫。あたしおじさんの家の味、きっと慣れると思うよ?」


 さっきから、俺に腰掛けたJSと何の話をしてるんだ。


「とにかくだ。夕飯食べたらちゃんと帰るんだぞ。明日も無理に来なくても平気だから」


 自分で自分の世話をするのが大人というものだ。

 腰がちょっと痛いからって、子供に面倒を見てもらう訳には———


「……邪魔だった?」

「え」

「あたしに出来ることってないのかな……」


 突然、しんみりと落ち込むメスガキ。

 あれ、なんか思ってた反応と違う。いつものお前なら、憎まれ口を叩いてくるはずではなかったか。


「ほら、なんというか……特に何かしてもらうというか……居てくれるだけで充分だからな。うん」


 俺の口から出た適当な言葉に納得してくれたのか。

 ホッとした俺の横、メスガキはゴロリと床に身を投げ出す。


「ホント!? あたしが居るだけでいいって、そういうことなの?」


 目の前に現れたメスガキの小さな顔と大きな瞳に息が一瞬止まる。


「どういうことか分からんがそんな感じだ。だから俺に構わず宿題でもしてろ。な?」

「はーい。学生の本文は勉強だしね♡」


 メスガキはいい返事をすると、ぴょこんと体を起こす。

 鼻歌混じり、カバンから問題集を取り出している。どうやら素直に宿題を始めるようだ。


 ……やれやれ、これで少し静かに休めそうだ。

 仰向けに身体を回した俺は、腰が随分軽くなっていることに気付く。


 うむ。田中家直伝のマッサージ術、今回も効果があったようだ。

 

「おじさん、テレビつけて」

「お前、宿題するんじゃないのか?」

「あたし、すこしくらい賑やかな方が良いの」


 ふうん、そんなもんか。テレビを付けるとニュースの真っ最中だ。

 

『———男はマッサージをしていただけなどと供述しており、当局では慎重に裏付けを進めています———』


 おやおや、またも小学校教師の淫行か。

 こういった人が一人いると、他の真面目に頑張る教師が迷惑をするのである。


 俺は宿題をするメスガキの背中をなんとなく眺めつつ、眠りの縁に意識が引き込まれているの感じていた。


 ここは眠りの誘惑に身を任せよう。


 今週も良く働いた。



 少しくらい———羽を伸ばしてもいいはずだ。




 本日の分からせ:分からせられ……40:60


 アラサーさんにそろそろ誰かガツンと言ってください。

 この状況をなんとなく受け入れているのもメスガキちゃんの作戦か、アラサーさんの駄目なところか……

 次回、アラサーさんピンチです。

 

 こんな二人を応援する人も爆破したい人も是非バナー下から☆彡★彡を投げてくれますと非常に助かります。

 きっと、メスガキちゃんが散々あなたにのろけ話を聞かせてきた挙句『この話、あなたのことなんだけど♡』と、どんでん返しをしてくれます。


 ちなみに私の人生のどんでん返しは、ありきたりですが破壊力抜群でした。

 人生って分からないものですね(遠い目)

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― 新着の感想 ―
[一言] 明日は日曜だから。居てくれるだけでいいとか言っちゃったら。アラサーさん寝落ちしちゃったら。明日ピンチとか聞かされちゃったら。 もう、明日朝アラサーさんが起きたときに、一緒に寝ているメスガキ…
[良い点] メスガキちゃんに対してではなく、アラサーさんに対して誰かガツンと言って自覚させないと。 ズルズル流されて気づいたら、司法の檻の中か、メスガキちゃんの鳥籠の中だよ……
[一言] 初体験は25歳の時でしたな(ぎっくり腰) マッサージをしていただけもヤバイけどマッサージをしてもらっていただけもなかなかダメな感じを受けるのは心が汚れているからでしょうか
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