33日目 ガールズトークは控えめに
学校の中庭。
昼下がりの柔らかな陽光の中、二人の少女が芝生の上で語り合っている。
「ふうん。それでどうなったの」
「だから私、お父様の秘書に言ったんです。あと一週間、私の言い付けを守れたらご褒美をあげるって———」
「へえ、それは凄いねえ……」
一人の名は百合園千代花。
興奮気味に話し続けていた彼女は、隣の友人の様子に言葉を止める。
……その友人は千代花の言葉もうわの空。
手首を空にかざし、にやけ顔を隠そうともしていない。
「理沙ちゃん。手首に巻いているのは———ミサンガですか?」
「……ん? ああ、これ」
理沙と呼ばれた少女は制服の袖をまくり、千代花にそれを見せつける。
「まあちょっとね。ダサいけど、もらっちゃったから仕方なく付けてあげてるの」
「もしかして殿方からのプレゼントとか」
千代花の探るような視線に、返ってきたのは理沙の緩み切った笑顔。
「まあ一応そうなるのかな。あたしは意識してないんだけどー」
「あら素敵! お相手は澄川附属の初等部の殿方ですか? 確かこの前、恋文を頂いてませんでしたか」
「なんで知ってるのよ」
「あら。私は理沙ちゃんのことは何でも知ってるんです」
「怖いこと言わないで」
理沙はちょっと気取ったように顔を上げる。
「悪いけどあたし、小学生とか子供っぽくて」
「……じゃあ。この前プロポーズ未遂があった方ですか?」
「まあ……そんなとこかな」
「あらあら! じゃああれから進展があったんですね? もうご両親には紹介したんですか?」
千代花が興奮気味に身を寄せると、理沙は迷惑そうな顔をして見せる。
「ちょっと千代花、近いって。手を握らない。指を絡めない」
「つれないですね。その彼氏さん、そんなに素敵な方なんですか?」
「彼氏って言うか、あたしが構ってあげてるだけだし。少しは可愛いとは思うけど」
「あら、可愛いんだ」
「少しだけよ、少しだけ」
わざとらしくそっぽを向く理沙の首筋を、熱っぽい視線で見つめる千代花。
もう一度、さり気に距離を詰めていく。
「理沙ちゃん。もし、その殿方との距離を詰めたいなら———」
「詰めたいなら?」
「———耳を貸してくださいな」
千代花は理沙の耳元に口を寄せると何事かを囁いた。
「んんっ?!」
理沙は跳ねるようにして立ち上がる。
「だっ、駄目だってそんなことしちゃ! あたし達、まだ小学生だし!」
「あら。なにも実際にしなくてもいいんですよ。ちょっと誘ってあげれば、むしろ殿方の方がその気に———」
「だーかーらー! あたしとおじさんはそんなんじゃないの!」
「……おじさん?」
煽るように目を輝かせていた千代花の目が、すっと細くなる。
「あ、うん。その、仇名と言うか。まあホントにおじさんなんだけど」
「ホントにおじさんなんだ」
「おじさんだけど、若い方のおじさんだから!」
「あら、私は年の差も気にしませんよ。むしろ良いスパイスですし。よろしければ私もご一緒しましょうか?」
「……ご一緒って何を? なんか怖いんだけど」
千代花はその問いには答えず、そっと理沙の手を掴んで自分の隣に座らせる。
「理沙ちゃん、いいですか。私達の年頃で年上の殿方を落とすには、相手に言い訳を用意してあげるのが肝心なんです」
「……言い訳?」
「はい。道に外れることをする以上、殿方のタガを外すには自己正当化のプロセスが不可欠なの。要するに言い訳です。それにはまず———」
「待って待って! 道に外れること前提なの!? 普通じゃダメなの?」
千代花は人差し指をピンと立て、顎に当てる。そして本気で戸惑った様に首をかしげる。
「だって普通じゃ……ときめかないでしょ?」
「ときめくし! いや、おじさんにときめくとかそんな話じゃないけど!」
突っ込み疲れか、理沙は肩で息をつきながらグッタリうつむく。
「だからね。あたしはこう……恋をするにしても、ちゃんと時間をかけて心を通わせるというか、そんな感じが理想なの」
「あら、私と一緒ですね」
「あたし、千代花と一緒なの……?」
二人の友情に配慮でもしたのか。昼休み終了5分前の鐘が鳴る。
「そう言えば次の社会の時間、立夏に地図を運ぶの手伝ってって言われてたっけ」
理沙は伸びをしながら大儀そうに立ち上がる。
「あら、私も手伝いますわ」
「ううん、大丈夫。社会資料室、薄暗くて人気がないから。それじゃ、先行くね」
理沙は名残惜し気な友達を残して、足早に校舎に駆け込んだ。
と、そこには世界地図のタペストリーを抱えた少女が立ち尽くしている。
「立夏、ひょっとして一人で地図を取りに行ってくれたの?」
「そ、そうよ! だから聞きたくて聞いたわけじゃないからね!」
「……なにを?」
「だ、だから、その……」
顔を赤くして目を白黒させてる立夏の手から、地図の筒を受け取る。
「ごめんね、後はあたしが運ぶわ」
「ど、どういたしまして……理沙さん」
「……さん?」
友人の変わりように怪訝な視線を向ける理沙。
「なによその呼び方」
「だ、だって、ほら……あなた、おじさんと付き合ってるんでしょ?」
「……言い方。そして付き合って無いし」
全く、千代花あいてだと他愛もない恋バナをしただけで、こんな羽目になる。
「———それに恋バナでもないし」
「それってどういうこと? まさかおじさん相手に遊び———」
「だーかーらー! ただ構ってあげてるだけだって! 早くしないと授業始まるよ!」
足を速める理沙の後ろを、小さな身体でついていこうとする立夏。
「廊下を走っちゃ駄目だって! 理沙———さん!」
やあ (´・ω・`)
ようこそ、メスガキハウスへ。
今日のサービスは毛糸の靴下だ。趣味じゃないと思った人も、ちょっと待って欲しい。
この持ち主の眼鏡っ子は冷え性だから、恥ずかしいけど毛糸の靴下を履いてるんだ。でもある日、クラスの友達にお婆ちゃんみたいだとからかわれてしまうんだ。
すっかり落ち込む彼女に『その靴下、あなたと同じくらい可愛いし似合ってるわよ』と言って周りを黙らせてくれたクラスのちょっと怖いクール系女子とのストーリーはこの学園のどこかで進行中なのだけど、それはまた別の話。
君も眼鏡っ子の足で暖めたホットソックスを履いて、一週間の疲れを癒すといい。
さて、メスガキちゃんは千代花ちゃんを恋の師匠にするのは危険だと、ようやく気付きつつあるようだ。
でも、千代花ちゃんのどんな修羅場にでも笑顔で飛び込んでいく姿を見たとき、君はきっと自らの心の底に眠る分からせの波動を感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ち
を忘れないで欲しい、そう思ってメスガキちゃんとそのお友達は君達に素敵な笑顔を見せてくれたんだ。
じゃあ、バナー下からの応援・評価で、メスガキちゃんもお友達もまとめて分からせてもらおうか。
☆彡 ⊂( ´・ω・`)
千代花ちゃんは小5にして普通じゃワクワクしない身体になってしまいました。それはそれでおじさんもワクワクします。
明日の更新では、メスガキちゃんがアラサーさん宅でマッタリ回です。




