31日目 素直になれないお年頃
「私に相談……っすか?」
サビた手すりに肘を乗せ、恋川は俺に怪訝そうな目を向ける。
「ああ、若い女子の意見を聞きたくてな。何と言ってもお前、少し前まで大学生だったから女子力高いだろ」
「慧眼ですね。私ってかなりの女子力の持ち主ですから」
「お、頼りになるな」
「具体的にはサイバイマンくらいは楽勝っす」
恋川は少し自慢げに眉を上げる。鼻から煙を吐きながら。
「つまりヤムチャくらいの実力か」
「ヤムチャって最後はやられてたし、フラれてましたよね」
いかん、例えがちょっと悪かった。
「それで、私に何を聞きたいんすか?」
「なんつーか。昨日俺、誕生日でさ。社長の娘に手作りケーキをもらったんだ」
「はあ」
「で、実はあいつも先週誕生日だったって聞いて。お返しは何を上げればいいのかなーって」
しばらく黙っていた恋川は、酷くつまらなそうな表情で煙草の灰を落とす。
「なにって。普通にちょっとオシャレなお菓子とかあげればいいじゃないっすか」
「でもなんか、プレゼントとかあった方が良くないか?」
「冷静になってください。小学生女児の誕生日をガチる方が引かれますよ。主に親御さんに」
そういうものなのか。
いや……確かにそうだ。小学生にバッグや腕時計とか送ったら、なんか完全におかしな感じになる。
「ああ、コンビニで売ってるようなお菓子で大丈夫なのか」
「オシャレって言ってるじゃないっすか。デパ地下とかおスーパーの土産物コーナーで幾らでもありますよ」
その辺の線引きが良く分からんが、とにかく高いお菓子を贈ればいいということだろう。
俺の適当な考えを読まれたか、恋川が俺を不審気に見てくる。
「だからって、ゴディバの3段の奴とか贈ったら親御さんから呼び出し食らうっすよ。ほどほどに社交辞令の範囲内を探ってください」
「なんか難しいな。適当に一番高いの買っちゃ駄目なのか」
「……小学生相手に、お金で黙らせるのはどうかと思うっす」
なるほど、勉強になる。
小学生女児にお金でマウントを取ろうとしてはいけないらしい。
つーか、あいつの方が金を持ってそうだが。
「ちなみに私はバッグでもコートでも大歓迎です」
「まさかお前も誕生日近かったりしないだろな」
「8月っす。まだ間に合うっすよ」
「来年を期待しとけ」
なにはともあれ、良く分かった。
変に気負わず、ちょっとイイお菓子とか贈ればそれで良いのだ。
「じゃ、俺そろそろ戻るな」
ホッと納得した俺が戻ろうとすると、恋川は2本目の煙草に火を点ける。
「あー……主任の誕生日って昨日だったんすね」
「ああ。ついに大台に乗っちまった」
「これで晴れて三十路っすね」
「悪いが俺は行けるとこまでアラサーで押し通すぞ。20代の含みを持たせつつ、何年行けるか挑戦するんだよ」
「……往生際悪いっすね」
否定はしない。
でもほら、30代になる覚悟とかまだ出来てないし。数年かけて事実を受け止めないと……
「えーと、それでですね。主任の誕生日に関してですが」
恋川は風景を眺めたまま、言いにくそうにボソボソ呟く。
「どうした?」
「……こんなもんしか無いっすけど。どうぞ」
こちらも見ずにハイライトを一箱、俺の掌に落としてくる。
「お。悪いな、ありがと」
「たまたまポケットに入ってただけっすから」
「来年期待しとけ。三倍返ししてやる」
「……期待してるっす」
俺は軽く手を上げると、先に建物に戻る。
足早に廊下を歩きつつ、もらった煙草を手の中で弄ぶ。
……持ち合わせとはいえ、祝われるのは悪い気はしない。
そういや週末、実家から野菜ジュースやレトルト食品が送られてきてたよな。
不思議に思ってたが、あれってひょっとして……誕生日プレゼントだったのか?
今晩くらい、実家に電話をしてみるか。
そんなことを思いつつ煙草をしまおうとした俺の胸に、もう一つの違和感がよぎる。
そういやあいつ、なんで俺の吸ってる煙草持ってたんだ。
恋川はメンソールしか吸わないはずなのに———
「ははあ、さては……」
俺が吸ってるのを見て、こっちの煙草も気になったのだろう。言えばいつでも分けてやるのに。
女子ってのは妙なところで意地を張るものだ。
今日は一つ乙女心を勉強したな。
俺は鼻歌混じり、もらった煙草をポケットに滑り込ませた。
本日の分からせ:分からせられ……ノーコンテスト
恋川さん、実は奥手なのではないか疑惑です。大胆に迫った日の夜は、お風呂場で顔を半分沈めてブクブクしてたりするかもしれません。
そんな恋川さんとブクブクしたい人も、メスガキちゃんと背中の流しっこをしたい人もバナー下から★~★★★★★を投げて頂ければ幸いです。
きっと、メスガキちゃんが洗い髪をバスタオルで拭きながら『そんなに熱く見られるとドライヤーいらないかも♡』といちゃついてくれます。
この数年私は、ドライヤーをかけなくても髪がすぐ乾きます。何故だろう……地球が乾燥しているのかな……




