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28日目 ビッグではありません

 おなじみの店名を連呼する歌を聞きながら、俺は家電フロアに降り立った。


 久々に池袋まで出てきたのだ。買い物が済んだらブックオフでも行って、なにか上手い物でも食って帰ろう……


 俺は心のワクワクを押さえながらフロアガイドを見る。


「季節家電はこっちか。おい、早く行くぞ」

「ねえ、新しい冷蔵庫買おうよ。今の奴、全然中身が入らないじゃん」


 大型冷蔵庫に顔を突っ込んでいたメスガキは、期待するような視線を俺に送る。


「そんなでかい冷蔵庫なんて入らないって。つーか独り暮らしでそんなでかいの要らないだろ」

「それって誰か一緒に住んで欲しいってこと? うわ~、あたし口説かれてる♡」

「……分かった。お前置いてくぞ」

「待ってよ、いじわるー」


 メスガキが俺の後ろをちょこちょこと付いてくる。


 今日買い物に来たのは他でもない。

 最近寒くなってきたので、暖房器具を買いに来たのだ。


「ねえ、おじさんの部屋ってエアコンついてるでしょ? ストーブでも買うの」

「これだ。これを探しに来たんだ」

「電気……アンカ?」


 俺の指差す先、メスガキが目を細めて凝視する。 


「なにこれ。音楽でも出るの」

「電気で温まる湯たんぽだな。布団の中に入れとくとポカポカなんだ」


 最近、寝入りばなと夜明け頃がやたらと寒い。

 布団を増やすのと迷ったが、代謝の下がり始めた昨今、外から熱を供給するのが手っ取り早い。


「エアコンつけっぱなしだと喉に来るし。それにエアコンだと暑かったり寒かったりのリアルタイムに対応できないんだ。同じ室温でも、寒く感じてたのが5分後には暑く感じたりするだろ?」

「同意を求められても困るんだけど。おじさん自律神経壊れてない? 大丈夫?」


 大丈夫かどうかはともかく。

 これで今年の冬も超えられそうだ。


 電気あんかを抱えてレジに向かっていると、メスガキが俺の服をクイクイと引っ張ってくる。


「ねえ、この新生活セットとかどうかな。冷蔵庫も今より大きいし、洗濯機も乾燥機能付いてるよ」


 メスガキの視線の先、特設コーナーには家電のセット売りが並んでいる。

 独り暮らしに必要な家電をセットにしたのはよく見るが、こいつは———


「やけに豪華だな。50万超えてるんだが」

「貯めたお年玉を全投入すれば……」


 メスガキは真剣な目で値札を眺める。


「買うなって。それよりお前のお年玉凄いな」


 それにこれ、新婚生活スタートパックって書いてあるぞ。

 そんなもん買ってどうしようって言うんだ。


「でもほら……嫁入り道具というか。準備は早めの方が良くない?」

「嫁入り道具って、行けなかったらどうすんだよ」

「……行けるし。あたしモテモテだし」


 口を尖らせて、何故か床に落ちてた小石を蹴るメスガキ。

 ……こいつ、なんか拗ねたぞ。


 仕方ない。俺はメスガキの頭をポンポンしながら慰めの言葉をかける。


「とにかく、こういったセット売りっていつでもあるし、4月とかもっと安くなるから。その時また一緒に見に来てやるって」

「………ホント?」

「ホントホント。さあ、レジが混む前に行くぞ」


 やれやれ、乙女心は複雑だ。

 ちょっとしたことで曇るし、かと思えば簡単に笑顔になるし———


 ……あれ、メスガキどこ行った。

 振り向くと、何故かテンション高めに小さく飛び跳ねながら電話をかけている。


「あ、千代花ちゃん? あたしプロポーズされたかもっ!」


 っ!? こいつなに言ってんだっ!?


「少なくとも、もう秒読み———」


 俺はメスガキの手からスマホを奪い取る。


「すいません、あとでかけ直します!」


 問答無用、通話を切る。


「おじさん、突然なにするのよ!」

「それ、こっちのセリフだぞ!? 今言ってたチヨカって誰? 先生とかじゃないよな」

「友達だって。ほら、こういった大事な話って、一番の親友に話すものでしょ?」


 友達か……。

 親や先生に比べたらマシなのか。


「……念のため聞くが。友達の親御さんって、弁護士とか警察とかじゃないよな?」

「なに言ってるのよ。そんな犯罪者みたいな心配して」


 メスガキは笑いながら肩をトン、とぶつけて来る。


「千代花のお父さん、議員してるんだって」

「……議員?」


 なにそれ。区議会とか……まさか都議会の議員とか?

 頬を伝う汗。


「確か衆議院議員だって。二期目って言うから、次の選挙が大切とかなんか言ってたな」

「へえ……。それは凄いねえ……」


 国会議員の親持ちの友人。

 ……それってどう考えればいいのか。とりあえず次の選挙では対立候補に入れればいいのか……?


 気が付くと、俺は手に提げたカラフルな袋を眺めながらボンヤリと立ち尽くしていた。

 ……あれ、いつのまに会計済ませたんだっけ。ショックのあまり短期的に記憶が抜け落ちているようだ。


 顔を上げると、メスガキははしゃぎながら壁のポスターを指差している。


「ねえ、おじさん。上のフロアにゲームあるって。PS5買おうよ」

「そもそも売って無いし、初期ロットは避けろってのが新ハードの鉄則だ。1年くらい経って流通とソフトのラインナップが整ってから5chで評判を調べて———」

「長いよおじさん。抽選販売の受付中だって」

「———行こう」


 ……受付してるんだから仕方ない。

 エスカレーターでゲームフロアに登りながら、視界の正面に位置するストライプのニーソックスを無意識に眺める。


「お前、スカート短くない?」


 思わず口にすると、メスガキはしかめっ面をしながらスカートの後ろを押さえる。


「……エッチ」


 エッチ、か。

 女子にそんな風に言われたのって何年ぶりかなあ……


 セピア色の記憶を探りながら、俺はゲームフロアに降り立つ。

 10連敗中の抽選予約、今日こそ勝利してやる———



 そして、プロポーズの誤解を解いていないって気付いたのは———その晩、布団に入ってからのことである。



 本日の分からせ:分からせられ……80:20


 アラサーさん本人はやらかしたつもりでも、メスガキちゃん、内心は大変なことになっています。早く誤解を解かないと、ヒューマンドラマにジャンル変更の危機です。 

 そして次回アラサーさん、恋川さんに甘叱りされます。

 

 メスガキちゃん、追い込み漁のようにアラサーさんの逃げ場を塞ぎつつあります。

 そんなメスガキちゃんを大変なことにしちゃいたい人も、されちゃいたい人も是非★~★★★★★を投げて頂ければ幸いです。

 きっと、メスガキちゃんが『……プロポーズされたから仕方ないし。撤回不可だし』とか言いながら、ベッドの上、パジャマ姿で女の子座りをしてくれます。



 私は家では日中も寝るときもジャージで過ごしているので、パジャマってハイニーソと並ぶ萌えアイテムの気でいましたが、世間一般では違うようです。

 ……でも可愛い女の子のパジャマは萌えアイテムでいいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうとっくに本丸落城済みですよねこれは。 [一言] 女の子の部屋着がジャージだと、他のものを薦めたくなりますよね。
[良い点] ハードはしばし様子見、アラサーさんに同意…。 メスガキさんのポジティブがヤベェ具合で成長してる…。 [気になる点] …まさかヤンデレ化はしないですよね? [一言] このメスガキさんなら電…
[一言] パジャマはなかなかポイント高そうですが策士メスガキちゃんが彼シャツチャンスを逃すかどうか…… アラサーさんが気がついた時には同棲までもってかれそうですがそうなると忍び寄る警察の気配が……
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