19日目 君はメスガキなフレンズなんだね
どことなくソワソワする金曜日の午後。
16時も周り、今日の仕事もそろそろ折り返し地点だ。
本日3本目の缶コーヒーをすすりつつ、俺は曇り空を背に飛ぶカラスを眺めていた。
鳥か……
鳥は鳥で生存競争激しそうだし、生まれ変わるなら鳩かな。
鳩おじさんに上手く気に入られれば、食いっぱぐれも無いだろう。
転生に備えて、ハロワの近くの公園を確認しておかないと———
「ねえ、おじさんはスマホなに使ってるの?」
俺の有意義な物思いを破ったのは例のメスガキの声だ。
「なにって……何だっけな。auだな」
「違くて。機種は何使ってんの?」
「なんかiPhoneの古い奴。機種変しにいったとき在庫で安かったんだ」
……なんだこの、盛り上がらない合コンみたいな会話は。
「あたしとお揃いだね。それともワザと真似したとかー♡」
「日本人の4割がiPhoneだぜ。周りと被らない方が難しいだろ」
俺の塩対応で、避難階段の合コンはさらに盛り上がりを欠いていく。
さて、そろそろ仕事に戻るか。
「俺もう戻るぞ。お前も危ないから建物入れ」
「ちょっと待ってよ。お勧めのゲームとかあるからさ。おじさんに教えてあげようか」
「スマホじゃゲームやらないな。そんな時間ないし」
「じゃあさ、じゃあさ、携帯番号占いのページがあるから、ちょっとやってみない?」
「え……なにそれ怖い。それ、個人情報抜かれるだけだぞ?」
「大丈夫だよ。ちょっと日本語おかしいけど、国家安全認証ランクAAAとかいう真面目なサイトだから」
「いやそれ駄目だろ。そのページ開くなよ」
俺が扉を開けようとすると、メスガキが俺の服を掴んでくる。
「んー 違くてぇー」
……?
今日のメスガキはなんだかおかしい。いつもみたいにからかってこないし、何だかモジモジしているし。
「なんかあったのか? 悩みがあるなら、なんにもしないが話ぐらい聞くぞ」
「悩み? あ、そうそう! あたしのスマホが見つかんないの!」
「それ大変だろ。サポートセンターに電話するから、キャリア教えろ」
俺が電話をかけようとすると、またも服を掴んでくるメスガキ。
「いや……それが、ちょっと見当たらない程度で。鳴らしてもらえば出てくるくらいの見当たらなさなの。番号教えるから、鳴らしてくれない?」
最近のスマホは、失くし方もカスタマイズ可能なのか。
とはいえこんなところで言い争っても仕方ない。
言われるがままにスマホを鳴らすと、メスガキのランドセルから着信音が響く。
「あ、ランドセル入ってた」
「なんだ。すぐ見つかったじゃん」
無事解決、さて仕事に戻るか———
「ありがとね、探してくれて」
「礼を言われるほどのことじゃないって」
「そうね。おじさんいいことあったから、これでオアイコね♡」
スマホの画面をニヤニヤと眺めていたメスガキは、煽るように俺を見上げてくる。
「いいこと?」
「偶然とはいえ、あたしみたいな美女の連絡先をゲットしたんだもん。大事にしなさいよ♡」
「電話番号なら消したぞ」
俺の言葉にスマホを取り落としそうになるメスガキ。
「なんで?!」
「だってスマホ探すためにかけたんだ。消すのはマナーだろ」
「あんたがマナーとか言う……?」
こいつ、俺のことをどういう目で見てるんだ。
「そこはほら。おじさん世代の恋愛観って、愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないんでしょ? 恋愛に少しくらいわがままになってもいいと思うんだけど」
「それ流行ったのって俺がぎりぎり物心ついた頃だって。母親が夢中になってたの覚えてるし」
そしてお袋に構われようと、親父がB'zの稲葉の物真似をしてガチギレされたのを覚えている。だから真似るなら松本にしとけと言ったのに———
「それにさ、それに最近学校じゃ『恋は俺様、無法痴態』って漫画が流行ってるんだよ。少しくらい俺様じゃないと、これからの恋愛市場じゃ通用しないんだから」
「俺様が許されるのって、既に好意がマックスの間柄だけだぞ」
何故俺は小学生と恋愛トークをしてるのか。
そしてその漫画は子供は読まない方が良い。
無駄トークを繰り広げていると、ピコン、と画面に通知が出てくる。
LINEの友達申請だ。
「この……Lisaってのは、ひょっとしてお前か?」
メスガキは得意気な顔でふふんと笑う。
「そうよ。あたしから友達申請してもらえるなんて感謝しなさいよね———って、おじさん!? いま『拒否』のボタンを押そうとしなかった?!」
「え……だって、LINEとかあんまやんないし。ゲオの割引クーポン貰うくらいで」
「えっと……だから……あたしとLINE とか出来れば便利じゃない……? あたしが家に来る前に、エッチな本とか片付けられるし」
「そんな本持ってないぞ」
「じゃあこないだの漫画は何よ」
パラレルパラダイスのことか。
「あれは漫画の方が頭おかしいんだ。分かるだろ」
「分かるけど」
確かに突然押しかけられるのはちと困る。
電話番号はすでに漏れてるし、なにより住所どころか合鍵すらこいつの手の中だ。
それに最近、大家さんがやたらと俺に差し入れを持ってくるのだ。
下手にアポなし突撃されるよりは、LINEくらい教えてやった方が被害が少ないか……?
……背に腹は代えられない。
俺は覚悟を決めて『承認』ボタンを押す。
「ほら、承認してやったぞ。送るのは用がある時だけにしてくれよ」
「はーい、いい子にするよ♡」
メスガキは今日一番の笑顔を向けると、くるりと回れ右。扉を開く。
「それじゃ、あたしからの連絡待っててね♡」
「はいはい、それじゃまた今度」
俺は立ち去るメスガキを適当にあしらうと、煙草に火を点ける。
……さて、ようやく一人の静かな時間だ。
この時、連絡先を交換したことを心の底から後悔するのは———また別の話。
本日の分からせ:分からせられ……40:60
アラサーさん、軽い気持ちで個人情報をもらしてしまいました。この人、色々と脇が甘いようです。
明日からの週末。アラサーさんの分からせ無双にご期待ください。
そしてまだまだ『メスガキちゃんをわからせ隊』の隊員を募集中です!
是非是非、バナー下から★~★★★★★にて、メスガキちゃんを分からせてあげてください!
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私は、色々と諦めすぎて端末の壁紙は全て初期状態です。




