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13日目 カレーの隠し味

 シャワーを浴びて服も着替えた。俺は時計に目をやる。

 ……土曜日の14時過ぎ。


 先週末は昼過ぎにメスガキの襲撃を受けたのを思い出す。

 流石に今日は来ないみたいだ。俺はホッと胸を撫で下ろす。


 遊びたい盛りの小学生だ。

 毎週のようにアラサー男のアパートに押しかけてくるとかある訳無いし、先週のはちょっとした気まぐれに違いない。


 ……でも一応、ドアチェーンかけとくか。

 玄関に近付いた瞬間、ガチャガチャと鍵が回る音と同時に扉が開く。


「おじさーん♡ 寂しいと思って———」


 ハイテンションで飛び込んでくるメスガキ。

 思いがけず鉢合わせた俺達は、思わず無言で立ち尽くす。


「……お前、また来たのか」

「えっ!? なになに、玄関であたしを待ってたとか? ホント?」

「嘘だ。たまたまだ、たまたま」


 ……嗚呼、最悪なタイミングだ。


 しかしメスガキは完全に勘違いしてやがる。

 いつも以上のニマニマ顔で、俺をメッチャ見てくる。


「えー、朝からワンちゃんみたいにあたしを待ってたんだ~♡ きゃー、あたし愛されてる♡ おじさん、お手する?」

「しないし。上がるんなら玄関閉めなさい」


 ああもう、せっかく今日は課長がゴルフでテレワーク無しだったのに。

 徹夜明けで出かける元気もないし、溜まったテレビの録画を消費しながら、ダラダラ過ごす予定が———


「……いや、大丈夫だな」


 うん、全然大丈夫。メスガキには勝手に宿題でもゲームでもさせときゃいいし。


「冷蔵庫にジュースあるから勝手に飲んでいいぞ。それとだ。ちゃんと親にはここに来る許可取ってるんだろうな」


 メスガキは、スン——とすまし顔になると、小さく頷く。


「……もちろんだよ」


 ……なんか不安だ。

 それに不安の種がもう一つ。なんかエコバッグから人参が覗いている。


「で、なんで人参持ってるんだ。お使いの帰りか?」

「ノンノン。今日は天涯孤独のおじさんに、カレーを作りに来てあげました! はい、喜んでいいんだよ!」


 天涯孤独じゃないし、アラサーだからおじさんじゃないし。

 そもそもなんで突然カレーなんだ———って、ああもう、ツッコミが追い付かない。


「カレーって……お前、夕飯まで食ってくつもりか? 親にはホントにちゃんと言ってるんだろうな」

「冷蔵庫借りるねー。ねえ、おじさんちはカレーの肉は角切り派? 薄切り派?」

「肉? んー、うちはちくわが多かったかな」

「ちくわ……?」


 しゃがんで冷蔵庫を覗いていたメスガキが、驚きの表情で振り返る。


「普通にお肉の方が美味しくない? ちくわにする意味はどこにあるの?」

「本当に聞くのか? 捨てられたおはぎ並みの悲しいエピソードが目白押しだぞ」

「……分かんないけどやめとく」


 冷蔵庫に食材を入れるメスガキの手元を見ると、高そうな牛肉の角切り。

 なるほど、ちくわをカレーに入れてる場合じゃない。


「それ、買ってきたのか? 前も言ったけど、金は払うぞ」

「家にあった材料持って来たんだよ。それならいいでしょ?」

「それならまあいいけど」


 よくよく考えれば、手作り料理がカレーというのも小学生らしくて可愛いもんだ。

 子供ってカレーとハンバーグが好きだしな。


「お前もカレーが好きなんだな。やっぱ子供はカレーだよな」

「んー、普通かな。特に好きって訳じゃないけど」

「え? じゃあなんでカレーを」

「おじさんち、調理器具が包丁と鍋とフライパンしかないじゃん。調味料も醤油しかないし。カレーくらいしか作れないよ」


 ……子供らしくて可愛らしいのは俺の生活力だった。


 メスガキはほどほどに危なっかしい手付きで、人参とジャガイモの皮を剥き始める。


「なんか手伝おうか? 俺も結構出来るんだぜ」

「この台所見て俄かに信じらん無いんだけど」


 確かにこの数年、包丁で皮を剥いたりしたことは無いが。いい年だし、何となく出来るようになってんじゃないかと思う。


 ……あーでも、うちの包丁切れないよな。苦戦しているメスガキをハラハラ見守っていると、いつの間にか大きな目が俺を見つめ返している。


「一人で寂しいのは分かるけど。大人しく待っててね、おじさん♡」

「寂しくはないが、気をつけろよ」


 これ以上構ってたら何を言われるか分からない。


 さて、週末らしく録画してたタモリ倶楽部を消化することにするか。

 台所の様子を伺いながら、例のオープニングを眺めていると、小さく悲鳴が聞こえてくる。


「どうした? なんかあったか」

「……ゴメン、ちょっと指切っちゃって」


 見ればメスガキの人差し指、血がジワリと滲み出している。


「包丁置いて。救急箱持ってくるから——」

「……うん」


 と、何故かメスガキは目を瞑り、顔を赤くしながら指を突き出してくる。


「……何してんだ?」

「え? こういう時って、傷口を口で」

「なに言ってんだ。消毒液と絆創膏持ってくるから水で洗って傷口押さえてろ」


 ティッシュを渡すと俺は救急箱を持ってくる。

 胃薬とウコン以外、久しぶりの活躍である。


「……これで良し。もう痛くないか?」

「あ、ありがと」


 絆創膏を貼った指を胸に、流石にしおらしい態度を見せるメスガキ。

 

「ごめんね、夕飯の支度続けるから——」


 立ち上がろうとするメスガキの頭に手を置くと、俺が入れ替わりに立ち上がる。


「ありがとな。ここまでやってくれたんだ。残りは俺にやらせてくれ」

「……うん」


 こくりと頷くメスガキ。こいつもいつもこんな感じなら可愛い奴なのに。


 さて、ここは大人らしいところを見せてやるか。

 台所に立った俺が奮戦していると、メスガキが俺の手元を覗き込んでくる。


「ちょっとおじさん、包丁の向き逆だって。危ないでしょ」

「え? ああ、そうだな」

「ほら指の位置! ちくわじゃなくて自分の指でも入れるつもり?」

「ああ、気を付けるって」

「包丁じゃなくてジャガイモの方を回す感じで。ねえ、タマネギ切るときはちゃんと換気扇回しなさいって」


 ……こいつ。


「ねえ、おじさん。料理は片付けと並行してやるんだよ。ゴミはこまめに固めて」


 …………こいつ。

 前々から気付いてはいたが、スゲエやかましい。


「ここって燃えるゴミの日はいつ? 場合によっては冷蔵庫に生ごみしまって——」

「……うざい」


 思わずポツリと呟く。


「……は?」


 あ、ヤバイ。聞こえてた。

 メスガキがジト目で俺を見上げてくる。


「あれぇ? あたしの身体を傷物にしといてそんなこと言うの?」

「傷物って、人聞きが悪いこというなよ」

「あたし、初めてだったのに……こんなに血が出るまで頑張ったのに、そんな冷たいこと言うんだー♡」

「ま、待て、窓開いてるって!」


 なんという言い草。このセリフを聞かれたら、俺の社会的生命は絶たれること必須である。


「だから、誤解を招く言い方すんなって。いいか? 変なことここでは言うなよ? もちろん外でもだ」

「つまりママには内緒ってこと? いいよ♡ あたしとおじさんだけのひ・み・つ、だね♡」


 メスガキは指の先で俺の鼻をつつくと、鼻歌混じり、クルリと身をひるがえして部屋に戻る。

 テレビから流れてくるPS4の起動音を聞きながら、俺はコンロに火をつける。


 ……さっさと牛丼でも食いに出かければよかった。

 後悔先に立たずである。



 本日の分からせ:分からせられ……70:30


 アラサーさん、怪我をした小娘にちょっと優しくしたらこんな目にあいました。

 次回、メスガキの手は意外と長くて広かった。


 そしてこちらにおいでのわからせ紳士の方にお願いです。

 最近ちょっとほだされ気味のアラサーさんに代わって、メスガキちゃんをしっとりとわからせてくれるかたは、バナー下から★~★★★★★のクリックを是非お願いいたします。


 わからせられたい人も、メスガキちゃんに★マークをお捧げ頂ければ幸いです。

 きっと、疲れて帰るとメスガキちゃんが極甘口カレーを作って待っていてくれます。指に絆創膏を沢山貼っているのを隠しているのが可愛いです。


 ちなみにコンビニ弁当を『女の子が作ってくれた』という妄想設定で食べてみましたが、悲しいばかりで良いことはありませんでした。みなさんもやめた方がいいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] クソリプかまします。 竹輪より肉の方が安くないですか? 鶏胸肉や挽肉は100gあたり、竹輪などの加工食品より安いイメージあります。 あ、本編面白いです。
[一言] すっかり通い妻ムーヴが板についてきたメスガキちゃんの巻 嘘みたいだろ?我が家はチャーハンにちくわが入ってたんだぜ… メスガキちゃんが指ちゅぱしてくれるなら喜んで包丁持ちますw
[一言] ピーラーは用意しとかないとあかん。こんなこともあるし。まあ、まだまだ時間はあるから、上達もすることでしょう。 しかし、ママには内緒でも、パパには??? うちの奥さん、前に何度かちくわ入りの…
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