12日目 私立高千穂女学院初等部
風に吹かれた黄色いポプラの葉が、理沙の前髪に絡む。
指先で摘まんで捨てると、渡り廊下を歩む足を速める。
「理沙姉さま、ごきげんようです!」
すれ違う制服姿の下級生が、頭をぺこりと下げる。
「はい、ごきげんよう。気を付けて帰るのよ」
「はーい!」
帽子を押さえながら駆け出す制服姿を懐かしく見送る。
この学校では高学年は私服だ。
淑女たるもの、自分の服装に気を配るのも勉強の内———とのことだが。本当のところはどうなのだか。
理沙は周りに目配せすると、スマホの待ち受けを眺める。
……煙草をくわえた男が、横目でこちらを迷惑そうに見下ろしている。
「今日はどうやってからかってやろうかなー♡」
思わずにやけそうになる口元を抑えていると、背後から柔らかい腕が彼女に回される。
「理ー沙ちゃんっ♡ 一緒に帰りませんか♡」
「うわっ、千代花。急に抱きつかないでって言ったでしょ」
後ろから抱きついてきたのは友人の千代花。
やたら距離が近いのが玉に瑕だが、学校で一番の仲良しである。
「理沙ちゃん、さっきからなにをニコニコしているのですか?」
「別に。なんでもないし」
理沙はさりげなくスマホをポケットに滑り込ませる。
「ひょっとして今日のテストが良かったとか。やっぱり理沙ちゃん、なにをしても完璧です」
「いや……悪かったよ。うん、悪かった」
理沙はガクリと肩を落とす。
「そういうあんたは楽しそうね。なんかいいことあった?」
「はい、理沙ちゃん聞いてくださいな」
千代花は服の下から、雑誌の表紙をチラリと見せる。
「今月の『プチ♡ティーン』、買ってきましたの。一緒に読みませんか?」
「……あんたまた、そんなの買ってきたの?」
呆れたように言いながらも、理沙は服の膨らみを思わず見つめる。
プチ♡ティーンは、『プチット♡ガールの恋のバイブル』との触れ込みで、一部女子に人気の情報誌だ。
「先生に見つかったら面倒よ。それって……ほら……ちょっと……エ、エ……エチ……」
顔を赤くして口ごもる理沙に向かって、千代花はあどけない顔に大人びた笑みを浮かべる。
「……エッチ?」
「そ、そうよ! そういった記事があるじゃない。学校に持ち込むなんてどうかしてるわ」
「今月のはちゃんと真面目な記事ですよ。ほら、気になる殿方を振り向かせる恋のテクニックですって」
「振り向かせる……?」
理沙の顔に興味の色が浮かんだのを確認すると、千代花は舌の先で唇を湿らせる。
「今回の特集は『この秋は大和撫子の色気で、気になる彼を落としちゃえ』ですって。気になりません?」
「そんなの嘘よ。先月号は『小悪魔ムーブで生意気男子もメロメロに』って記事だったじゃない。全然効果なんて———」
「あら、試したんですか」
「———っ!」
思わずむせて咳き込む理沙の背中を、撫で回すようにさする千代花。
「あ、ありがと」
「どうしたんですか。急にそんな慌てて」
「だっ、だから、今月号のその記事も当てにならないってこと」
「でも隣のクラスの陽菜さん、これを使って家庭教師の先生とお近づきになれたって話ですよ」
「……ホント?」
理沙の表情が真剣味を帯びる。
千代花は無言でこくりと頷いた。
「家庭教師ってことは多分……大学生でしょう? 素敵ですわ、どんなお付き合いをするんでしょうか」
「大学生? それって随分———」
理沙は眉をしかめる。
「———若いわね」「———大人ですわ」
期せずしてハモる二人。
「……理沙ちゃん?」
理沙は目を逸らすと、コホンと可愛く咳払い。
「そ、それはそうと。陽菜が上手く行ったって記事、少しだけ読んであげてもいいわ。その、後学のために」
「……そう言うと思いました」
千代花は怪しく微笑むと、理沙の手を握る。
「千代花?」
「じゃあ私のお家にいらしませんか? ね、一緒に読みましょ♡」
「え、でも。千代花んちって青山の方でしょ。遅くなっちゃうよ」
「ハイヤーを出させますわ。ねえ、今日はお母様も遅いから安心してください」
「……え? なんであんたのママが遅いと安心なの?」
千代花は掴んだ指を絡めると、頬ずりするように顔を寄せて来る。
「ちょ、ちょっとあんた、近……」
「もっと素敵な本も……いっぱいあるんですよ? 理沙ちゃん、恋の“お勉強”に興味がおありでしたら———」
「ちょっと待って! きょ、今日はテスト悪かったから帰って勉強しないと! ほら、うちのママ厳しいし!」
理沙は強引に身体を引き離すと、ずり落ちたランドセルを担ぎ直す。
「それじゃ、あたしもう行くから! またね、千代花」
「はい……お気を付けて」
名残惜し気に手を振る千代花に手を振り返すと、理沙は校門に向かって駆けだした。
———クラスメートの百合園千代花。
時折なんだか目が怖いが、理沙の一番の仲良し……のはずである。
やあ (´・ω・`)
ようこそ、メスガキハウスへ。
このニーソックスはサービスだから、まず履いて落ち着いて欲しい。
うん、今回アラサーさんは登場しないんだ。済まない。
ラブコメなのに主人公が登場しないなんてどうかと思う。
でも、初めてメスガキちゃんの百合を見たとき、君はきっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってメスガキちゃんの普段の姿を紹介させてもらったんだ。
じゃあ、バナー下からの応援・評価で、メスガキちゃんをわからせてもらおうか。
★彡⊂( ´・ω・`)
……今回はメスガキちゃんの学園生活をお届けしました。
一番仲良しのお友達は、何故かメスガキちゃんをわからせようとしてくる危険人物です。
私も千代花ちゃんに分からせてほしいです。(直球)
今晩の更新では、アラサーさんがいつも通りにメスガキちゃんを分からせます。
ブクマ、バナー下からの応援・評価で、メスガキちゃんと千代花ちゃんに愛の手をお願いします!