11日目 給食残酷物語
今晩も感謝の気持ちで11.5日目、投稿いたします!
非常階段も夕方になるとすっかり冷える。
俺は冷め始めた缶コーヒーをあおると、メスガキに小袋を差し出す。
「これ貰ったんだけど、お前いるか?」
「ん、なにこれ」
小袋を受け取ったメスガキは難しそうな顔でそれを見る。
「ミルメーク……?」
「ああ、なんか箱買いした奴が周りに配っててさ。俺、家では牛乳とか飲まないし」
「これ溶かすと牛乳になるの? 脱脂粉乳てやつ?」
「違うって。牛乳に溶かすと、ココア味とかになるんだよ。給食に出ないのか?」
「うちの給食、契約のレストランが作ってるからこういうのは無いかな。基本、手作りだし」
契約のレストラン……?
給食の話をしたはずが、なぜそんな単語が返ってくるのか。
「給食って市の給食センターで作ってるんじゃないのか?」
「おじさんの地元の事情は知らんし。あれでしょ。給食のおばちゃんがいるんでしょ? テレビで見た」
「お前の所にもいるだろ……いるよな……?」
「割烹着とか着てないし。レストランの人、カフェの店員さんみたいな格好してるよ」
給食というより、それもうカフェじゃん。金持ちの小学生、そんな昼飯食ってるのか。
「待てよ。じゃあソフト麺とか出てこないのか? 一度くらい食っとけよ」
「ソフト麺? 麺ってそもそも柔らかいでしょ。なに、脱アルデンテってこと?」
「それとは違くて。伸びてやわやわのスパゲッティとうどんの合いの子みたいな奴で……トマト味の良く分からないスープとかでほぐしながら食べる……そんな感じの食い物だ」
「話聞いた限りでは全然美味しそうに思えないんだけど。おじさんたちの時代には美味しかったの?」
「いや、当時からそんなに美味しくなかった。あれが好きって奴、聞いたこと無いし」
「……なんでそんなもの、あたしに食べさせたがるのよ」
だってあの不思議な食べ物、次の世代にも伝えたいじゃん。
「じゃあ揚げパンなんて出てこないよな」
「あ、それなら漫画で読んだことある! あれって何、カレーパンみたいなの?」
「んー、ちょっと違うかな。コッペパンを揚げて、甘いココアパウダーとかをまぶしてあるんだ」
そういや、コッペパンって揚げパン以外で食ったこと無いな。
スーパーにあるのもバターロールだし。
「なんかココア率高くない? おじさんの時代、甘いのってそれしかなかったの?」
「馬鹿言え。ココアの他にもきな粉とか黒糖味とか、洒落た味は沢山あるんだぞ」
「……ごめん、素でジェネレーションギャップ感じてるんだけど。キャラメルとかメイプルとかなかったの?」
「キャラメルって歯の詰め物とか取れるし。学校ではお菓子出ないだろ?」
何気ない俺の言葉に、メスガキは憐れむような視線を向けてくる。
「……最近はキャラメルはお菓子よりも味付けの一つよ。おじさんの頃はあれでしょ。玩具とか無い時代だから、おまけ付きのキャラメルが流行ってたんでしょ」
「それ、どちらかと言うと昭和だって。俺はこう見えて平成生まれだぜ」
「20世紀人は全部一緒よ」
俺のドヤリを一蹴するメスガキ。
……これは旗色が悪い。俺は話題を微妙にずらす。
「そもそもお前んとこの給食、今日は何が出て来たんだ」
「なんだっけ。スズキのポアレに秋野菜添えた奴と、そら豆のポタージュスープ。パプリカと鶏肉のトマトソース煮と、全粒粉パンにデザートだったかな。あと牛乳」
そんなんでも牛乳は付くんだな。
しかし金持ちの給食ってそんなんなのか。
「俺の昼飯、カップ麺とおにぎりだったんだけど」
「知らないわよ。開放日にうちの学校、食べにくる?」
……開放日。ちょっと気になるな。
小中高と公立だった俺にとっては異世界も同然だ。
「でも何の立場で行くんだよ。父親の会社の従業員?」
「んー、お兄さんは無理あるし親戚のおじさんかな。ちょっと練習しよっか?」
「しないし行かないぞ? 俺、実際にはフリーのおっさんだからな。おっさん違うけど」
「えー、来てくれないなんて、あたし寂しいなー……お・じ・さ・ま♡」
メスガキはからかうように俺の腕を指先でなぞってくる。
どこでそんなの覚えた。
「やめなさい。子供がそんなことしちゃいけません」
「だって、パパにあんたのことよろしく頼むって言われたし♡」
「逆だろ。こら、腕にしがみ付くなって」
「無邪気な子供のじゃれつきよ。あれ~、ひょっとして意識しちゃってる? パパにあたしを下さいとか言っちゃったりして♡ どーしよっかなー♡」
「だからからかうなって。ほら、今度揚げパン買ってきてやるから放せって」
「ホント? じゃあ、あたしココア味!」
なんかやたら喰いつきがいいぞ。
金持ち学校の小娘も、漫画で見たB級グルメが気になるということか。
「任せとけ。ソフト麺もいるか?」
俺のサービス発言に、メスガキはすまし顔で首を横に振る。
「それはいらない」
本日の分からせ:分からせられ……50:50
アラサーさん、年代差以上に貧富の差を思い知らされました。
次回、アラサーさん、メスガキちゃんの恥ずかしいとこ見ちゃいます。
そして、ブクマやバナー下からの★~★★★★★で、メスガキちゃんを程よく分からせてくれる“メスガキわからせ屋”の皆様を募集しております。
我こそはと思う方は、メスガキちゃんを熱い眼差しでわからせてやってください。
わからせられたい人も、メスガキちゃんに★マークをお捧げ頂ければ幸いです。きっと、メスガキちゃんが「人参キラーイ♡ はい、あーん♡」と言って、食べかけの野菜をあなたに食べさせてくれます。
ちなみに私も、ご飯を食べるだけで「残さず食べられたね、えらいえらい♡」とメスガキちゃんに褒められる世界に転生したいです。