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10日目 喫煙室のラスボスさん

 俺は煙草に火を点けると、大きく煙を肺に入れる。


 低く唸る換気扇の音。


 今日は朝から風と雨が酷い。

 久々に訪れた喫煙室は珍しく誰もいない。


 煙草を半分ほど灰にした頃。喫煙室の扉が開いた。

 視界の端に映るスーツ姿を、見もせずに軽く会釈。

 

「君も紙巻き煙草か。最近は電子に押されて肩身が狭いね」

「はあ……そうですね」

 

 こいつ誰だっけ。年齢は俺より一回り以上は上で、3ピースの高そうなスーツの男。

 確か———弊社の社長だ。


「……どうもお疲れ様です」


 昼間は営業で大抵会社にいないし、夜は夜で接待で会社にいない。

 中々のレアキャラである。


「君は確か開発二課だったかな。どうかな、最近の様子は」

「まあ……そうっすね。主任の百々瀬が倒れたんでちょっとバタバタしてます」


 このくらいは言っても良かろう。

 俺は長く伸びた灰を灰皿に落とす。


「彼も奥さんがいたはずだな。二課の増員、検討しておくよ」

「はあ……よろしくお願いします」


 意外だな。この人、下っ端社員をちゃんと覚えているのか。

 とはいえ、社員100人以下のこの会社。採用の合否もこの社長が決めているらしいし、そんなもんなのかもしらんが。


 ……さて、なんか気まずいし仕事に戻るとするか。

 最後の一息を吸うと、灰皿で火を消す。


「それではお先に———」

「———最近、開発二課に娘がお世話になっているようだね」


 扉に伸ばした手が止まる。


「えー、まあ、はい。お嬢さん、いつも我々に差し入れとかしてくれますんで」

「おや。いつも焼いてるクッキーは君たちの所に来てたのか」


 社長は笑いながらマルボロの箱を差し出してくる。


「一本どうだい。私はこの味が好きでね」

「あ、はい。いただきます……」


 この話の流れは断れない。

 しばらくは探るような時間が続く。マルボロの風味を舌で味わいつつ、恐る恐る様子を窺う。


「私も妻も仕事が忙しくてね。寂しさにこの会社に出入りしているのは知っていたが。迷惑はかけていないかい?」

「はあ……まあ、みんなも雰囲気が変わって喜んでますし」


 特に約一名、生きがいにしてる奴もいるし。


「それなら良かった。それに娘の話によると、最近お気に入りの社員が出来たようでね」

「えっ……ああ、その、そうですか……」


 まさか俺のことじゃないだろうな。

 指が震えて灰がズボンに落ちる。

 

 ……待て、俺は何も悪いことしてないぞ。

 週末、俺のアパートに勝手に小娘が来てゲームをしてるだけで———


「……完全にアウトだ」

「ん? 何か言ったかね」

「いえいえ、全然! とても良くできたお嬢さんですね、はい!」

「そう褒められると照れるな。とはいえ大事な一人娘でまだ小学生だからね。勿論、“お気に入りの誰か”のことは信用しているよ」


 社長は煙草を灰皿にねじ込むと、俺の社員証をじっと見つめる。


「あの、社長……俺の社員証に何か?」

「いやね、その社員の名前が確か———」

「パパ! パパ、パパ、パパーッ!」


 この雰囲気をぶち破る甲高い声が喫煙室に響き渡る。

 小さな黄色い影が社長に飛びついた。


「パパ、捕まえたっ!」

「おや、捕まっちゃったな。これは参った」

 

 現れたのは他でもないメスガキ———いや、社長令嬢だ。

 

「もう逃げられないよ。ねえ、今日ご飯一緒に食べ行けるんだよね!」

「ああ、今晩の会食が急にキャンセルになったからね。何でも好きなもの言ってごらん」

「なんでもいいの? ホント?」

「ああ、フレンチでもお寿司でも何でもいいぞ」


 俺のガキの頃は、マックかガストの二択だったが。

 社長令嬢は目をキラキラと輝かせ、抱きついた父親の顔を見上げる。


「じゃあ……ラーメン!」

「ラーメン? そんなのでいいのか?」

「うん! あのね、理沙ね、こないだ食べに行ったラーメン屋が美味しかったから、パパにも食べて欲し……く……て………」


 言葉の最後が換気扇に吸い込まれるように消えていく。

 俺の姿にようやく気付いたらしい。


 ポーズボタンを押したかのように固まる小娘。


「あ、あんた何やってんの……?」

「だってここ、職場の喫煙所だし」

「———っ!」


 社長令嬢、顔どころか耳まで真っ赤。足をバタバタ踏み鳴らしながら、父親の胸に顔を埋めている。


 ……武士の情け。ここはそっとしておいてやろう。

 俺は煙草を消すと、無言でその場を去ろうとする。


「ちょっと待ちなさい。田中君、だったね」

「……え。あ、はい……」


 社長はダンディな笑顔で頷いた。


「娘のこと、今後もよろしく頼むよ」

「……へ?」

「くれぐれも……間違いが起こらないよう、気に掛けてやってくれ」


 もう何も言葉が出ない。俺は無言でコクコクと頷いた。

 小娘は抗議するように口を尖らせ、俺を指差す。


「パパ! あたしがこいつを世話してやってんだって!」

「分かった分かった。後で話を聞かせてくれないか。……色々と」


 ……余計なことは言わないでくださいよ、お嬢様。

 本日の分からせ:分からせられ……20:80


 アラサーさん、両親公認ムード。逃げ道が塞がれつつあります。

 今晩、これまでジャンル別ランキング表紙に乗せていただいたお礼の気持ちで、10.5日目投稿です。


 そして皆様にお願いです。

 ブクマやバナー下からの★~★★★★★で、メスガキちゃんをこってりと分からせてくれる紳士淑女の皆様を探しております。

 我こそはと思う方は、念入りにメスガキちゃんをわからせてやってください。


 わからせられたい人も、メスガキちゃんに★マークをお捧げ頂ければ幸いです。きっと、メスガキちゃんが可愛くご飯をおねだりしてくれます。


 私はなけなしのお金をメスガキちゃんに渡したけど足りなくて、『甲斐性無しの貧乏人』となじられた後に、『でも好き♡』って言って欲しいのです。誰にお金を払えばいいのでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 覚えられた…w 今後メスガキちゃんに打ち勝てるのかなぁ
[一言] もう、アラサーさんが勝てる未来が見えねぇw
[良い点] ついにお父様直々にお願いされちゃったね♪ [一言] お金は私が預かりましょう。 私で良ければなじりますけど…?
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