8.5日目 非常階段で捕まえて
夕暮れ時の非常階段。
きしむ音と共に、重い鉄扉がゆっくり開く。
扉の裏からメスガキがひょこりと顔を出した。
「……良く来たな」
「なによ、こんなところに呼び出して」
「中に風が入るから扉閉めてくれないか」
「あ、うん」
素直に扉を閉じたメスガキは、後ろ手にちょこちょこと俺の前に歩み寄る。
「……なによ改まって。あたしに話でもあるっての?」
「ああ、実はだな———」
話を切り出そうとした矢先。
メスガキは俺に見せ付けるように防犯ブザーを取り出した。
「……待て。お前、何のつもりだ?」
「それはこっちのセリフよ! あ、あたしと密着して変な気になったんじゃないでしょうね?! 物事には順序ってもんが———」
……なに言ってんだこいつ。
俺は咳ばらいをすると、真剣な顔でメスガキに向き合う。
「いいから落ち着けって。改めてお前に言わなきゃならないことがある」
「え? は、はい!」
流石に俺の真剣な態度に何かを感じたか。
背筋を伸ばし、ぴんと立つメスガキ。
「総務課、開発一課、二課の女性社員合同で声明が発表された」
「……は?」
「俺はお前を膝の上に乗せて働くのは止めろ……とのことだ」
長い沈黙。
メスガキといえども、やはりショックだったのか。
握り締めた拳がフルフルと震えだす。
「ほら、これが声明文。公序良俗に反する行為だそうだ」
「……あんたでしょ」
「はい?」
「女子社員に変態扱いされてるのはおじさんだけじゃん! あたしはこれからも乗るからね」
「いやなんでだよ」
荒れるメスガキに俺はチュッパチャップスを差し出す。
「アメを食え。そして話を聞いてくれ」
「アメはもらうし。話は聞くかは分からんし」
メスガキがアメを口に入れたのを見計らって、俺はもう一度声明文を差し出す。
「ほら。みんなが忙しく働いてるところに、女児を膝に乗せて働いてる主任がいたら、皆のモチベーションが下がるんだ。分かるだろ?」
「分からんし。つまり、あんたが働かなきゃワンチャンあるんじゃない?」
……なにその素敵チャンス。
このメスガキを構ってるだけで働かなくても良いだと……?
「いや、一瞬その気になったぞ。働かないとワンチャンどころかクビになるだろ」
「あたしが社長になるまで待ちなさいよ。秘書かなんかで使ってあげるわ」
「お前が社長になる頃、俺定年過ぎてるって」
メスガキはチュッパチャップスを舌の先で舐めながら、挑発するような表情をして見せる。
「あのね、男が働いて女が家に居るなんて古いの。あたしが雇ってあげるまで、おじさんが家を守ってればいいじゃない」
「マジか。俺、独身だけど家を守ってていいのか?」
「いや、先に守る家庭を手に入れなさいよ」
なんという正論。
助けも来ないのに籠城戦をしていても餓死するのみということだ。
「そ、それにさ……父親が仕事辞めて子育てするってのもいいんじゃない? あたしそういうの理解ある方だし」
何故かうつむきながらモソモソとそんなこと言い出すメスガキ。
こいつに理解があっても、俺の嫁(仮)に理解がなければ意味は無い。
「俺、子育てどころか結婚の予定もないぞ」
「だ、だから……あたしが大学卒業するころには、あんたアラフォーでしょ? パパは仕事より遊ぶのが好きだから会長職とかに追いやって、数年後にはあたしが社長。まだ遅くないわ」
「お前に雇われるまで俺、どうやって食ってくんだよ……」
それにこいつの秘書とかブラック間違いなしだ。
このハゲー、とか言われないだろうな……
「とにかく俺をこれ以上針のムシロに座らせないでくれ。お局様に嫌われると辛いんだぞ? 割とこれ、現在進行形だからな」
「じゃあ、あたしが交代で女子社員の膝にも乗ればいいじゃない! あたしが公序良俗に反してないってこと、分からせてやるわ」
「ローテーションで女児が膝に乗るって、どんな会社だよ。いいか、遊びに来てもいいけど仕事は邪魔しない。それはちゃんと守りなさい」
「うー」
まだもむくれるメスガキの頭をポンポンと叩いてやる。
「な? それさえ守れば構ってやるから」
「……そんなんじゃごまかされないし」
メスガキは俺の手を両手でつかむと、自分の頭にギュッと押し付ける。
「……罰として百回撫でろ」
「いいけどハゲるぞ?」
俺の言葉にメスガキは歯を見せてニカリと笑う。
「ふーん、じゃあおじさんとお揃いだね♡」
「俺ハゲてないし。……ないよな?」
何故かここでメスガキが天使のスマイル。
「安心して。あたし、ハゲとか気にしないよ♡」
……だから俺ハゲてないし。
本日の分からせ:分からせられ……70:30
アラサーさん、この後、手首が痛くなるほど頭を撫でさせられたようです。
次回、メスガキちゃんの可愛い所が出ちゃいます。
そして! 皆様のご支援及び“たぐいまれなる大人のわからせ力”によって、現実世界〔恋愛〕日間2位に浮上しました! ただひたすらに感謝です!
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ちなみに私は、メスガキちゃんに頭を撫でられて抜け毛の多さをリアルな感じで心配されたいです。




