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8日目 膝の上の指定席

 ……週の初めから、なかなかにコッテリした打ち合わせだった。

 すっかり冷えたコーヒーを啜りながら部屋に戻ると、隣の席の高橋が息せき切って駆け寄ってくる。


「どうした高橋。なんかあったのか」

「たっ、田中主任! 主任の席に、席にっ……てっ、天使が!」

「……は?」


 ヤバイ、ついに高橋も壊れたか。

 まずはこいつを病院に連れていくとして、納期はどうしよう。


 久々に鳴り響くデスマーチを予感しつつ自分の席に戻ると、そこには天使……ではなく、例のメスガキが問題集を広げてシャーペンを走らせている。


「お前、なにやってんだ」

「お疲れさん。なにって今日、雨降ってんじゃん。非常階段濡れるから、ここで宿題してんの」

「ほお、それはそれは」


 俺はメスガキの脇の下に手を差し入れると、持ち上げて椅子からどかせる。


「お前は社長室とか、空いてるとこ使え」

「……えっ? 何であんた躊躇なしでボディタッチしてんの?」

「だって邪魔だし」


 さて、今日ももうひと頑張りだ。

 離席中のメールのチェックをしていると、メスガキがトスンと座ってきた。

 ———俺の膝の上に。


「おい、前見えないんだが」

「知らんし。あたしここ座るし」


 ……なんだこいつ。

 しかし言い争いをする時間がもったいない。

 メスガキの頭をグイと横に傾けると、身体越しに手を伸ばしてキーボードを叩く。


 ……よし、意外といける。

 鳴り出した電話機も———


「はい。開発二課、田中です」


 これも普通に取れるな。じゃあいいか。

 俺は仕事を続ける。


「ねえ、おじさん。これ分かる?」


 メスガキが問題集を指で指す。


「図形問題? 分度器使え、分度器」

「……うわ、そんなのテストで役に立たないでしょ。あんた義務教育受けた?」

「なに言ってんだ。テストの時はこうするんだ」


 俺はメスガキの筆箱から鉛筆を取り出す。


「いいか? 例えばこの鉛筆二本を直角に組み合わせてだな。えーと……こっちの菱のマークと、もう一本のアルファベットの『M』を結べばちょうど30度だ」

「……何言ってんの?」

「つまりだな、同じ要領で何パターンかの角度や長さを鉛筆や消しゴムの表示と組み合わせて覚えておくんだ。定規持ち込み不可のテストでも、こうやって合法的に角度や長さを測れるんだぞ」

「なるほど、凄く勉強になったわ———ちゃんと勉強しないと、こんな駄目な大人になるんだなって」


 ……失礼な奴め。これでも俺の得点源だったんだぜ。


「田中さーん、2番に外線入ってます」

「ありがと。はい、お待たせしました田中です———」


 ……しばらくは平和な時間が続く。

 たまにメスガキが膝の上でモゾモゾ動くので微妙な気分になるが、高橋が死霊のような顔で俺を睨んでるので心は平穏だ。


「高橋、俺を見てないで仕事しろよ」

「すいません。ちょっと今、視線で人が殺せるのか検証中なんです」

「……だから仕事しろって」


 そういやこいつ、この小娘の信者だったな。

 懐かれても何にもいいこと無いって一度ちゃんと説明しておかないと。


 それにいくらメスガキが軽いからって、そろそろ膝がしびれてきたぞ。

 宿題がひと段落ついたところを見計らって、誰かに押し付けないと———


「おい、田中なにやってんだ」

「課長!」


 いつもはウザくて仕方ない課長もこの時ばかりは有難い。

 俺はわざと申し訳無さそうな顔をしてみせる。


「すいません。こいつをすぐに追い出しますんで———」

「あれ、お嬢さん? いらっしゃってたんですか!」


 ……ん? 課長、なんだその態度。

 メスガキの奴はと言えば、いつも見ないような可愛らしい笑顔で課長を見上げてやがる。 


「こんにちわ、課長さん。あたし、お邪魔だったかな?」

「とんでもない! 好きなだけ居てください」

「ありがと♡ パパにちゃーんと言っとくね♡」

「はい、開発第二課長の勅使河原です! くれぐれも社長によろしくお願いします! おい田中、お嬢さんに粗相のないようにな!」

「え? ちょっと課長、仕事中ですよ? 俺に説教の一つもしてくださいよ!」


 畜生、課長の奴め。

 説教どころかジュースやお菓子まで持ってくるし。


「こら、お菓子のカスこぼすなって。足をパタパタしない。ほら、ここ計算間違ってる」


 ああもう、仕事にならんぞ。

 開き直って課長差し入れの菓子を齧っていると、膝の上からメスガキが俺を見上げて来る。


「ね、これも美味しいよ。食べる?」

「こら、近い。顔近付けるなって」

「え~、子供相手に意識しちゃってるの? きゃー、変態がいる~♡」


 こいつ、今日はやたらテンションが高いぞ。すれ違う女子社員の視線が痛い。


「だからお前、ここ職場だし。少し自重しろ。な?」

「だって上司公認だしー♡ 仕方ないよねー♡」


 だから俺の膝の上ではしゃぐなって。

 ……そして高橋。俺を睨んでないで仕事しろ。

 本日の分からせ:分からせられ……50:50


 アラサーさん、微妙に距離感を見失いつつあります。膝にJS5を乗せて仕事するのは多分、都条例違反です。

 次回、メスガキちゃんの可愛い所が出ちゃいます。


 皆様のご支援及びたぐいまれなる”大人のわからせ力”によって、現実世界〔恋愛〕日間3位を頂いております! ただひたすらに感謝です!

 メスガキちゃんをわからせたい方は、ブクマ、バナー下から★~★★★★★にて、身体は大人・心も大人のわからせパワーの充填を、是非是非お願いいたします!


 わからせられたい人も、メスガキちゃんに★マークをお捧げ頂ければ幸いです。きっと、あなたの膝の上で宿題とかやって消しカスを床にばらまいてくれます。


 ちなみに私は、メスガキちゃんに膝の上でモゾモゾされても平静を保つ自信があります。

 本当です。誰か実際に確かめてください。お願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 残念ながらおじさんは社会的に終ってしまったようですね。
[一言] いや、都条例とかはかなり抑制的です。膝の上にのっけていても、何も問題ないはず。 なんとなれば、例えば胸を揉んだとしても、都条例的にはあまり問題にならないはず(禁止されるのは、見せてはいけない…
[良い点] 翌日無断欠勤してみたらどうなるんでしょうね? [一言] 条例違反とネグレクトの、どちらが優先されるんでしょうかね?
感想一覧
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