一句添えた男
男の物語は、時には静謐さの中に
溶け込むこともあった。
あまり人気のない公園、桜の木の下で
男は、お気に入りの小説の頁をめくった。
そこへ風に舞い落ちた一枚の花びらが
ひらひらと男の膝に寄り添って来た。
男は、静かにそれを受け入れた。
三密とは程遠い、穏やかな空間の中で
男は、花びらをじっと見つめた。
そして程なく次の風に乗って
急ぎ足で去っていくのを
ただ、見送った。
愛でたるは 咲き誇るもの のみならず
男は、一句添えた。
明日の事はわからなかったが
心が落ち着くのを感じていた。