ミツキと親友 2
先手で攻撃を仕掛けたのは杖のプレイヤーだ。彼は『ウインドカッター』と風魔法の発動ワードを唱える。
杖の先端から風の刃が飛んでいき、一体のゴブリンに当たる。
それを合図に、剣のプレイヤーが他の二体のゴブリンにスキルを使い、自分に引き寄せる。おそらく敵のヘイト値を稼ぐスキルを使ったのだろう。
槍のプレイヤーは杖のプレイヤーの元にゴブリンが行かないよう、牽制しながら攻撃をしている。
暫くして、二発目の『ウインドカッター』が放たれ、漸く一体目のゴブリンが倒される。
残りのゴブリンも同じ戦法で一体ずつ危なげ無く倒していった。
戦闘が終わり、彼らはミツキ達の存在に気付いたようだ。
手を振りながら近づいてきて、パーティーリーダーらしい剣のプレイヤーが話しかけてきた。
「こんにちは、お嬢さん方。女性二人ではなかなか大変でしょう。よろしければご一緒にどうですか?」
丁寧に話ているつもりのようだが、表情に下心は隠せていない。
ミツキは美人だ。WSOでは幼くなっているため、そちらの趣味の方々にも人気がある。
そして、アウラは中性的な容姿をしており、ミツキとはタイプの違う美人な女性だ。
そんな二人が自分達の戦闘を見ていたのだ、彼の下心もわからなくはない。
しかし、β参加者のプレイヤーなら絶対にそのようなことはいわないだろう。
アウラはどれだけ有名なパーティーが勧誘しても、決して首を縦に降らなかった。中には強引な者もいた。
その時に断る台詞は「あたしより弱い奴と一緒に組むつもりはない」だ。その宣言通り勧誘してきたプレイヤー達を完膚なきまで倒した過去がある。
一時期、それが掲示板を賑わしたのはいうまでもない。
今ではミツキとパーティーを組んでいるが、β時代のアウラはまさに一匹狼だった。
「いや、結構だ」
アウラはミツキの手を取り、立ち去ろうとするが、三人は諦めてないようだ。
「さっきの戦闘を見ていたらわかるように、ゴブリンを後ろに行かせないぜ」
「さっきは二体だったが三体までならいけるぞ」
「治癒魔法も使えます」
最初の、丁寧に取り繕った言葉使いを捨て、それぞれが個々にアピールした。三人のプレイヤーが騒いでいると、そこに六体のゴブリンが現れた。
「ひっ!」
「ろ、六体…」
「………」
たった今まで、強いアピールをしていた三人は六体のゴブリンに尻込みをする。六体の群れは非常に稀だ。
彼らは三体のゴブリンを安全に倒せる実力であり、以前、調子に乗って五体のゴブリンを相手にした時は、杖のプレイヤーが教会に送られ、後の二人はギリギリのHPで街に戻った経験があった。
ゴブリンは数が多い程、個体の能力が上がり、上手く連携をとる。
たかがゴブリンと甘く見たプレイヤーを痛い目にあわせた。
「じゃあ、半分ずつだよ」
アウラは勧誘してきたプレイヤー達に目もくれず、ミツキにいった。
二人はパーティーだが、そこに連携という言葉は存在しなかった。
「はーい、ラクロ」
ミツキがあっさりと三体のゴブリンを倒し、残ったゴブリンをアウラが順調に倒す。
その光景を見たプレイヤー達は絶句した。実力の差をまざまざと思い知らされたのだ。彼らはミツキ達を誘うことを諦め、いつの間にか立ち去っていた。
「ミツキはさっきのプレイヤーの戦いを見て、どう感じたかい?」
「やっぱり、アウラは凄いなぁって、改めて思うよ」
ミツキに褒められ、まんざらでもない顔をするが、アウラが聞きたいことは違った。
「いいかい、魔法は火、水、風、土の四属性と治癒の五種類しかないんだ」
「でも、光や闇が見つかってないだけで珍しくはないと思うよ」
他のゲームなら、そうかもしれない。光や闇の属性は他のゲームでよくある。ミツキが珍しくないと思うのも仕方がない。
「ミツキの魔法スキルはかなり特殊なんだ。さっき見た通り初期魔法でゴブリンを一撃倒せない。それに、発動までにタイムラグがあるように感じないけど」
先のプレイヤーは『ウインドカッター』と発動ワードを唱えてから1秒以上経ってから魔法が発動していた。しかし、ミツキは発動ワードと同時に効果が現れていた。
「もしかしたらユニークスキルかもしれないな」
アウラはポツリといった。
「ユニークスキルって?」
「通常のスキルとは違って特殊な効果を持つスキルさ。強力なものから変わったものまであるけど、ユニークスキルは一人のプレイヤーしか習得出来ないみたいだよ」
「どうしたらユニークスキルってわかるの?」
「SPを消費せず強制的に習得させられる。それとスキルレベルでも判別可能かな。
ユニークスキルのスキルレベルは次の3種類に分けられる。
一つ目はレベル上限がないスキル。このゲームが開始して日が浅いから上限まで上げれていないだけかもしれないけど現状は限界がないといわれている。これは攻撃系のスキルが多い。
二つ目はレベル上限が10のスキル。
三つ目はレベル自体がないスキル。
二つ目と三つ目は補助系のスキルが多いかな」
(『アノルマ』はスキルレベルがないし、『魔素収納』は習得の時にSPを消費してないからこの2つもユニークスキルになるよね)
「どうしたんだい?」
黙るミツキにアウラは訊ねた。
「魔術以外で2つのユニークスキルを習得してる…よ?」
「………2つ…も……」
アウラは自分の耳を疑いたくなった。
一ヶ月あったβテスト期間でも、五千人でたった十三個しか見つけだせなかった。そんなユニークスキルを、ミツキは数日で2個も習得していた。
「…ちなみに、どんなスキルか聞いてもいいかい?」
「MPの自動回復量が上がるスキルと余ったMPを保存出来るスキルだよ」
「MPの回復量は体感的にどれくらいだい?」
WSOはステータスが数値化されていないため、こういったところはプレイヤーの感覚に頼る必要がある。
「うーん、一時間で一割くらいかなぁ」
アウラは遠い目をして、苦笑いする。
とあるプレイヤーがMPを全て消費し、全快するまでの時間を検証をしたことがあった。その結果は三十四時間だ。つまり、そのプレイヤーが一時間で回復するMP量は最大MPの2.95%になる。その後、数人のプレイヤーが同じ検証をしたが、毎時回復量は皆3%前後だった。
ミツキの回復量は通常の3倍以上であった。
「まったく、今日はミツキに驚かされてばかりだよ。他に驚くことはあるかい?」
「うーん…無いと思うよ。あっ、新しい魔術覚えたよ」
闇と光魔術のスキルレベルが十になり新たな魔術が増えていた。闇は『ルツァート』、光は『ペルガ』、どのような魔術か名前からは想像つかない。
「どんな魔法だい?試射してみなよ」
「そうだね。ルツァート」
ミツキの身体の周りに、黒い硝子が割れたような欠片とキラキラ光る粒子のエフェクトが数秒だけ現れる。ミツキはステータスを確認するも、バフが付与したなどの変化は無い。
「何の効果もないよ?」
「光の粒子のエフェクトはHP回復魔法に似てたけど、回復してなかったのかい?」
「ダメージ受けてないから、わからなかったよ。アウラに試していい?」
「残念だけど、今日はまだ被弾してないよ」
「そっか、なら今は保留だね。次は、ペルガ」
ミツキ達の周囲に霧が立ち込める。濃霧というほどの濃さは無く、靄がかかるだけであった。
内心、どんな凄い魔法を使うのかと期待していたアウラはどちらも予想と違いがかっりするが、その時、アウラの腰に衝撃が加わる。
周囲には気を配っていた。モンスターの気配はなかったはずだ。焦るアウラが衝撃の原因を確かめると、ミツキが腰に抱きついていた。
「えっ!えっ!あれは?」
混乱する頭でアウラはミツキが『ペルガ』を唱えた場所を指差す。そこにも、確かにミツキがいる。霧が晴れると、魔術を使った場所にいたミツキも消え、アウラは少しずつ冷静さを取り戻す。
「あれは…幻だったのかい?」
「そうだよ。それにしてもアウラがあんな顔するなんて珍しいね。スクショの準備しておけば良かったよ」
「…まさか、あたしが気付けないなんて」
アウラの探知能力はかなり高く、それは彼女自身もわかっていた。それだけにミツキに背後を取られたことは、今日一番の驚きだった。
「でも、この魔術かなりMP消費するから、数十秒しか維持できないよ」
「そ、そうかい」
「さっきのでMPがかなり減ったから、そろそろ街に戻らない?」
「あぁ、そうだね。あたしは驚き疲れたよ」