初イベント開催
前話書き直したので読んでいない方はそちらから読んで戴けると嬉しいです。
エニシドの広場に大型ウィンドウが現れ、寝不足とはっきりわかる程、目の下が青い中年の男性が映される。
「はじめまして、プレイヤーの諸君。WSOをプレイしてくれて感謝する。
私はWSO運営主任の長谷川孝太だ。
本日は初のイベント『パラダイスアイランド』の開催日。
君達に長い説明は嫌かもしれないが少しだけ付き合ってくれ。
今回のイベントエリアは現実と時間の速さが変えてある。現実では数時間だがゲーム内で5日間過ごしてもらう。
ログイン、ログアウトは自由だが、アバターはそのままイベントエリアに残るので安全な場所で行ってくれ。
イベントエリアにあるリゾート施設で遊んでも、エリア内のモンスターを駆逐してもいいぞ。それぞれが好きなように遊んでくれ。
ただし、死亡すると強制的にイベントエリアから追放されるから気を付けてくれ。
それでは、豪華リゾート地を楽しんでくれたまえ」
ウィンドウが消え、広場にいたプレイヤーは次々とイベントエリアの島に散り散りに転移させられた。
* * * * *
真夏のようにジリジリと肌を焼く太陽が燦々と照りつける。その光はキラキラと砂浜の白い粒を輝かせている。
南国の海岸を思わせる場所にミツキは一人立っていた。
「暑い…」
現実と変わらない五感で感じる八月の猛暑のような気温にミツキはぐったりとする。
ミツキの正面は地平線まで広がる海、反対は鬱蒼と木々が立ち並ぶジャングル。見渡す限りプレイヤーも見当たらない。
まさに、絶海の無人島に漂着した気分だ。
「どこが、リゾート地なの?」
ブーツを脱ぎ、ミツキはとぼとぼと波打ち際まで歩いた。足先だけでもリゾート気分を味わうために。
優しく波打つ海水が彼女の足を濡らす。
「冷たい」
スカートの裾を持ち上げ、一人ぱしゃぱしゃと海水を蹴っていると、小型ウィンドウがミツキの前に現れる。
映し出されたのはまたも長谷川だったが、服装がアロハシャツに変わっていた。顔色も幾分よく見える。
おそらく録画された映像だろう。
「この映像は選ばれた1000人のプレイヤーしか見ることができない。
まずは、フレンドリストから今回共にパーティーを組むプレイヤーを最大二人まで選んでくれ。
勿論、個人主義なプレイヤーはソロでも構わない」
フレンドリストに登録されているプレイヤーのアバターが二十センチの立体映像で現れる。
見馴れた獣人、強面の生産職、純白の鎧。
アウラ、デューク、ランス……たったそれだけ。
ミツキはアウラの映像に軽く触れる。
暫くするとミツキの隣にキョトンとした表情のアウラが転移してきた。
状況が飲み込めていないらしい。
「ミツキ、何をしたんだい?」
「パーティーの仲間にアウラを呼んだんだよ」
「パーティー?どういうことだい?」
「えっと、とりあえずこの人から説明あると思うから」
ミツキはウィンドウに映る人物を指差す。それを見たアウラは納得し、長谷川が話し出すのを待った。
「そろそろよさそうだな。
では、今回のイベントの詳細を説明しよう。
君達にはハンターとなって、ただのリゾートと考え、のんびり過ごしているプレイヤー達を狩ってもらう。
ただし、間違ってもハンターを倒してくれるな。その場合はペナルティがあるから気をつけてくれ。
それを防ぐためハンター同士の連絡手段として掲示板を特設してある。
それと、多くのプレイヤーを倒したパーティーには豪華なプレゼントが用意してあるから頑張ってくれ」
言葉を区切り大きく息を吸った長谷川は手を大きく広げ告げる。
「獅子は放たれた。六つの足音が彼らを死に誘う。
さあ、狩りの時間だ」
ウィンドウは消えると、波が奏でる音だけが二人の耳へ届く。
「つまり、あたし達はPKをすればいいってことだよな」
共通認識を得るためにアウラは確認の意を込めていう。
「そうだと思うよー」
「そうなると、ハンター以外にも何かあるだろうな」
ミツキは首を傾げて変に語尾を伸ばしながらアウラに質問する。
「ハンター以外ってー?何があるのー?」
「何も知らされていないプレイヤーがいるのは確実かな。予想になるけど、ぱっと思い付くのはハンターから守る盾役とかかな、後は……」
「アーウーラー、涼しーとこに行こー」
この暑さに立っているだけで体力が減った気分のミツキがアウラの言葉を遮り、だらしなくいった。
「確かにゲームとはいえ、こんな炎天下にいたら倒れそうになるな」
木陰に移動しながら、長谷川の言葉を頭の中で反芻する、アウラ。
彼の最後の台詞が気になり、考えていることが口から零れた。
「ハンターを獅子…六つの足音……」
しかし、それに返事をする者はいなかった。
木陰に移動したアウラは今後の予定を話し合いたかったが……
「まずは、ハンターの掲示板で情報集めだな」
「そーだね」
未だ頭がボーっとするミツキは気のない返事をした。ミツキの体調が良くなるまでアウラは掲示板を確認する。
* * * * *
《ハンター》連絡用スレッド1
1.運営
『パラダイスアイランド』のハンター連絡掲示板です。マナーを守り使用して下さい。
>>980 次のスレッドをお願いします。
17.流れのハンター
>>16 それなら、ハンター同士の顔ぶれを知っておいた方がよくないですか?
18.流れのハンター
>>17 お前どこにいるのかわかるの?
19.流れのハンター
>>17 賛成!
20.流れのハンター
>>18 インベントリにコンパスがあるから、方角はわかるぞ。
21.流れのハンター
>>20 なら南に集合するか?
22.流れのハンター
>>21 いいんじゃね。
23.流れのハンター
今から三時間後でいいか?
24.流れのハンター
>>23 おっ!俺は最南端にいるぞ!ここまで来い!
25.流れのハンター
>>24 ナイス!詳しく場所を教えろ。
26.流れのハンター
>>24 俺は島の北だから無理だわ。イベントエリアがどれだけ広いかわかんねぇし。
27.流れのハンター
>>26 あー、俺も北だわ。今回はパスするわ。
* * * * *
「アウラ!」
ミツキの声がきっかけとなりアウラは掲示板から眼を離す。
「良くなったかい?」
「うん。それでね、さっきアウラが言ってたことなんだけど、本当なら三人パーティーになるから足音は六つでいいと思うよ」
「そうだったのかい。
ハンターの掲示板では顔合わせのため南に集まるようだけど、行くかい?」
「私達って今どこにいるの?」
アウラはインベントリからコンパスを出し確認する。
コンパスの赤い針は眼前の海を示す。つまり、アウラ達がいる場所は島の最北端、集合場所の正反対だった。
「えっと島の北だね…このジャングルを突っ切れば楽に着く…かな」
木々が生い茂る密林にミツキは眼を向けてぼそりという。
「…無理だね」
ミツキの経験があるエニシド周辺の森とは違い、奥は昼間にも関わらず薄暗く、灯りがないと視界を確保出来ない。
更に、足場も悪く、モンスターが出現しないともわからない。その様なジャングルに好き好んで足を踏み入れる人間は少ないだろう。
ましてや現実でコンクリートジャングルに生きるミツキはゲームの中とはいえ進みたい道でなかった。
「ま、まあ、行かないプレイヤーもいたからいいんじゃないかい。
それなら安全な場所を探さないかい?」
「そうだね。ゲームだからって5日も野宿はしたくないよね」
アウラはログアウトする可能性を考慮していったが、ミツキにその予定はないようだ。
「それで、どっちに行くかい?」
二人の進路は東か西の海岸沿いしか選択肢がなかった。
「うーん…こっち」
「じゃあ、行くよ」
ミツキが選んだのは西。
西が好きだとか何かが見えたとかはなく、直感で選んだ。
「えー……」
ミツキは不満な声を出した。アウラがミツキの選んだ方角と逆に歩き出したからだ。
親友ならではのミツキの扱い方だった。
ミツキは知らない土地では望む場所の正反対にほぼ100%の確率で向かう。つまり、西は野宿となり、東は建物があると……一種の怪奇現象だ。
ふて腐れながらもミツキはアウラについていった。
程なくして、二人は一軒の小屋を発見した。海岸近くに建てられ、海を一望出来る小さな家だ。
「少し休憩しよー」
暑さに弱いミツキは既に辛そうにする。
いつもはミツキに甘いアウラだか、首を横に振る。
「あの小屋はプレイヤーが入った痕跡があるよ」
僅かな残り香をアウラの鋭い嗅覚は感じ取っていた。
「私達はハンターなんだからやっつければいいんじゃないのー?」
「いや、ハンター同士が倒した時はペナルティになるんだよ。あたし達は他のプレイヤーがハンターかそれ以外かを見破る必要がある」
「なんかミステリーみたいだねー」




