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WORLD SELECT ONLINE  作者: 黒胡椒
23/24

ミツキと進化 2

『シュッツリッター』


 別名、『守護騎士』と名付けられたこの指輪は、召喚媒体であり、装備者のステータスを基準にした強さの騎士を召喚することができるユニークアイテムだ。

 勿論装備者が強くなれば召喚の騎士も強くなる。


 騎士は僅かなMPを消費して一度召喚してしまえばログアウトか倒されるまで消えずに、存在できる。しかも、街に居る普通のNPCとは違い戦闘に特化したAIが搭載されており、戦闘経験を積めばより効率的な動きへと学習していく。装備者の連携も可能だ。

 そして、変わらず優秀な魔法媒体としても使える。


 ユニークスキル同様、他に同じ名前、性能を持ったアイテムはゲーム中に存在しない。


 そんな馬鹿げた性能のアイテムと思っていないミツキとアウラは別の方向に考えを向けていた。


 当たり前である。

 これは初心者用の指輪として貰ったアイテムだ。最初に手に入れたアイテムがユニーク級の代物と誰が考えようか。


 しかも、ミツキだけ。

 例のAIが関与しているとはいえ、これはVRMMORPGとして、ゲームとして些か問題ではなかろうか。


 事実、ミツキが『シュッツリッター』を手に入れた時、運営陣は悩んでいた。

『シュッツリッター』を弱体化させるか、初心者用の指輪として偽装されている間に、ミツキの指輪を装備者にも知られずにただの『初心者用の指輪』に変更するかなどと。


 そして、運営は秘かにミツキの指輪をただの『初心者用の指輪』に情報を書き換えた。

 しかし、再度AIが干渉し、ミツキの指輪を『シュッツリッター』に戻した。


 公になってはいないためミツキも他の全てのプレイヤーも知らないが、運営とAIの間でミツキの指輪がどのような運命を辿るか水面下での攻防があった。

 その結果は今の状況を見てくれればわかるだろう。

 勝ったのはAIだった。


 しかし、運営がただ敗北を受け入れるはずがなかった。『シュッツリッター』に覚醒率を導入し、本来の力が発揮するのを遅らせる設定にした。


『シュッツリッター』の覚醒率を上げるには装備者がダメージを受ける必要がある。

 ダメージ量に関係無く、ダメージを受ける度に1%ずつ上昇する。そして、1日に最大5%までしか上げることはできない。

 覚醒させるには早くとも20日はかかる仕様となった。


 サービス開始から今まで、ミツキは数える程しかダメージを受けていない。


 運営もその情報は掴んでいたため、わざとそのような設定にしたようだ。


 更に最近はアウラと一緒にいるため、余程強敵がいるエリアに行かない限りミツキが被弾することはない。


『シュッツリッター』の力が解放されるのはまだまだ先のことになるだろう。




 ミツキとアウラはどれだけ考えても正解には辿り着かなかった。

『シュッツリッター』が100%になれば、指輪が変身する、進化する、未知のダンジョンに飛ばされる、新たなスキルが手に入る、ボスが登場するなど好き勝手に思い付いたことを言っていた。


 騎士を召喚可能とするのだから、新たなスキルを入手するは思いの外、近いかもしれないが……



 いつしか、『シュッツリッター』のことはどうでもよくなり、二人の話題は進化したミツキの力を確認するためにどのフィールドへ行くかとなっていた。

 どれだけ、考えても答えは『シュッツリッター』が覚醒するまでわからないのだから、それも仕方がない。


「今のあたしとミツキなら東のボスも余裕だろ」

「ん?東はアイギスのパーティーが倒したんじゃないの?」


 誰かがボスを倒せば東のエリアが解放されるが、一度しかボスが倒せなければ、そのボスのドロップアイテムはそれだけになってしまう。それでは、他のプレイヤーに不公平となるためボスと戦えるように配慮してある。

 最初の討伐はフィールドに出現するモンスターもいるので難易度は高くなるが、その分ドロップアイテムは良いとメリットはあるが、二度目からは専用エリアでの戦闘となる。


 そういった説明を聞いたミツキは東のボスを倒すのに意気込み、アウラに質問した。


「ボスってどんなモンスターなの?」

「ああ、確か………」


 アウラの眼が泳ぐ。そして、そこから先は何も言わずに話を反らした。


「あー、やっぱり南にしよか。あたしは奥に行っても帰れるからさ」


 ジトリとした目でミツキは見つめると、アウラは狼狽する。


「ボスは?」


 再度質問した。

 ミツキは絶対に東のボスを倒したいと思ってはいないし、アウラがいうなら南の森でいいと思っていた。それでも、どんなボスか気になり、興味が湧いただけだった。

 観念したアウラはぼそりと呟くようにいう。


「いや、その…ボスが蛇なんだよ」


 アウラの言葉に全身に鳥肌を立たせ凍りつく、ミツキ。

 にょろにょろと動くあれは生理的に無理のようで、彼女は蛇が大の苦手だった。


 暫く間を置いて、何事もなっかたようにミツキはいう。


「うん、南で決定。それで、アウラはロストバインの影響を受けないの?」


 南の森の奥は繁茂するロストバインにより、多くのプレイヤーが迷い、帰りは教会に送られるのが定番という森。

 ロストバインの影響を受けないためには『錬金』スキルから生産される専用の薬が必要だが、材料や製法を発見出来ていないため、未だに生産されていなかった。


「行きたい場所に辿り着くのは難しいかな。ただ、自分が通った道ならあたしはわかるから帰ることは可能さ」

「それはスキル?」

「うーん、種族の特性とスキルを合わせてかな」


 更にアウラはこう付け加えた。狼獣人の優れた嗅覚を使い自分達の匂いを辿るだけさ、と。


 * * * * *


 南の森に二人は向かった。

 ミツキとアウラは南の森を流れる小川を渡り、奥へと進んだ。


 モンスターの気配を察知し反応する、アウラ。


「このまま進むとサイレントオウルに出会うよ。倒すかい?」


 サイレントオウルは小型のフクロウだ。

 昼間は眠っているため、攻撃をしなければ無視して進むことも可能だ。しかし、夜は音もなく近づき魔法で遠距離攻撃をしてくる厄介なモンスターだ。

 今は夕方。まだサイレントオウルが目覚める時間まで数時間はある。


「うん、進化した私の実力を見せてあげる」


 木の枝で寝ているサイレントオウルを視認したミツキは『コーウ』を唱える。以前よりも速く、そして形状は光の矢になっていた。

 サイレントオウルの身体に刺さった光の矢。次の瞬間サイレントオウルの体内で矢じりが大きな音を立てて爆発した。


 ポカンとアウラが口を開けて固まっている。


 サイレントオウルも、枝も消滅していた。


「ごめん、やり過ぎたみたい」


 ミツキ自身もこれ程の威力になっているのは予想外だった。『魔力操作』でMP節約モードではなく、100%の『コーウ』を使っただけだ。

 進化と共に魔術スキルも成長していた。


 アウラの耳がピクりと動く。


「前から四体来るよ」


 さっきの音に反応したのだろうか、間髪入れずに次のモンスターが近づいているようだ。

 ミツキの『気配察知』には何も反応しないが。


「今度はあたしの番だよ。指示したタイミングで正面に『ラクロ』を最大距離で唱えて」


 コクりと頷きアウラの指示を待つ。


 『ラクロ』の最大距離は100メートルだ。


 森のような見渡しが悪い場所では、木で遮られそこまで見ることはできないが、アウラの感知能力は目に頼らなくても敵の位置を正確に把握ほど成長していた。


「今!」

「ラクロ」


 倒せたのかな?ミツキの『気配察知』は数十メートルしか反応しないため、そんな疑問が頭に浮かぶが、それに、答えるように嬉しそうにアウラはいう。


「ナイス!」


 次は右側から一体回り込むワイルドキャットの位置を指示する、アウラ。


 ミツキはその地点に『コーウ』を単発で放った、MP節約モードで。

 指定された場所から飛び出してくるワイルドキャットに光の球が直撃し、地面に横たわる。倒したことを確認したミツキは親友の方に眼をやるが、アウラは一歩も動いていなかった。

 アウラの背中越しに前を見ると、頭にナイフが刺さったワイルドキャットが二匹並んで倒れていた。


 『投擲』スキルでアウラはナイフを投げただけだ。それだけで容易く屠る。


 アウラは正確なモンスターの位置を把握、そして行動予測をした。そのおかげで、ミツキは指示された行動をしただけでモンスターを倒していた。


 今の二人はここのモンスターも余裕で倒せるくらいになっていた。順調にモンスターを倒し更に森の奥へと向かった。


 そして、この森で一番やっかいなモンスター、フォレストウルフが二人の元にやって来るのをアウラが察知する。


 フォレストウルフは木の枝や葦で構成された狼とは言い難い見た目をしているが、その強さはこの森で出現する他のモンスターより一段階上で、なおかつ再生能力を持っている。

しかも、最低で五匹から、多いときには十匹以上の群れで現れる。


「ミツキ、フォレストウルフの倒し方を知ってるかい?」


 ミツキは首を横に振る。戦ったことはあるが、その時は途中でケイトに助けてもらった。戦った経験はあるが、倒した経験があるとはいえない。


「再生不可能になるまでダメージを与え続けるか、一撃で粉々にすれば再生しなくなるよ」

「粉々って…アウラできるの?」

「あたしは無理だけどミツキなら可能かなって思っただけさ。サイレントオウルのように……」

「そっか、それならいけるね」

「そろそろ、お出ましだよ」


 まだ、フォレストウルフの姿が見えないが、ミツキは『チェーゼロ』を唱える。

 『チェーゼロ』で出した鎖を両腕に巻き付け、自在に操れるようにし、腕から伸びた鎖は地面に配置する。素早いフォレストウルフを直ぐに拘束できるように。

次に、『コーウ』を四回唱えた。飛んでいくことなくミツキの周りに浮かぶ光の球。魔術を待機状態にしてフォレストウルフを迎え撃つ準備が整った。


 二人の前に現れたのは五匹のフォレストウルフ。

 直ぐ様、ミツキは鎖を動かしフォレストウルフを拘束する。鎖は四本しかないため、一匹は自由の状態だが、他の四匹は拘束に成功する。

 アウラは自由のフォレストウルフに向かう。勿論、拘束されたフォレストウルフに注意を払いながら。


 身動きの取れなくなったフォレストウルフ達は暴れるが、そう簡単に鎖が千切られることはない。鎖の耐久も進化したことで上がっているのだろう。


 ミツキは拘束したフォレストウルフに待機状態にした『コーウ』を発射する。球状のそれはミツキの指示で矢となり、フォレストウルフの身体に刺さる。

そして、爆弾のように弾け、フォレストウルフの木の枝や葦を壊す。粉々とはいかないものの、再生ができないくらいに破壊された。


「うん、いい感じだね」


 ご満悦のミツキは拘束した全てのフォレストウルフを倒していた。すぐにアウラも一匹倒したようだ。


「相変わらず凄い火力だな」

「進化の力だね。それと、『アノルマ』から『マリカ』になってMP回復量が増えたから、節約しなくても問題ないかな」

「どれくらい変わったのさ?」

「うーん、倍以上かな」


 これは、他のプレイヤーの七倍の速さでMPが回復している。

アウラが遠い目になるのも仕方ないことだ。


「大丈夫、アウラ?」

「ああ、大丈夫だよ。時間も遅いし、そろそろ街に戻らないかい?」

「うん、そうだね」



ちなみに、『ラクロ』をMP節約しないで使うと、針に棘が生え、任意でその棘を成長させることが可能だった。それは棘のある針となった。

繰り返し棘を成長させると、現代アートのようなよくわからない作品が出来上がった。


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