ミツキと結界 2
「それで、聞きたいことって何だい?」
アウラが話を切り出す。
「どうやって私を助けたのかしら?あの場所は私以外に入れないと思うけど」
「私は入れたよ」
「あら、ミツキちゃんが?」
エルサはミツキの右手に目を遣り、「本物だったのね」と小さく呟く。
「あたしは入れなかったけど、あれは何だったんだい?」
「この指輪を嵌めた人しかあの部屋に入れないわ」
そう言って、エルサは左手の小指に嵌めたシンプルな金色の指輪を見せる。
「私はその指輪持ってないよ?」
「ミツキちゃんの指輪も同じ効果があるわ」
「そうなの?全然違うと思うけど…」
ミツキとエルサの指輪はどう見ても似ていない。エルサの指輪は金をただ環状にしただけで表面も凸凹している。しかし、ミツキの指輪は美しく磨かれ、内側に模様が細工してあり、宝石も付いている。そもそも、ミツキの指輪は魔法媒体だ、そのような効果があると思わないだろう。
「なら、ミツキちゃんにお願いをしてもいいかしら?」
唐突に提案するエルサ。そこにどんな思惑があるのかわからないが、ミツキは「いいよ」と即答する。
「私の代わりに結界のマナを補充して欲しいわ」
エルサの言葉に反応するように、ミツキの前にクエストのウィンドウが現れ、迷うことなくクエストを受諾する。
「あの部屋に行って私の魔素を流せばいいんだよね?」
「ええ。今のままだと結界を維持できなくなるわ」
「その原因はあたし達のせいのようだね」
「そうね。異世界からの迷い人のせいね」
お茶で喉を湿らせ、エルサは続ける。
「異世界からの迷い人が教会で生き返る時、この街の結界を維持するマナを消費しているの。私はそれを抑えるため、いろいろと試して漸く私のマナだけで維持できるようになったわ。でも、この前のゴブリンとの戦いで結界のマナが急激に減ったわ」
WSOサービス初日の途中からデスペナルティが発生した。そして、そのデスペナルティは日に日に酷くなっていた。今ではHPとMPが一割で復活し、さらに一時間の全ステータス半減となっている。
その原因がこの街の結界の維持と関係していたとはプレイヤーは思いもしないだろうが。
「この街の結界がなくなるとどうなるんだい?」
暫し考える、エルサ。
「当分は周囲の壁でなんとかなるわ。でも、ここは特産があるわけでも、交通の要となる街でないから、安全を保証していた結界がなくなれば人は離れていき、いずれ廃れるわ」
「結界を張り直せないの?」
「無理よ。その技術は失われているから今の私達にできることは維持をするだけなの」
重大なクエストとわかりやる気を出す、ミツキ。エルサがしっかり休めて、この街のためなるのだから。ミツキはプレイヤーの知り合いは少ないが、NPCとは仲良くなっていた。幼児の姿のせいかNPCの子どもには特に人気があった。
モチベーションが上がったミツキは早速と席を立ち結界のマナを供給する部屋へと向かう。しかし、それにストップをかけるエルサ。
「ミツキちゃん、マナを供給するのは、明日からでいいのよ」
「でも…早くやったほうがいいんだよね?」
「今日、明日で結界がなくなることはないわ。供給するのにコツがあるから、私も一緒に行きたいけど、今日は私が休みたいから明日からにしましょ」
そう言われては引き下がるしかないミツキ。明日になったらすぐに教会に来ようと決意を固めた。
翌日、ログインしたミツキは教会、エルサの元に早足で向かう。エルサがしっかり休んでいるか心配だったからだ。
教会に入ると、修道服を着た女性が掃除をしているいつもの光景だ。それに、ミツキは少し安心をし、エルサの部屋へと足を進める。
ノックをすると、昨日より顔色がいいエルサが出る。
「良かった」
ミツキの口から安堵の声が零れる。
「来てすぐだけど、いいかしら?」
エルサは焦っていた。ミツキは絶対に来ると確信していたが、彼女の魔素でどこまで結界を回復させるかはわからなかった。それでも、『アノルマ』体質のミツキなら自分よりも役に立つと考えていた。
「うん、早く行こ」
ミツキも日課のMPポーションを作らずに来た。初日に倒れてからはログインするとすぐにMPポーションを作っていたため、どれくらいの時間で倒れるか本人も知らなかった。途中で倒れてしまっては意味がない。
ミツキとエルサの考えは違えども、早く結界のマナを供給するという目的は同じだった。
供給の部屋へ二人は着く。
「何これ…」
ミツキはエルサを助ける時は部屋の装飾が目に入らないほど周りが見えていなかった。そのため、初めて見るこの光景に呟いた。
ドーム状の部屋、その中央には六個の小さな濁った石が浮かび、球体のそれは0と1を空間に刻む。そして、床には記号のような絵が円上に、まるで魔方陣のように描かれていた。
「エルサさん、これって…」
ミツキが浮いている石に触れようとした瞬間、エルサに抱き寄せられる。
「それに触れては駄目よ」
「えっ!?」
「それは、マナを貯めておく魔石だけど、直接触れると、マナを一気に吸いとられるわ。マナが枯渇して、昨日の私みたいに暫く動けなくなるわよ」
その言葉に全身に鳥肌が立つよう、びくりとする。ミツキは紛らわすように話題を変える。
「えっと、それで結界の供給はどうすればいいの?」
「こうするのよ」
そう言ってエルサは意味のわからない言葉を唱える。
詠うように発せられたが、音が合ってないのか心地のよいものでなかった。だが、それに反応する床の模様、そして魔石に流れるエルサのマナ。魔石はエルサのマナを吸収し、僅かに淀みがなくなる。
「いわかしち……あのれ………なんだっけ?」
ミツキも同じように唱えようとしたが、一度聞いただけでは覚えれなかった。
口元に手を持っていき上品な仕草で笑う、エルサ。
「少しずつ言うから復唱してね」
そして、ミツキはエルサが唱える言葉をワンテンポ遅れて唱える。
しかし、ミツキの言葉ではなにも起きない。
「なんで…」
「発音が違うわ。ミツキちゃんならすぐにコツを掴めるわよ」
二度三度と唱えるがミツキの魔素が魔石へと流れることはなかった。
思いきって魔石に触れた方が早いのではと思い始めた。
「私も最初はできなくて苦労したわ」
昔を思い浮かべ、懐かしそうにする、エルサ。彼女の昔話も聞きたいが、ミツキは倒れる危険があるため少しでも早く魔素を供給したいと焦る。そんなミツキの思いが伝わったのかエルサはアドバイスをする。
「先ずは発音だけを意識して言ってみて」
「うん、わかった」
一言ずつゆっくりとエルサの言葉を真似る。そして、起動する魔方陣。ミツキの魔素が魔石へ吸いとられる。MPの半分を失ったが、一つの魔石にミツキの魔素が満たされ燦々とする。
嬉しそうなミツキと、目を見張るエルサ。
魔石への供給は全てに均一にされる、それが彼女の当たり前であった。しかし、ミツキは違う。一つの魔石を満たしたのだ。エルサはここでマナを供給してから数十年過ぎたがここまで輝く魔石を見たことはなかった。別に、エルサがさぼっていたわけではない、毎日欠かさずマナを供給していたにも関わらず、できなかったのだ。
「ミツキちゃん、マナは…大丈夫?」
「かなり減ったけどもう一つならいけるかな」
苦笑いさえできなかった、それほどまでにエルサは驚愕をした。
「なら、詠ってくれないかしら。そっちの方が効率よくマナを供給できるわ。ただ、人によって音階が違うのよ。だから、ミツキちゃんが感じたようにその言葉で詠ってほしいのだけど」
ミツキはMPポーションで回復してから、昔やったゲームの曲にのせて詠う。
詠い始めるとガタりと、床が動きだし模様が変わっていく。床の模様が完成すると同時に、ミツキも詠い終わり、魔素が全ての魔石に流れる。ほぼ全てのMPを消費したが、六つの魔石はそれぞれ違った色で輝いている。
そして、0と1を刻んでいた文字が変わり、『SECHS』と刻み、クエスト完了のウィンドウが現れる。
さらに、進化可能とログに表示される。
『SECHS』?何の意味があるの?
暫く考えたが何も思いつかない。そして、わからないことは放置する主義のミツキ。
「えっと、これで結界は大丈夫なのかな?」
間を置いて答えるエルサ。
「…ええ。完璧だわ」
読んで頂きありがとうございます。
次話、やっとミツキが進化します。予定ではもう少し早く進化させるつもりだったんですけどね。




