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WORLD SELECT ONLINE  作者: 黒胡椒
2/24

ミツキと『………』

 

<log in>


『この世界で使用する名前を入力してください』


 明かりがない暗闇の空間に立つ女性。彼女の前に突如として現れたウィンドウに、そう表示される。


 彼女は迷うこと無くウィンドウを操作する。


 ミツキ、と。


『この世界で使用するアバターを決めてください。デフォルトの時点であなたの容姿を参考にデフォルメ化されています』


 名前を決定すると、ウィンドウの文字が変わり、それと同時に、もう一人のミツキが現れる。

 それはWSOの世界で使用される彼女の写し身、アバターだ。


 ミツキは何気なしにウィンドウを弄る。

 すると、アバターの目が吊り上がる。今度は逆に垂れる。次は鼻が小さくなる。


 次々に変化していく自分のアバターを見て満足したのか、最初の容姿に戻す。しかし、髪と瞳の色は変わっていた。


「これで決定っと」


 小さく呟いた言葉を合図に、ミツキの足元から光の糸が現れる。それは、繭のようにミツキの全身を包み、強烈な閃光を放った。


 光の繭から出てきたのは、金髪黒眼の女性だ。髪は腰まであるストレートヘア、整った顔にある黒い瞳の奥は青みかかっている。


 自分の髪を手に取り、ミツキは色が変わっていることを認識すると、周囲に少しずつ光が差し始める。

 暗闇しか無かった彼女の周囲は、色とりどりの花が咲き乱れ、幾つもの名の知らない植物に囲まれていた。


 その光景に言葉が零れる。


「綺麗」


 美しい光景に見とれるミツキに、穏やかな声が届く。


「WORLD SELECT ONLINEの世界へようこそ。

 此方では種族及びスキルが選択できます。先ず始めに種族を選んでください」


 そう言葉を発したのは、髪と瞳がプラチナブロンドの美しい女性だ。薄い紺色のドレスを身を着け、その胸元とスカートの裾は、花や植物をイメージした刺繍レースが施されている。


 キャラクタークリエイトをサーポトするNPCである。現実の人間と変わらない滑らかな動きで、流暢に言葉を話す。

 ミツキはこれがNPCと気付くには少し時間がかかった。


 柔らかな笑みを浮かべ、彼女は軽く手を叩くと、左右に映画館のスクリーンと同じ大きさのウィンドウが現れる。


「貴女から見て左のウィンドウが人族、右が魔族になります」


 急に現れたウィンドウに驚きながらも、ミツキは気になったことを質問する。


「人族と魔族の違いは何ですか?」

「人族は種族によって、多少の得手不得手が在ります。しかしそれは、本人の行動で補える程度です。

 一方、魔族は得意とすること、苦手とすることが明確に別れます。苦手とされることを克服することは、無理だと考えて頂いて結構です。

 中には例外、も存在しますが」

「ありがとうございます」


 ミツキは人族の巨大なウィンドウに目を移す。

 選べる種族が多いおかげか、ウィンドウのサイズのせいか、非常に見にくかった。


(全部で何種類だろう?それに名前だけだと、よくわからないものが多いな)


 心の声に反応するように、プラチナブロンドの女性は小さなウィンドウを差し出す。ウィンドウはタブレットサイズで種族名が載っていた。


 声に出してたかなと思いながらミツキはタブレットウィンドウを受け取り、気まずい気持ちを誤魔化すように、表示されているエルフの文字を押す。

 すると、人族の大きなウィンドウに画像が表示される。


 満月が輝く夜の森、木の根元に座るエルフ。

 正確には、エルフの特徴が反映されているミツキのアバターが表示されていた。

 ミツキは次々に気になった種族を確認した。


 ドワーフは洞窟のような場所で鉱石を採石している。採石している姿もなかなか似合っていた。


 フェアリーは背中に半透明な羽を生やし、雲一つ無い空を気持ちよさそうに飛んでいる。


 レイスは夜の墓地で漂っている姿、空に光る星々がレイスをより妖しく魅せている。


「あっ、この種族いいかも」


 ミツキは思わず声に出していた。


 ウィンドウに映るのは、街中にある大きな建物の屋上に立ち、空を見上げているミツキ。

 空に浮かぶ唯一の光源、三日月がゆらゆらと淡い光を漂わせ、より、この世界を幻想的な雰囲気にしていた。


「魔人族ですか?」


 急に話しかけられたミツキは一瞬びくりとした。


「はい、そのつもりですけど…」

「魔人族は少々特殊で属、初期能力、スキル習得時に表れるスキルがランダムになりますがよろしいですか?」


 ミツキが難しい顔をして首を傾けると、彼女はその行動の意味を理解し、言い直してくれた。


「魔族は種族を決定すると次に属を選択します。本来は自由に選ぶことが出来るのですが、魔人族の場合はランダムで決定されます」

「えーと、属とは何ですか?」

「属とは、種族を特性で分けたものです」

「…わかりました」


 魔人族にどのような特性があるか知らないミツキは、何かヒントでもあればと思い、魔人族の画像をちらりと横目で見る。


 月明かりの下に立つアバターに変化は無い。そう、変化がなかった。


(あれ?これって…変わってない?)


 画像に表示される、ミツキのアバターは種族の見た目が反映される。

 例えば、エルフなら耳が尖っていたり、フェアリーなら背中に羽がある。


 しかし、魔人族のミツキのアバターは人間の姿でだった。

 ミツキは変わらない自分のアバターを疑問に思い、思考を巡らせようとするが、まだ彼女の話は終わっていなかったため、思考は中断する。


「初期能力ですが、どの種族でも少しの変動はあります。ただ、その変動値が大きいだけです」

「ん?」


(もしかして、運が良ければ高ステータス値になる可能性があるってこと、だよね?)


「ご心配為さらなくとも、初期能力の平均はどの種族も変わりありません」


 目の前の女性は読心術のスキルがあるのではと疑う、ミツキ。

 自身では気付いてないかもしれないが、ミツキの顔は結構何を考えているかわかりやすい。それも、AIであるNPCに理解される程に。


「スキルについて教えてください」

「最初に取れるスキルがランダムになる、という事なのですが、これは例を出した方がわかりやすいかしら?」


 彼女は頬に手を当て、少し困ったような仕草をした。わざと、人間のように振る舞う。


「お願いします」

「人族の種族人間、職業戦士は初期スキルで、近接武器スキルの多くは習得できます、しかし、魔法スキルは習得できません。同種族、職業魔法使いは逆になります。

 初期スキルは種族と職業、又は属で習得可能スキルが判別されます。

 魔人族の習得可能スキルはそのような要素が介入せず、ランダムで決定されます」

「…つまり、他種族では当たり前なスキルが無くなる可能性がある、ということですか?」

「はい、その通りです」


 スキルは特定の条件をクリアし、SPスキルポイントを消費して習得する。

 条件には時間がかかるもの、意識的に行動しないといけないものなど様々だ。後から習得するには、困難なスキルも少なくない。

 そもそも、条件自体が解からないスキルもある。だが、キャラクタークリエイト時だけは無条件で習得する事が出来るため、定番スキルは後から取るよりも、今の無条件で取ったほうが楽である。

 多くのプレイヤーが初期スキルとして定番なスキルを習得してしまえば、そのスキルの条件を探す人は少なく、発見までに時間がかかる。そうすると、必然的に習得するのも遅くなる。


「レアスキルは、どうですか?」

「可能性はありますが、あまりおすすめできません」

「どうしてですか?」

「ここで選ぶことができるスキルの数はどの種族も200種類で固定です。この数は魔人族も例外ではありません。

 その中から僅かに表れた上位、又は中位スキルを探しだし見分ける事は難しいと思われます。仮に、そのスキルが特定出来たとして、自在に扱えると思いますか?」


 下位、中位のスキルレベルが影響する場合もあるが、初期ステータスで上位スキルをまともに使用出来るだろうか、一般的なゲームの知識がある者ならばすぐに答えは出るだろう。


「そうですね……もう一度考えてみます」


 これだけ沢山の種族があるなら、自分が気に入る種族もまだあるはず、そう気持ちを切り替え、ミツキは他の種族を見ていく。

 しかし、その考えは、数時間後に消えることとなった。


(魔人族以上に心惹かれる種族はなかったなぁ。

 それに、魔族はどれもわかりやすくアバターの容姿が変更されていたんだけど…魔人族は人間と同じなんだよね。何か意味があるのかな……)


 どれだけ考えてもぐるぐると同じ問答を繰り返すだけで、答えが出ない。答えが出たとしてもそれが正解かどうかはわからないため、結局は自分が納得する理由が欲しかっただけかもしれない。




 長い時間ウィンドウとにらめっこしていたミツキは唐突に宣言する。


「やっぱり魔人族にします」

「わかりました。魔人族でよろしいのですね?」


 優しい顔で問い掛ける彼女に、ミツキは迷い無く「はい」と頷いた。

 短いその言葉を言った、その時、彼女は温かい表情になった気がした。


「では、スキルの選択に進みます」


 今まで種族名が載っていたウィンドウの文字が動き出す、文字は並びを変え、次々にスキル名になっていく。


 ウィンドウは戦闘、補助、生産で検索できる機能が付いてた。


「この中から5個のスキルをお選びください。それと、武器スキルは最低一つ選んで下さい。魔法を使用する場合は〈杖〉など魔法媒体の武器スキルが必要になりますので、注意してください」

「わかりました」


(ん~…戦闘と補助をメインに取って余裕があったら生産かな。戦闘スキルで検索っと)


『戦闘スキルを検索します……検索完了。該当スキル34件です』


 検索結果は魔法スキルばかりだった。


 その中からミツキは『闇魔術』『光魔術』を選ぶ。


(あとは…………あれ?)


 ミツキは何度もスキルが表示されているウィンドウを見直すが、あるはずのスキルがなかった。

 困惑した様子で彼女に声を掛ける。


「あの…」

「はい、どうしました?」

「えーと…武器スキルが一つも見当たらないのですが」

「わかりました。此方でも確認します。少しお待ち下さい」

「お願いします」


 彼女は数分もかからずに確認作業は終わらせる。


「習得可能武器スキルが0を確認しました。武器スキルを取得しなくても問題ありません」


 武器スキルを一つ習得することは強制と言った言葉をあっさり撤回する。予想外の言葉にミツキは怪訝な表情になる。


「そうなると、魔法スキルも使えないってことですか?」

「いえ、初期武器の代わりに魔法媒体のアクセサリーを送りますので、安心してください」

「…わかりました」


 ミツキの不安は「それでいいの?」と言いたくなる程すんなりと解決する。いまいち納得はしていないが。


『補助スキルを検索します……検索完了。該当スキル127件です』


 軽く全てのスキルに目を通したミツキは定番のスキルがあることに安堵する。


 そして、『気配察知』『鑑定眼』を取る。


 〈気配察知〉

[周囲の気配に敏感になり存在を認識しやすくなる]


 〈鑑定眼〉

[未知のものを分析する。知識を得ればより正確になる]


  武器スキルによって余った残りの一つを何にするか迷う。


 補助か生産か。


 ふと、あるスキルが目に映る。


 〈魔力操作〉

[使用MPを増減させることで魔法の効果を変化させる]


「選び終わりました!」


 静かに見守って居てくれた女性に報告すると、何か確認するような動作を取る。


「習得スキルは『闇魔術』『光魔術』『気配察知』『鑑定眼』『魔力操作』で宜しいですか?」

「お願いします」

「スキルが決定しました。ではこれを」


 女性は胸の前で祈るように手を組む。僅かに覗く指の隙間から光が漏れだすし、その光が収まり、彼女が手をひらくとそこには指輪があった。



 白金の指輪だ。中央には、黒がかったサファイアのような宝石が付いている。



 ミツキは彼女から指輪を受けとり、右手の中指に嵌める。


 するとミツキの視界は徐々に歪み始め、平衡感覚も失われていく。自分が立っていたのか横になっているのかわからない。目の前にいた彼女の姿は既に認識できなくなっていた。


 女性は何かを言っていたが、彼女の言葉はミツキの耳に届く事はなかった。


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