ミツキとゴブリンキング
「我はゴブリンキング。敵を討ち滅ぼす力を我が手に、王の証である剣よ、我が元に現れよ」
ゴブリンキングの言葉に反応するように空間がひび割れた。そして、その空間からゴブリンキングは大剣を取り出す。
見た目は長方形の鉄の板にしか見えない、柄がなければ盾と言われても頷ける代物だった。だが、大剣を持ったゴブリンキングは禍々しいオーラを放つ。憎悪、嫌悪、妬み、そんな感情がゴブリンキングからミツキに向けられた。ミツキはこの場からすぐに立ち去りたいと思うほど気持ちが悪かった。
「人の子よ、これで終わりだ」
ゴブリンキングがそう言うと、ミツキとの距離を一瞬で詰め、下段から大剣を払う。ミツキは咄嗟に『レクシール』を唱え、自身と大剣の間に鏡を出す。
しかし、ゴブリンキングはその魔術を予知していたのか、大剣が鏡に触れ、反射する力を利用し、身体を回転させる。ミツキの頭上に大剣が迫る。
ミツキは『チェーゼロ』を唱え、ゴブリンキングの大剣に絡ませ、大剣を一瞬止め、さらに『コーウ』を大剣の腹に当て剣の軌道を変える。ところが、ゴブリンキングはバランスを崩すことなく、ミツキの魔術の力を利用して流れるように回し蹴りをする。
ゴブリンキングの蹴りはミツキの腹部に命中し、彼女は反対の壁まで飛ばされた。
地に倒れ、ミツキの呼吸が乱れる。たった一撃で彼女のHPは九割を失った。MPも残り僅かとなり、これ以上時間を稼ぐことは不可能だとミツキの脳裏に過る。
ゴブリンキングは容赦する事無くミツキの身体目掛けて突きを放つ。
「がっ、ラ、ラク…ロ」
必死にミツキは唱え、黒い針がミツキとゴブリンキングの間に壁のように現れる。しかし、ゴブリンキングの大剣は容易くその壁を貫いた。
ドサッ。
剣先がミツキの身体に届く直前、ゴブリンキングの剣が手から離れ、膝から崩れ落ちた。
「な、何を…し……た…」
身体に力が入らなくなり、倒れたゴブリンキングは苦しみながら言った。
ミツキは乱れた呼吸を整え、間に合ったと安堵する。『ペルガ』の霧はミツキの魔素で構成されている。霧を敵に吸収させれば、マナ中毒の症状を引き起こす事ができるのでは、そう考えたミツキは霧の魔素を濃くしたり、時間を稼ぐことに専念した。その代償として、日課で作っていたMPポーションを大量に消費したが。
「マナ中毒ですよ。このままでは貴方は死んでしまいますよ。ただ、街を襲わないと誓うのであれば助けますよ」
息をするのも辛そうなゴブリンキングは必死になりながらも問う。
「…な…ぜだ…」
「貴方を倒しても外の戦いは終わらないでしょ?でも、貴方ならゴブリンを止める事ができるよね」
ゴブリンキングは苦しみの中、ミツキの手にある物に気付き、答を出した。
「わか…た……」
ミツキは『ペルガ』の霧を消し、ゴブリンキングに『ルツァート』を唱える。
身体の自由を取り戻したゴブリンキングはさっさと扉に向かう。
「おい、行くぞ」
ゴブリンキングを実験台にして『ルツァート』が本当に回復魔術だとわかり、満足しているミツキにゴブリンキングは言った。
「へ?なんで?」
「我に勝ったのだ、面白いものを見せてやる」
その言葉にミツキは訝しむが、ゴブリンキングに手を引かれ、共にダンジョンの外へ出た。
「待たせたな、ゴブリンジェネラル」
ゴブリンジェネラル、ゴブリン近衛騎士、ゴブリンアサシンがゴブリンキングの下に集まる。
「戦場のゴブリン達を退かせろ。我々が出る」
「御意」
「街は襲わないよね?」
「ああ、だが街の外にいる、我等の同胞を殺した奴は構わないだろ。それとこれを身に付けておけ」
ゴブリンキングは赤褐色のシンプルなブレスレットをミツキに放り投げる。
『血塊石の腕輪』〈レア:Ep〉〈品質:B〉〈耐久:100〉
[ゴブリンキングの血を固め作った腕輪。ゴブリンキングが実力を認めた者に渡す。装備するとゴブリン種に襲われない]
戦場から戻ってきたゴブリンに攻撃されないよう、ゴブリンキングがミツキに配慮した、というわけではない。むしろゴブリンをミツキから守るためだ。ゴブリンキングはミツキとの争いを避けたかった。
『プレイヤーミツキにより、クエストが変更されました。防衛クエストから討伐クエストになります。ゴブリンキング及びその配下を討伐せよ』
WSO初のプレイヤーによるワールドアナウンスが流れると、ゴブリンキングを筆頭にゴブリンジェネラル、ゴブリン近衛騎士、ゴブリンアサシンが追従して森から姿を現した。合計四十八名、六体パーティーが八つ集まるフルレイドバトルの構成だ。
ミツキはこれが面白いこと?と最初は不思議に思うが、戦いが始まると考えを改めた。圧倒的だった。ゴブリン近衛騎士やゴブリンアサシンでさえ、ミツキと戦ったゴブリンキングを上回る速度で強力な攻撃を繰り出している。
これは、ゴブリンキングのスキル『王の権威』の効果だ。『王の権威』は自分のステータスの一部を仲間に授ける。その上昇量は授けるステータスを仲間の数で割った値だ。
本来であれば、何千ものゴブリンも一緒に存在し、その効果は微々たる上昇のはずだった。しかし、今は四十七体のゴブリンだけ、『王の権威』が最大の効果を出す数だ。
これこそ、ゴブリンキング本来の戦い方だ。
ゴブリンキングの軍勢がプレイヤー達を屠るのに、時間はかからなかった。中には死に戻りしても何度も戦いを挑んだ者もいたが、デスペナルティを受けたプレイヤーはゴブリンの敵ではなかった。そして、挑戦するプレイヤーがいなくなると、討伐クエスト失敗のワールドアナウンスが流れ、ゴブリンキング達は森へと帰っていった。
「どうだ、なかなか見ごたえがあっただろ?」
森で戦いを見ていたミツキにゴブリンキングが言う。今のゴブリンキングは、敵意が無く、むしろ誉めて欲しそうな、自慢気な顔をする。
「ゴブリンがあんなに強いなんて知らなかったよ」
「我のおかげだからな」
望みの言葉を聞けたゴブリンキングは続けて言う。
「我々はもう行くとしよう」
「ここに居たら、また同じ事が起きるよ?」
「ああ、この地は住みやすかったが、変わってしまった。新たな地を求める時が来たようだ」
「そっか、また何処かで会うかもね」
「我はぬしには会いたくないがな」
ミツキと別れたゴブリンキングにゴブリンジェネラルが尋ねる。
「あの人間は?」
「敵だ。だが…」
ゴブリンキングはミツキの右手にある指輪を思い出しながら言葉を続ける。
「あれの怒りは買いたくないからな」
その後ゴブリン達は西の森から姿を消した。ダンジョンのボスも居なくなり、ダンジョンを抜けた先へと進めるようになった。




