ミツキと白騎士 4
殺風景で生活感がまるで感じられ無い部屋、中にあるのは、机が一つと椅子が二脚、それと、戸棚に幾らかの薬品や植物が並べられているだけだ。
ミツキ達を助けた女性は二脚しかない一つに座り、ミツキに空いている方に座るよう促す。ミツキは確認する意味で顔をランスに向ける。
「ミツキ様がお掛けになってください」
そう言って、ランスは椅子を引き、ミツキに勧める。ミツキは感謝を述べ、椅子に座った。それを、確認した彼女は話し出す。
「私はここに住む錬金術士よ。愛を込めてケイトと呼んでね」
片目を閉じてウィンクをする彼女は森で会った時の大人な女性の佇まいを捨て、茶目っ気たっぷりな顔を見せる。その豹変ぶりは別人ではないかと思うほどだ。
「は、はい。私はミツキです」
「私はランスです。ここは安全なのでしょうか?」
「ここはモンスターが入れないよう、私が手を加えたから大丈夫よ」
どや顔でケイトは言うが、二人はゲームで設定された安全エリアなんだと解釈したため、何故ケイトが自慢気なのか理解できないでいた。そんな二人にケイトは口を尖らせる。
「私に聞きたいことがあるんじゃないの?そんなんだと答えないわよ」
「えっ!あ、スゴイ…デス…」
言葉に詰まり、片言でランスは答えた。ケイトはその様子をクスクスと笑い、何処からか出した煙管で、一服始めていた。煙管から出る煙はまるで生きているように動き、時には兎や鳥などの動物の姿になる。そんな不思議な光景に二人は見惚れていた。
「落ち着きなさい」
何も無い空間にケイトが優しく言う、すると、煙は自然に上へと昇るだけになった。
「はっ、申し訳ありません。その、幻想的な光景に目を奪われてしまいまして。では、ロストバインの対処法を詳しく伺いたいのですが」
「それだけ?」
ケイトの視線はランスの鎧でなく、彼の本当の姿を見透かしているような、そんな眼を向ける彼女にランスは落ち着かない様子で答えた。
「フォレストウルフを退けた手段も教えてくださるのなら助かります」
「ミツキは何かある?」
ランスの質問がそれ以上無いことがわかっていたのか、ケイトはミツキに視線を移す。事実、彼の聞きたいことはそれ以上なかった、しかし、ランスは釈然としないもやもやとした気持ちになった。
「ケイトさんが「ケ・イ・ト」」
ケイトはミツキの声に被せる。敬称はいらないと言いたいらしい。それを、感じとったミツキは言い直す。
「ケイト…が私達を最初に見たとき、マフォリーと憑き物と言ってましたよね?その意味を知りたいです」
ケイトは「ふーん」と言い、暫しの間、思考を巡らせる。その顔は森で出会った時の雰囲気に戻っていた。ミツキとランスを見定めるような視線を彼女は向け、そして、口を開く。
「その代わり、ミツキが作ったMPポーションを三本を私に寄越しなさい。そっちの鎧君は……もう少ししたら頼みたいことがあるから、それを受けてくれればいいわ」
ミツキとランスは互いに顔を見合わせる。その顔にはこのような状況に陥ったことが無いと語っていた。クエストが発生し、その報酬として情報やアイテムを手に入れる、というのが普段の流れだ。ミツキの場合はそれに近いが、ランスは報酬の前払いをしてくれることになる。それは、報酬だけを受け取り、クエストを踏み倒せると言っているようなものだ。勿論、ランス自身にその気がなくとも粗悪なプレイヤーならやりかねない行為だ。ランスは暫く悩んだ結果答えを出した。
「わかりました、その時にはケイト、がま…ん……」
先程のミツキとのやり取りで、ケイトが敬称を好まないと知ったランスはケイトに敬称を付けずに言った。しかし、彼女の名を言った瞬間のケイトの眼はランスを凍りつかせるほど恐ろしく、ランスは言葉を続けることはなかった。
「どうしたのかな、鎧君」
顔は笑っているが、眼は笑っていないケイト。
「い、いえ、ケ、ケイト…さ、様…」
ランスは掠れた声を必死に絞り出した。ケイトは満足そうに頷くが、ランスはミツキと対応が違うことに苛立ちを感じた。騎士としての矜持か、それを面に出すことはしなかったが、ランスはケイトとの会話をミツキに頼むことにした。
「私はそれで構いません。ランスさんも了承しました」
ミツキはポーチからポーションを取り出しケイトに渡す。ケイトはポーション瓶を眺めると満足した顔で頷く。
「まだ、粗削りだけどこれなら使えそうね。鎧君はこれよ」
ケイトは赤いハンカチを取り出し、ランスに渡した。
「これは?」
「それを身に付けていなさい。時が来たら私の頼みをそれが教えてくれるわ」
ランスがハンカチを腕に結んだことを確認したケイトは、先にランスの質問に答えた。
ロストバインの薬は錬金術で生産出来る。しかし、詳しい材料や製法は弟子にしか教えれないとケイトは言う。次に、フォレストウルフから二人を助けた方法も錬金術で作れる薬を使っただけで、その薬を身体に振りかけるとフォレストウルフはその対象を認識出来なくなる効果があるらしい。ケイトは遠くから風の魔法に薬を乗せミツキ達に纏わせた。
「鎧君の質問はこれで終わりよ。ミツキの方だけどマフォリーはミツキ、憑き物は鎧君を指しているのはわかっているわよね」
「はい、一目見ただけでランスさんの正体を見破った方法も気になりますが、まずはマフォリーについて詳しく教えてください」
「ふふ、私は眼がいいのよ。詳しく、と言われてもアノルマ体質の魔人をマフォリーと呼ぶだけよ」
ケイトは事実を言っている。だが、ミツキが正しく理解できない言葉をあえて選択していた。それに勘づいたランスがミツキに耳打ちをする。ミツキはコクりと頷きケイトを正面から見据える。
「では、質問の仕方を変えますね。マフォリーとはどの種族の混血ですか?」
「人間よ」
「えっ!」
まるで謎かけだ。魔族の魔人でもあり、人族の人間でもある。ミツキの頭の中で魔人と人間という言葉がぐるぐると回る。
「先程から要領を得ない言い方をしますね」
ランスは尖ったように言う。
「ミツキが可愛いから、ついからかいたくなるのよ」
ケイトはミツキの頬をつつく。とはいえ、この調子では話が終わりそうにないと感じたケイトはミツキが誤解しないよう言葉を選ぶ。
「今では、ミツキ達が言うように、混血種のことを魔人と言っているけど、昔は違う意味もあったの。魔素を持つ人間、それも魔人と呼ばれていたわ。人間が魔素を持つことは非常に珍しかったから、時が経つにつれてその言葉の意味は失われていったみたいだけど」
「だから魔族なのに人間なんですね」
「ええ。魔素とアノルマ、その両方を持った存在をマフォリーと言うけど、本当にいるとは思わなかったわ。どちらかだけでも数百年に一人現れるかどうかというほど少ないから」
「名前からわかっていましたが、ミツキ様は希少種族だったのですね」
「人間が魔素を扱えるだけですよ。そもそも魔族なのだから魔素を扱えて当たり前じゃないですか」
「そうですが、ミツキ様が特別な存在にかわりありません」
「二人とも魔素について勘違いしてない?魔族が勝手にマナのことを魔素って言ってるだけで、ミツキの魔素は別物よ」
「「えっ!」」
「それはどういうことですか?」
「これ以上はさっきのでは不足よ」
不敵な笑みを浮かべるケイトに、ランスは警戒心を露にするが、続くケイトの言葉に驚くことになる。
「そんなに恐い顔しないで、鎧君。それに、今のあなた達には支払えないわ」
まさか自分の姿が見えている、そう言葉がランスの脳裏を過る、そんなことはあり得ないとランスは頭を降ってその考えを追い出す。しかし、目の前の女性は嘘を言っているようには見えない。
「そろそろ帰った方がいいわ」
ケイトは小屋の窓に眼を向け唐突に言うが、窓の外に生えるロストバインで外の様子をわからない。
「そうですね。あまり長居をするのも悪いでしょうから」
「これはサービスよ」
「何ですか、これ?」
「ロストバインの薬よ。それがないと帰れないでしょ」
二人に渡されたのは直径二ミリの丸薬だ。それは飲む必要がなく指で潰せばロストバインの影響を一日受けなくなる。ランスのように実体が無い種族はポーション等のアイテムに制限があるが、これは使用可能だ。
ケイトにお礼を告げ、二人は小屋を後にする。一人小屋にいるケイトは確かにそこにいる何かと話をしている。
「………」
「ええ、彼なら大丈夫よ。きっとあなた達と仲良く出来るわ」
「………」
「嘘はいってないわ。あれは、彼女自身で気が付かないといけないことだから」
「………」
「そうね、再び糸が紡ぐまでに私達も準備をしないとね」
「………」
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ミツキ
種族:魔人
属:マフォリー
HP:F MP:D-
STR:G VIT:E INT:D- MND:D DEX:E AGI:G
スキル:闇魔術Lv20 光魔術Lv20 魔力操作Lv8 気配察知Lv17 鑑定眼Lv6 言語学Lv13 魔素収納Lv1
専用スキル:アノルマ
SP:5
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