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WORLD SELECT ONLINE  作者: 黒胡椒
11/24

ミツキと白騎士 2

「こんばんは」

 ミツキが挨拶をすると、デュークは「おう」と短く返事をする。

「お久しぶりです、デュークさん」

「ん?そっちのはランスか?」

 ミツキの傍らに立つ純白の鎧を見て、デュークはランスとわかったようだ。

「久しぶりだな。β以来か?」

「そうですね。お互い忙しく、なかなか時間がありませんでしたから」

「可愛い嬢ちゃんとは仲良くなる時間はあるようだがな」

 デュークは皮肉めいた物言いをするが、顔は笑っている。相変わらずの笑顔だ。

「えっ、いや、これはなんというか…」

 ランスはデュークに頭が上がらないようで、騎士のRPも忘れ、たじたじする。

「お二人は仲が良いですね」

「学生時代の後輩だからな。嬢ちゃんに迷惑かけてないか?こいつはRPしてるせいで、空気を読まないことするからな」

「最初は驚きましたが、大丈夫ですよ」

「そうか、こいつが何か仕出かした時は俺に教えろよ。しっかり、落とし前つけさせてやるからな」

 ガハハと笑うデュークに対して、ランスはビクビクと身体を震わせている。過去に何かあったのは一目瞭然だった。

「それでだ、今日、嬢ちゃんを呼んだのはこいつを渡したくてな」

 ミツキに手渡されたのはポーション瓶が五本程入る、茶色いポーチだ。腰に付けることを想定して、ベルトを通すことが出来る作りになっている。

「これは?」

「そのポーチは登録したアイテムをメニューを開かず出せる装備だ」

 通常、プレイヤーがインベントリ内のアイテムを出すには、メニュー画面を出し、アイテムの項目を選択、そこから必要なアイテムを探し、個数を選択するという手順が必要になる。街中や休憩時のように安全な状況ならそれで構わないが、戦闘中にそんな余裕はまず無い。そのため、戦闘で必要になるポーション等はあらかじめインベントリから出し、身に付けておくのが一般的だ。

 しかし、このポーチがあれば、登録したアイテムに限るが、その手順を省略して、ポーチから一個ずつアイテムが取り出せる。

「便利ですね。大切に使わせてもらいますね」

「デザインや色を変えたくなったら言ってくれ、出来る範囲で要望には答えるからな」

「はい、今はこのまま使いますが、装備が変わったときに頼むかもしれません。あと、これはお土産です」

 そう言って、ミツキはインベントリから魔素水が入ったポーション瓶を百本出す。デュークはその数に目を見張る。

「全部、魔素水か?どれだけ時間かけたんだよ」

「デュークさんを待っている間に作っただけですよ」

「本当か?」

 覇気がある顔で迫られ、ミツキは反射的に姿勢を後ろに反らす。すると、デュークの視線を遮るようにランスが前へ出る。

「本当ですよ。途中からですが、ミツキ様が製作するお姿を拝見しました。それは驚く速さで一度も失敗せず、これだけの魔素水を作り上げていました」

 デュークは眉間にしわを寄せ考え始めた。マナ水は作れるようになったが、生産成功率が三割を切る。残りの七割以上は最初のミツキのような失敗ではない。ただの水から変化がなく、MPを消費してしまうだけだった。

「えーと、私何か変なことしました?」

「ああ、嬢ちゃんの情報で、何人かマナ水を作れるプレイヤーはいる。だが、一日に生産できる量はせいぜい二十個だ。とりあえず魔素水は前回と同じ価格で引き取らせてもらうがいいか?」

「はい、お願いします」

 魔素水を一本千五百N、合計十五万Nの収入だ。ポーション瓶は一本たったの十Nなので利益しかないといってもいいだろう。

「嬢ちゃんが変わってるとは薄々感じていたが、ここまで規格外だとは思ってなかったぞ」

「そんなこと……」

 ない、とミツキは言いたかったが、この前アウラ言われたことを思い出し口を紡ぐことになった。

「まぁ、マナ水のことはこっちでなんとかするさ。そういえば、東のボス倒したみたいだな」

 デュークは確信はないが、マナ水のことに対しては考えがあった。そのため、ミツキには詳しい話を聞こうとせず、ランスに話題を振った。

「相変わらず耳が早いですね」

「で、どうだった?」

「山の麓に新たな街がありました。近くには鉱山と見られる山が確認できたので、鉱石系アイテムが豊富に採れると思われます」

 彼等が情報交換をしているのを横で聞きつつ、ミツキは今後の予定を考えていた。

 言語学のスキルレベルを上げるのを途中で切り上げ、デュークと会ったため、もう一度、エルサの元に行くのはなんとなく躊躇われた。フィールドに行こう、と予定が固まりかけたところで、話を振られる。

「ミツキ様はこの後、どうお過ごしになられますか?」

「街の外に行こうと思ってますよ」

「なら、こいつを連れていけ。堅苦しいが、腕は確かだぞ」

 デュークはランスの背中を勢い良く叩く。かなり強く叩かれたのか、ランスは体勢が崩れていた。

 ランスがいるなら、少し強いモンスターが出現する場所でもいいかもとミツキは思い始める。ボスを倒せるパーティーの一員であり、決闘で実力があることは証明されている。更に、デュークのお墨付きだ。

「では、お願いしても良いですか?」

「仰せのままに」

 ランスはまたもミツキに片膝を付き、ミツキが苦笑いをすると、デュークは純白の兜を殴り「急に変な行動するな」と注意する。


 デュークと別れ、ミツキとランスは南に向かう。目的地は南の森の奥、街周辺より強いモンスターが出る地域だ。

 広場から目的地へ歩いている時、ミツキは決闘であったことをランスに質問すると、ランスは気にすることなく教えてくれた。自分のスキル、特に珍しいスキルを持っている場合、詮索されることを嫌がるプレイヤーは少なくないが、彼はそうではないようだ。


 ランスが相手の攻撃が予知するように避け続けた答えは、相手はスキルレベルが上がると使用できる『技』を頻繁に使っていたからだ。魔法スキルのレベルが上がると新たな魔法を覚えるように、近接職の武器スキルにも『技』というものがある。近接職は『技』を使うとMPを消費し、強力な攻撃を出せるが、ゲームで設定された動きをすることになる。そのため、『技』を見慣れたプレイヤーなら、相手の動きで何をするかはわかるようだ。ランスは「システム通りに動くプレイヤーはモンスターよりも雑魚ですよ」と言う程だ。

 ランスは相手の男が『技』ばかりを使うプレイヤーと知っていた訳ではない、大剣を背負って見るからに近接攻撃主体なのに、MPポーションが足りないと喚いていた。そこから、ランスは予想したのだ、男はMPを消費する攻撃をメインにしてくると。

 次に教えてくたのは、ランスが勝った方法だ。決闘では、リビングアーマーと言っていたが、実はレイスだと言う。ランスに実体は無く、憑依に特化した属で、物に憑依しなければ何も出来ないらしい。決闘では途中から、相手の大剣に憑き、倒したとのことだ。だからといって何にでも憑依出来るという訳ではなく、戦うために作られた装備にしか憑依出来ないと説明する。


 ランスの解説は門に着く頃に終わる。二人は門を出て森へと入る。現れるモンスターをミツキが魔術で倒すと、魔術を初めて見たアウラと同じような反応をするランス。ミツキは「女には秘密があるものよ」と冗談半分で言ったつもりだが、ランスはその言葉に納得し、それから変な反応をする事も、スキルを詮索する事もなかった。

 木々に囲まれ、モンスターの出現率が高くなる辺りでランスが口を開く。

「この辺りで狩りをするのですか?」

「ん?もう少し奥に行くとモンスターが強くなるみたいなので、そこまで行ってみようと思ってますよ」

 南の森を奥に進むと、東西に走る小さな川がある。その川を越えると出現するモンスターの種類が変わる。ミツキはそこに向かいたいが、同行者はあまり気が進まないようだ。

「行くのは止めておいた方がいいですよ。以前に仲間達と行ったことがあるのですが、全員教会に送られてしまいましたから」

「そんなに強かったのですか?」

「いえ、モンスターは倒せないほどではありません。その時は森から抜け出せなかったのです。まるで、幻術で拐かされているように、同じ場所をぐるぐると回っている感じがしました。森から出られないままアイテムも少なくなり…と言う感じです」

 ランスは苦虫を噛み潰す思いでミツキに告げた。ミツキにとっては幻術にかけられていなくても、迷子になる自信がある。帰り道はランスに頼ろうとしていたミツキは考えあぐねた。

「なにか目印があれば迷わなくて済みそうだけど」

 ぼそっと言った言葉にランスが答える。

「モンスターが変わるのは小川を渡ってからなので、川沿いに歩けば大丈夫かもしれません…」

「そうなの?なら、川を目印にすればきっと大丈夫だよ」

 楽観的なミツキとは対照なランスは「確証がない以上危険です」と止める。しかし、最終的にランスはミツキに従うことになった。彼女のどこか自信ある笑顔には勝てなかったようだ。


「この向かい側ですね。どうやって渡りましょうか?」

 目の前に、深さは膝上まで、幅は二メートルの川がある。流れは緩やかで、歩いて渡っても問題無さそうに見える、しかし、ランスは、わざわざどのように渡るかを聞く。

「歩いて渡れそうですよ?」

「その……お召し物が汚れてしまいます。よ、よろしければ私がミツキ様を抱えて渡りますが…」

 兜越しでも分かりやすく、恥ずかしそうにランスが言う。騎士のRPをしていても完全になりきれていない、その様子がミツキの目には可笑しく映る。

「ふふっ、そうですね。では、お願いします」

「えっ、あ、はい」

 ランスは断られるものだと思っていた。ゲームの中でも、今日会ったばかりの男に抱き抱えられるのは嫌だろうと無意識に思っていた。

 ミツキは手を差し出し、ランスを待っている。ランスは緊張で手が震えるのを抑え、ミツキを抱き抱える。勿論、お姫様抱っこという形で。

「落とさないでくださいね」

「は、はい」

 女性を初めてお姫様抱っこしたランスは緊張で声が上ずる。固い足取りで川を渡る、途中、足が滑り転びそうになるが、何とか体勢を立て直した。だが、そのせいで、水飛沫が上がり、ミツキにかかる。

「す、すいません」

「大丈夫ですよ。転ばないように気をつけてくださいね」

 少し危ない場面があったが、無事反対の川岸にたどり着き、ミツキを地面へと下ろす。

「ありがとうございます。では、川沿いに進みましょうか」

 そう言ってミツキは歩き出す。その後ろをランスはモンスターを警戒しながらついていく。


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