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WORLD SELECT ONLINE  作者: 黒胡椒
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ミツキと白騎士 1

 『言語学』のスキルを習得したミツキはエルサの部屋で本を読む。魔法に関する本は、アウラが言った通り、五種類の魔法しか書かれていない。

 エルサに闇や光の魔法があるか訊ねるも、知らないという。ミツキはふと気付く。

 ここにある本はどれも魔法と表記され、魔術の単語が出てくることはない。


「エルサさん、魔術って知ってる?」

「魔術?昔、聞いたことがあるけど、いつだったかしら」


 エルサは頬に手を当て、過去の記憶を探る。何かを思い出したのか、本棚から古い手帳を持ってきて、パラパラとページを捲る。


「あったわ。百年くらい前だったかしら、魔法研究をしていた人が亡くなって、その研究資料の一部を私が貰い受けたわ。その日記に、魔術の事が書かれていたわ」


 * * * * *


 ○月□日

 私は、不思議な魔法を使う冒険者の少年に出会った。彼の魔法は火魔法にとてもよく似ていた。彼の操る火は赤くなく青白く輝いていた。

 私は彼に魔法研究のために何度か魔法を見せて欲しいと頼んだ。彼は快諾してくれた。


 ○月△日

 私がそれは火魔法なのかと彼に問うと彼は火魔術と答えた。彼が言うには魔術とは神様の力の一部を使うことだそうだ。確かに精霊に願い対価を払うことで精霊の力の一部を借りる精霊魔法は存在する。それに似たようなものか?しかし私は神を信じている酔狂な人がまだ存在していたことに驚いた。むしろ彼自身が火の神と言われたほうが納得するかもしれない。


 ○月☆日

 彼の火魔術は様々な火魔法の特徴を全て持っていた。それだけでなく火魔法では不可能な高度の現象を起こすことも可能だった。


 * * * * *


 ここで日記は終わっていた。「続きは?」と訊くとエルサは首を横に振る。


「彼の資料に魔術と記されたものは、これ以外ないわ。もし、詳しい事が知りたいなら、首都にある魔法ギルドに行ってみるといいわよ」

「ありがと。首都に行くことがあったら寄ってみるよ」


 その時、ピピピと通知音が鳴り、メールが届く。


『例の物が用意出来た、今どこにいる?』


 デュークからだ、おそらく魔素水の情報料のことだろう。ミツキは『教会にいますよ』と返信する。

 すぐに『三十分後に広場の南で』と返ってきた。


 メールを読んだミツキはエルサに別れを告げ、約束の場所近くのベンチでお土産を用意しながら、デュークを待つ事にした。


 インベントリからポーション瓶を出し、魔素水を作っていると、急にミツキの手元が暗くなった。


「おい、そこのガキ!」


 男は座るミツキの前に立って怒鳴るが、ミツキは素知らぬ顔で、魔素水を作り続けている。


「おい、無視すんじゃねえ」


 男は声を荒らげ、ミツキの肩を掴む。周囲のプレイヤーの視線が集まり、どよめく。触れられた事で、漸くミツキは不機嫌な顔をした男に目を向けた。


「何か用ですか?」

「それマナ水だろ。俺に全て寄越せ」

「違います。なので、離して下さい」

「なっ、嘘言ってんじゃねえ。そんなことよりも、さっさと寄越せ」

「女性にその様な横暴な言動をするとは、私には理解し難いことです」


 会話に割って入ったのは、聖騎士風の全身鎧を着た人だ。

 そう、ミツキが防具屋巡りをした時に見た、あの見た目だけの純白の鎧だ。ミツキはまさか、あの鎧を買った人物が居ると思いもしなかったのか、顔が少しにやけている。

 彼のおかげか、ミツキの肩を掴んでいた手が離れ、男は鎧の人につっかかる。


「なんだてめぇ。お前には関係ないだろ」


 鎧の人は男の言葉を無視して、ミツキに頭を下げる。


「無礼な輩はこの私に任せて下さい」


 ミツキは運営に報告するつもりだったが、純白の鎧を着た人に興味を持ち、少しだけ様子を伺うことにした。危なそうになればすぐに運営に連絡をするが。


「わかりました。騎士様にお任せしますね」

「承りました」


 冗談めいて言ったミツキの言葉は、鎧の人のやる気を刺激した。

 無視をされ続ける男は顔を赤くしながら、怒鳴り散らす。


「さっきからなんなんだよ。俺のことは無視かよ。つか、てめぇは誰だよ。横から首突こっんできて」


 純白の鎧は、大きな溜め息を吐く動作を、わざとらしくする。


「貴方のような方に名乗る名は持ち合わせておりません。

 ですが、アイギスの騎士の一員、とだけ申しておきましょう」


 その言葉に周囲の野次馬が更にざわめく。


「おい、あのアイギスか?」

「そんな人物が今ここにいるか」

「あっ、でも、あのフルプレート装備している人、アイギスのメンバーと歩いてたの見たことあるかも」

「似たような装備売ってなかった?」


 周囲のプレイヤー達は半信半疑のようだ。


 『アイギスの騎士』とはパーティー名であり、そのパーティーは六名全員がトップレベルの実力を持っていた。β時代では、メンバー全員がユニークスキルを習得するなど非常に有名なパーティーだ。


「はっ!てめぇらがMP回復ポーションを独占してなきゃ、俺だってすぐに追い付けるぜ」

「私達はその様なことはしていませんよ。ただ、貴方のような不逞の輩と同列に並べられるのは腹立たしいですね」

「なら俺とPvPをしようじゃねぇか。負けた方はこの場から消える、で文句ないよな?」

「ええ、いいですよ。ですが、こちらは装備を解除した状態にしましょう。これくらいのハンデがあっても余裕でしょうが」

「ふん!それで負けても文句言うんじゃねぇぞ」

「では、早速始めましょうか」


 鎧の人が男にPvPの決闘を申請する。


 彼等の前にウィンドウが現れ、男は条件無し、鎧の人は装備、アイテム使用不可と表示されている。そして、勝利条件は相手のHPを全損させる、所謂デスマッチだ。


 決闘は街という安全エリアで、プレイヤー同士が闘う方法だ。普通なら、特に負けてもデメリットはない、しかし、デスマッチの場合は違う。決闘であっても、HPが無くなるということは、デスペナルティを負うことになる。

 そのため、HPが何割以下になったら勝敗が決まるルールで行うのが一般的だ。


 二人がルールを確認し、了承すると、広場の一部が決闘エリアに変更される。決闘エリア内にいたプレイヤーはエリア外へ転移させられ、エリア内は鎧の人と絡んできた男の二人だけになる。ミツキはなんだか大袈裟になってきて、面倒に感じ始めているが、自分も原因の一部なので決闘の行く末を見届ける。


 決闘エリアに立つ鎧の人の盾や腰にさしていた剣は無くなっていたが、純白の鎧は変わらず、身に付けていた。


 その中央で58、57、56と数字が減っていく。


「おい!何で鎧は着けたままなんだよ!」

「私はリビングアーマーですので、鎧自身が私ですよ」


 純白の鎧の兜を取ると、中はがらんどうだ。それでも男はグチグチと言い、納得していないが、自分の背にある大剣を構える。


 3、2、1、


 0となった瞬間、男は鎧に向かって走り出す。全く動かない鎧に対して大剣を振りかぶり、一気に振り下ろす。鎧は半歩隣に移動するだけで男の剣を避ける。


「くそがっ!」


 悪態を付きながら、男は幾度となく縦に、横に、斜めに、大剣を振るが、鎧の人は予知をしているように、最小限の動きで避け続ける。軽やかにステップをする彼の表情が伺えたのなら、きっと涼しい顔をしているだろう。


「なんで当たれねぇんだ」

「スキルに頼って己を磨かないからですよ。そろそろ終わりに致しましょう」


 そういい終わると、純白の鎧が崩れ落ちた。

 すると、男が奇妙な動きをする。自分が持っている大剣に振り回され、奇妙な踊りをしている。


 大剣は男の手から離れ、フワリと男の前に浮く。


「はっ?」


 大剣は誰に持たれることなく凪ぎ払い、男の首を切断する。

 それを切っ掛けに勝敗が着く。『winner ランス』と決闘エリアに表示された。HPが無くなった男は教会へ送られ、この場から姿を消していた。


 まだ周囲に多くのプレイヤーがいる中、純白の鎧はミツキの近くまで来ると、片膝を付いた。

 その光景に騒いでいたプレイヤーは静かになる。今から何が起こるのか、好奇の眼差しを向けている。


「私はパーティー、アイギスの騎士に所属するランスと申します。不逞の輩は排除しましたので、ご安心下さい」


 ミツキは、素で「なにしてるの?」と言いそうになったが、何とかその言葉を飲み込み、自己紹介とお礼の言葉を言った。

 ランスは騎士のRPロールプレイをしている事は有名なのだが、ミツキがそんな事を知っているはずはなかった。


「感謝の言葉をかけて頂き光栄です」


(こういう時ってなんて返せばいいの?大儀であった?ご苦労様?どっちも偉そうだよね。えーと、他には…)


 ミツキは頭の中で色々な言葉を引っ張り出すが、この状況にしっくりくる言葉は見つからなかった。


「ところで、ミツキ様は此方で何をしておられたのですか?」


 ランスは騎士のRPに、どう反応して良いかわからないプレイヤーと出会うことは珍しくなかった。別に相手を困らせたい訳ではない。

 そのような時は、相手が困らない話題に振ったり、片膝を付くことをやめたり、と彼なりに努力をしている。


「あっ、はい。魔素水を作ってました」

「そうでしたか。広場で行うのもよろしいのですが、生産ギルドで個室を借りた方が良いと思いますよ」


 生産ギルドは生産プレイヤーに対して個室を提供している。製法の秘匿のためだけでなく、最低限の生産施設も備わっているため利用するプレイヤーは多い。

 ランスはそれとなく、さっきのような問題が起こらないよう諭す。


「そうですね。次からはそうしようと思います。今日はここで人を待っているので、もう少しここで作ろうと思います」

「では、見学をしてもよろしいですか?」

「見ても面白くないですよ?」

「魔素水を生産する場面を見たことがないもので」

「わかりました。その代わり、なにかあったときは守ってくださいね」


 ミツキは茶目っ気ある笑顔をランスに向ける。

 ランスは自分の表情がわからない種族であったことに感謝していた。もし、彼の素顔が見れたなら耳まで赤くしていただろう。


「…かしこまりました」


 ミツキは手早く残りのポーション瓶の水を魔素水に変えていく。そして、五分足らずで魔素水を百個作り上げた。


「これで完成です。どうでしたか、見てても、特に面白くはなかったでしょ?」

「いえ、とても興味を引かれました。ミツキ様はこれだけの量を失敗することなく、一度に作れるのですね」

「これくらいなら普通に誰でも出来ますよ」

「嬢ちゃん、待たせたな」


 タイミング良く約束の人物が現れた。


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