森の侵略者、最高の知能故
俺達は再び森を彷徨っていた。かっこつけて集落を後にしたが、もう少し楽しんでくればよかったのではないだろうか。まぁいい、俺達はドラミングを昇華するために旅をしているのだからな。
ふと、重機の音が聞こえてきた。重機の音、つまり人間がいるということだ。方角は、あっちだな。
進んだ先に見えたのは、人間達が森林を切り開いている光景だった。
いかん、森林破壊を止めなければ俺達ゴリラの住処がなくなってしまう。しかし、人間にドラミングは通用するのだろうか?
心配になり森林破壊を傍観するだけの存在になってしまった俺の肩を、シルバが優しく叩いた。
今の俺達ならいけるさ。シルバの口からは言われてないが、そう励まされてる気がした。
ならば行こう、人間達を説得しに! 俺達は、坂を駆け下りる。そして俺達二人は、右手を突き出し人間達に指差すとこう言い放った。
『『貴様らにドラミングバトルを申し込む!』』
さぁ、聞き届けよ。俺達のドラミングハーモニーを!
情熱的なドラミング、怒りのドラミング、軽快な音楽を奏でるドラミング、悲しみのドラミング。俺達にも感情も知恵もあるんだ。人間だった俺から言わせて貰えば、人間とゴリラは大して変わらない。だから、森林を破壊しないでくれ
どうだ、俺達のドラミングは……?
しかし、人間達は俺達のことを指差して笑っていた。ふと、一台のトラックが俺達の前にやってきた。中からドラム、ギター、ベース、マイクが運び出される。
ま、まさかあれは───
『───バンド!』
『知っているのかケイ!』
『あれは人類の生み出した最高峰の音楽…… この勝負、俺達に勝ち目なんかないぞ! くそっ道具を使うなんて卑怯な!』
広大なこの空間に、人類の叡智が生み出した音色が響き渡る。畜生、認めたくない。認めたくないが、あいつらのバンドの方が断然格上だ。
『ああ、ケイよ』
『俺達はここで終わりだ。こんなに呆気ない最後で悪かったな』
『楽しかったぞ、お前とのドラミングは』
やがてあいつらの演奏が終わる。リスペクトドラミングは…… 出来ない。あの音色をドラミングで再現など、不可能だった。私達は降伏の意を見せるため、地に伏せる─── その時だった。
『ドゴォン!』
一筋のドラミングが響いたのだ。この音、聞き覚えがある。けたたましい轟音。この暴力のような音色は、ボスゴリラだ!
辺りを見回せば、集落にいたゴリラ達もいる。お前ら、助けに来てくれたのか!
『シルバ、まだやれるみたいだな』
『ああ……』
俺達全員は、ある一つのドラミングを奏で始めた。タイトルは共生。俺達とボスゴリラが共に奏でるということ、それは和睦に成功したということだ。これこそが、ゴリラの生き様なのだ。
なら、人間とゴリラも和解できないのだろうか。それを伝えるべく、必死にドラミングを奏でる。
すると、俺達のドラミングにバンドが割り込んできた。
……なんだ? 両方が爆音を出しているというのに、互いが互いの音色を引き立てている。これは紛れも無く、後から合わせてきた人間達の実力だろう。圧倒的実力差に涙が出そうになるが、とにかく今は楽しい。
なんせ今俺達は地上で初めて、人類とゴリラが協奏しているのだから。素晴らしいじゃないか、種を越えた共存というのは─────
レッツ、ドラミング!