ゴリラの長、悪逆非道につき
我が戦友、シルバと共に俺は森を旅してゆく。俺達より強い奴を探すために。
『見ろ、ケイよ。あそこに集落が見えるか』
シルバの指す先にはゴリラの集落が存在していた。総勢50頭からなる、巨大な集落だ。そして、彼らの中央にはボスゴリラ。数頭のメスゴリラを蔓延らせていた。
なんてうらやまけしからん。シルバよ、乗り込もうではないか。そう言おうとした瞬間、シルバは俺の元を飛び出し、ボスゴリラへとこう言い放った。
『貴様に、ドラミングバトルを申し込む!』
あいつの声が、怒りに満ちていた。心臓がはちきれんばかりの怒号であいつは叫ぶ。
『ゴリラの身でありながら、和を尊ばぬ貴様の根性、叩き直させてもらう!』
シルバは両の手を広げ、全身全霊のドラミングを奏でる。あいつの憤懣が、集落全体に響き渡る。あいつの憤懣が、俺の身に染みてくる。
だがボスゴリラは依然として、メスゴリラを蔓延らせたまま不敵な笑みを浮かべていた。
なんということだ。あいつのドラミングが、響かないと言うのか!?
やがて、シルバのドラミングも終わる。ああ、お前のドラミングは素晴らしかった。しかし、なんだというのか。あいつにはゴリラの心がないとでも言うのか? あいつは、他人のドラミングを受け入れる気がないというのか。
苛立たしい感情をぶつけるように奴を睨んだ。
奴は首を横に振り、おもむろに立ち上がった。俺達を冷ややかな目で見下ろす。
奴が左腕を振り上げた瞬間、全身に悪寒が走る。なんだ、まだあいつはドラミングを奏でてないというのに、全身が震えて仕方がない。
───左腕が、振り下ろされる。
んぐっ!? 呼吸が、詰まりそうだ。なんということだ、あいつのドラミングを、ボスゴリラのドラミングを聞いた瞬間、血液が停止した感覚に襲われる。
二発、三発。その音を聞くたびに、俺の体が押さえつけられてゆく。なんて暴力的なドラミングなんだ……。シルバ、ここは一度、逃げるぞ……。
ようやく、ボスゴリラのターンが終了した。地獄のような責め苦だった、しかし俺達は耐え抜いた。シルバ、逃げるぞ!
力を振り絞り立ち上がろうとする俺の前では、再びドラミングを奏で始めるシルバの姿があった。
『おい、お前なんで逃げないんだ!』
『ドラミングバトルから逃げることは許されない』
はぁ!? 逃げなければお前はここで一生あいつの言いなりにならなければいけないというのに、お前は戦うのか? お前は、そこまでドラミングバトルに魂を捧げてるとでもいうのか?
『あいつの腐った性根は絶対に正してやらなければならない』
それだけ言うと、シルバはドラミングを再開した。
しかしその音色は既に力なく、俺のハートにすら響かない。あいつも、分かってない筈がないだろう。それでもあいつは重い腕を必死に上げては叩いている。
……ああ、そうかよ。分かったよ。
『っ!? このドラミングは……』
そう声を漏らしたのはシルバ。振り返るあいつの先には、ドラミングを奏でる俺がいた。
俺がドラミングで支援してやる。お前のドラミングを後押ししてやる。これが、俺のドラミングブーストだ。
『馬鹿なやつだ』
シルバは後ろで奏でる俺にそう吐き捨てて、ボスゴリラへと向かった。
力なかったシルバのドラミングが、徐々に勢いを取り戻してゆく。それどころが、俺のドラミングに押されシルバのドラミングは加速した───
ああ、確かにボスゴリラ。お前は強かったよ。だがお前の敗因は一つ。『根性が腐っていた』ことだ。その性格が、俺達を一致団結させてしまったのだからな!
くらえ、俺達のドラミングハーモニーを!
不敵に構えていたボスゴリラの表情が曇ってゆく。右膝を地に付け、左腕で体を支え始める。そして奴は、失神し地に伏せるのであった。
瞬間、湧き上がる歓声。集落のゴリラ達が感謝のドラミングを奏でる。音も揃わず酷い音色であったが、あいつらの感謝が身に染みる。
俺達は、あいつらのドラミングに見送られながら、集落を後にするのであった。