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オッサン受けも悪くはない

「身分証の提示をお願いします」


村の入り口に立ってた門番に足止めされる。


「私達は旅の行商人なのですが、道中魔物に襲われました。なんとか逃げる事は出来たのですが、荷物はほぼ紛失してしまいました。身分証もです…」


身分証どころか記憶の持ち合わせすらない僕達は、適当にでっち上げる事にした。


「そうですか…それは大変でしたね」


上手く同情をひけたようで、すんなり通された。


門番さんがやたら親切で、食事や自宅で良ければと宿泊まで提示してきたが、アオが頑として受け付けなかった。


「全く油断も隙もない」


何やら憤慨している。


せっかくの親切だし、有難く受けても良かったんじゃないかと僕は思うんだけどなあ。


とはいえ騙してる罪悪感も多少はあるし、まあいいか。


村はこじんまりとはしていたが、人々の活気はあった。


メインストリートと思われる通りからは、並んだ屋台から美味しそうな香りが漂っている。


あ、焼き串売ってる。なんの肉だろう。


でもいい匂い、美味しそう。


食べたいが、残念ながら先立つものが無いんだった。


それに、先程から視線を感じる。


どうも僕が注目されてるようだ。理由は多分、この服だろうな。


日本の、おそらく高校の制服そのままなのである。


異世界じゃ浮くよなやっぱり。


悪目立ちしそうなので、まずは服を売ったら大変に珍しい上に上質な品だったらしく、思いの外高値で売れた。


代わりにこちらの世界の服を調達したけど、それを差し引いても結構な利益である。


思いの外楽にこの世界の金銭を手に入れられた。


よし、焼き串だ!


「いや、宿屋でしょう。」


アオに諭された。


「宿屋なら食事は提供されますし、このような小さな村です。先に宿屋を確保しておいた方が良いでしょう」


「じゃあ、食べながら宿屋探そう」


アオの分も買ってあげるからさ。


…んー、ちょっと筋張ってるけど、この肉ウマー!塩加減もちょうどいいね!


「全く仕方がないですね」


ちょっと困ったような、でもどこか嬉しそうな顔で笑うアオ。


ふふ、アオもこの焼き串気に入ったのかな。美味しいよね!



宿屋は一軒しか無かった。


狭くも広くも無いけど清潔な部屋。


風呂は無いけど、裏の井戸で体を洗い流す事はできた。


宿の食事はシンプルな味付けだけど中々美味しい、んだけど。


「おら、とっとと酒持ってこい!」


隣り合わせになった客が騒いでいて喧しい。


髭面の巨漢男とその取り巻きの二人。


意味もなく大声で話したり、テーブルに足をどっかりと乗せたりマナー違反甚だしい。


「ぎゃははは!今日は儲かったぜ!おらどんどん酒持ってこいコラア!」


あーもううるさいなぁ。


久しぶりのまともな食事だっていうのに、台無しだ。


「追加のお酒です…」


「やっとか!おっせーんだよ全く!」


「!お客様、困りますっ」


追加のお酒を持って来た女性店員さんに絡み始める巨漢。


「遅れたんだからこれ位のサービスしろよ」


下品に笑いながら店員の手を握ったり、腰に手を回したり。


「いい加減にしたら?みっともないな」


関わりあいにはなりたくなかったけど、こんなの見て見ぬ振り出来るか。


「ああ?なんだチビ。」


巨漢がこちらに気づいたらしく、ドスの効いた声を発してきた。


僕に気を取られた巨漢から、無事店員さんは逃れ厨房に戻っていく。


「…なんだ、お前女か?チビだがよく見たら結構な別嬪じゃねえか。何だ、俺に構って欲しいのか?仕方ねえなあ、一晩くらいなら可愛がってやるよ」


グハハ、と笑い飛ばす巨漢。


俺にも回してくださいよ、しょうがねえなあ、今日の俺は機嫌がいいからな!特別だぞなどと取り巻きと言い合っている。


取り巻き共々、つくづく下品でどうしようもない奴らだな。


だいたい僕は女じゃないし!チビでもない、まだ成長盛りだし!多分!


「…貴様」


巨漢達のあまりの有り様にアオがキレはじめたようだ。


巨漢達と僕の間に出る。


こんな狭いところで力を持つアオが暴れたら周りにも被害が及ぶかも。


それはまずいな。


「アオ、落ち着いて」


「しかし…」


「ヒョロいのが出てきてなんだってんだ。先に相手してやろうか。そのお美しい顔面ボコってもっといい男にしてやるぜ!」


「そうだな。では相手になってもらおうか…」


「アオ!」


こら巨漢、アオを煽るな。


アオがイケメンだからって焼きもちやくなっての。


本当みっともないったらないなーもう。


そんなに構ってくれる相手が欲しいなら、勝手に巨漢とその取り巻きで仲良くやってたらいい。


そうだな…巨漢×取り巻きだと普通でつまらないから、取り巻き×巨漢でどうだ。


(酒に酔い、頬に赤みがさし、いつもより機嫌がよくニコニコ笑う巨漢。酔いつぶれ力を失う巨漢を介抱している内に、そのあまりの無防備さに取り巻きはある種の欲望を覚える…。


店には通常の代金に大幅の迷惑料を上乗せして払い、巨漢を支え店を出、夜の闇に消え失せる巨漢とその取り巻き。)


そんな妄想をしていたら、突然巨漢がテーブルに突っ伏した。


「ボス?!どうしやした…?!…酔いつぶれてる?そんな、今までこんなになったこと無いのに」


「こんな所で無防備に…!…って、この人こんなにかわいかったか…?!」


酒では無い力で頬を赤らめているように見える取り巻き二人。


熱い視線で巨漢を見つめ、ゴクリ…と喉を鳴らしている。


「おい…ずらかるぞ。…釣りはいらねえ!」


巨漢の懐から相当な額の金銭を出し、テーブルにバン、と置く。


その後無言で急用が出来たとばかりに急いで、巨漢を抱え店を出て行ってしまった。


「一体何が…」


「さあ」


アオも店員も、周りにいた客も一連の出来事にポカンとしている。


本当どうしたか知らないけど、面白かったからまあ良しとしよう。


ちなみに巨漢とその取り巻き、どちらも立派なオッサンでした。


無事平和に食事を楽しんだ後、同じ部屋で眠ったアオは寝付きは悪かったようだが疲れが出たらしく、その後ぐっすり眠れたようだ。


「同じ部屋で眠ってしまった…」


なんか凹んでるようだけど顔色はいい。良かったね。


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