宝物~幸せの花飾り~
テレアを仲間に加えて、いざすぐにエルサイムへ!……とはいかないもので、長旅には準備が必要になってくる。
それは旅の必需品だったり、友達や親との一時の別れだったり。
エルサイムへの遠征は5日後とした俺たちは、ヤクトさんのご厚意もあり出発の日までそのまま宿に泊まることになった。
実のところ、ヤクトさんからの連絡がいつ来るかわからなかったこともあり、二人して宿にこもりっぱなしだったので、いい機会とばかりに旅の準備と観光も兼ねてマグリドの城下町をエナと二人して練り歩いたのが昨日の話。
そして本題(?)は出発を4日後に控えた今日である。
「う~ん……どうしよう?」
アクセサリーショップのショーケースの前で悩むこと10分。
絶対に似合うと思うんだよなぁ……値段的には全然買えちゃうんだけど……でもなぁ……。
「やはり買おう!」と思ったら、「いややっぱ待てよ?」となりショーケースの前をうろうろしてるのでさぞかし今の俺は怪しい男に見られてることだろう。すいませんねぇこっちもちょっと必死なんですよ。
そうして30分ほど怪しい男の見本であり続けた俺はついに決心し、ショーケースの中の商品を購入するに至った。
「か……買ってしまった……!」
心臓がバクバクと早鐘している。
父親の秘蔵コレクションのエッチなDVDをこっそり拝借する時ですら、クールにこなしたこの俺がなんてざまだ……情けない。
しかし勢いで買ってしまったものの、これどうしようかな?
いやどうするもなにも折角買ったんだから、然るべき人物に渡せばいいだけなんだけど……いいだけなんだけど!
「あれ?シューイチさん、こんなところでなにしてるんですか?」
「違います僕そういうんじゃないです」
「こんなところでなにしてるんですか?シューイチさん」
くそっ誤魔化せなかった。
まさかここでエナに遭遇してしまうとは予想外だった。
「折角「人違いしちゃって恥ずかしい思いしちゃった……次からは気を付けないと!」って気分にさせてあげようとしたのに、なんでスルーするかな?」
「嫌ですよそんな気分になるのは」
「それで?エナはこんなところで何してるの?」
「それを私が聞いたんですけど……」
エナが軽くため息を吐く。
適当なことを言って誤魔化す作戦は失敗してしまったみたいだ。
「暇だったからさ、ちょっとブラブラ~っとね」
「そうだったんですか?実は私もなんですよ」
そうか、エナも暇なのか……暇なのか。
後でエナを探して声をかける予定だったから、これは渡りに船かもしれない。誘うなら絶好のチャンスだ。
ほらいけ!ちょっと軽く「暇なら俺と一緒に行こうぜ?」くらい言えるだろ?ほら言えって!
「良かったらシューイチさんも一緒にどうですか?暇なんですよね?」
ほらぁ!ぼやぼやしてるからエナに先手とられちゃったじゃん!!
「あーうん、そうだな!一緒に行くか!暇人同士さ!」
「なんかその言い方引っかかりますね……まあ確かに暇人なんですけどー」
もう自分のグダグダ加減に嫌気が差してきた。
「昨日も思ったんだけどやっぱマグリドってライノスに比べて都会だよなぁ」
昨日と同じようにエナと連れ立ってマグリドの城下町を散歩する。
努めて冷静に振舞うものの、すれ違う男どもからの「なんであんな可愛い子がこんな冴えない野郎と……」な視線が引っ切り無しに突き刺さってくるものだから、俺の心はすでに弱音を吐き続けている。
ライノスでの時もそうだったが、エナと一緒に歩くといつもこうだ。
「ライノスは王の方針で森などを必要以上に切り開かず、なるべく自然のままを保ち外観をよくするように心がけてるって話ですからね」
そりゃまたエコなことで。
でもその方針のおかげでライノスの空気はとても澄んでいたし、なんだか居心地が良かったんだよな。
とはいえマグリドにはライノスにはない都会っぽさもあるので一長一短って感じだ。
街中を歩く人たちのファッションもライノスよりもおしゃれな感じするし。
「そういや気になってたんだけど、エナってああいうおしゃれな服とか着ないのか?」
「う~ん……着たいって気持ちはありますよ?私だって女の子ですからね」
「それなら着ればいいんじゃないの?」
「だってああいう服って基本的に旅をし続けてる冒険者には耐久度的にも頼りないし、結局丈夫で機能性の高い服を選んじゃうんですよね」
まあバリバリのおしゃれをして冒険者してる奴なんて見たこと……いや探せばそれなりにいると思うけど、少なくとも俺は見たことないしな。
「そっそれならさ?アクセサリーとか……いいんじゃね?」
「そう思って以前可愛いお花の髪飾りをつけてたことがあるんですけど、魔物の攻撃をかわしたときに木にぶつかって壊して以来、つけるのやめました……」
なんでそういうこと言っちゃうかな?渡しづらいじゃん!!
いや、エナに悪気はないんだ……悪いのはこの時代と世界と魔物と木だ。お前ら名前覚えたからな?
「冒険者をやめてどこか静かな町にでも腰を据えるなら、ああいう可愛い格好したいですね」
「一応人並みにおしゃれしたい欲はあるわけね?」
「そりゃありますよー!……でも今のところ冒険者をやめるという選択肢はないですね」
そう言ったエナの顔に心なしか影が差したような気がした。
実のところエナって謎が多いんだよな。
12歳の頃から一人で冒険者をしてるみたいだし、門外不出な魔力の活性化の手段を知っていたり……聞いてみたい気もするけど、まだそう言った事情に踏み込むのは早いんじゃないか?と思う心がその欲求を押しとどめる。
この辺の線引きって難しいところだよな……下手に踏み込んでもしもエナの不興を買ってしまい、もう俺と一緒に行くことはできないなんて言われたら、後悔してもしきれないと思う。
「あのシューイチさん……もしかして具合悪いですか?」
よほど難しい顔でもしていたのだろうか、エナが心配して様子を伺ってきた。
「ごめんごめん!大丈夫全然元気だからさ!」
「でもさっきから心ここにあらずって感じでしたよね?」
やだこの子、俺のことよく見てるじゃない!
エナの顔がだんだん不安で彩られていく。
「えっと……もしかして私邪魔でしたか?何なら私先に帰りますけど……?」
「邪魔じゃないよ!全然邪魔じゃないから!帰らなくていいから!!」
いきなりネガティブスイッチ入れないでほしい!
「そっそうですか……?それならいいんですけど?」
ふう……なんとか誤魔化すことが出来たぞ。
でも「これ」どうしよう……なんかものすごく渡しづらくなっちゃったなぁ……。
「そういえばシューイチさん、さっきアクセサリーショップから出てきましたよね?何か買ったんですか?」
「それ俺じゃなくてショーイチ君っていう俺の友達の知り合いだよ?」
「なにか隠してませんか?」
アクセサリーショップから出てきたところから見られてたのかよ……もう誤魔化しきれないじゃん……。
もういいや、素直に白状しよう。いらないって言われたらテレアにプレゼントすればいいんだし。
「実はこれを買ってたんだ……」
そう言ってエナに紙袋を手渡して「開けてもいいよ?」と目で促す。
「え?なんですかこれ?開けてもいいんですか?」
「うん、エナの為に買ったものだし」
「私に……?」
なんだが壊れ物を扱うような手つきで丁寧に袋を開けていく。
そして中に入ってた透明なケースを取り出し、それを見たエナが目を見開いた。
「これって……昨日私がさっきの店で見てたお花の髪飾り……!?」
「ああ……うん」
昨日、旅用の買い物途中でエナがさっきの店を覗いてみたいと言ったので一緒に付き合ったんだが、その時にエナはショーケースに入ったこの髪飾りを見てたからそれが気になって、こうして今日買いに来てしまったわけだ。
「これを買いに行ってたんですか?」
「昨日それをじっと見てたからほしいのかな?と思ってさ……」
俺のその言葉を聞いて、エナが何だか申し訳ない顔をし始める。
「あー……ごめんなさい気を使わせたみたいで……実はこれ、欲しくて見てたんじゃなくて「これと同じものを昔つけてたなー」って思って見てたんですよ……」
そういうオチかーい!
なんだよそれー凹むなぁー。
「そうですか……だからさっきからシューイチさんの様子がおかしかったんですね」
「あーなんかごめんな?それはテレアに上げるからさ?」
花の髪飾りをエナの手から取ろうとしたら、手をあげて逃げられたので俺の手が空を切る。
「私の為に買ってくれたんじゃなかったんですか?」
「いやそうだけど……いらないだろ?」
再度取り戻そうとしたが、今度は手を下げられたせいでまた俺の手が空を切る。
「どうしてこれを私に買おうって思ったんですか?」
「え?それを言わせるの!?」
「ぜひとも」
何その羞恥プレイ!この子Sなの!?
もうさっきから恥ずかしさが限界点突破してて穴を掘ってでも入りたい気分なんですけど!
「ほら……エナにはいつもお世話になってるし、今回のテレアの件だって頑張ってもらったし……それに俺と関わっちゃったせいで面倒ごとに巻き込まれまくってるだろ?だからせめてものお詫びというか……お礼というか……」
こういう時、「非モテ」と「女性関係不慣れ」というステータスが円滑なセリフ回しを妨害してくる。
真っ赤になりながらエナを見ると、なぜかエナも俺に負けないくらい真っ赤になっていた。
「えっと……まさかそんなまっとうな理由が出てくるとは思わなくて……ただの気まぐれとか、テレアちゃんにも同じもの買ってましたーとかいうオチかと思ってて……」
俺を何だと思ってるんだろうか?
「もういいじゃん!返してくれよぅ!」
「どうしてですか?私に買ってくれたんじゃないんですか?」
「そうだけど……だってこういうものはもうつけないって言ったじゃん」
「言いましたけど、いらないなんて言ってないじゃないですか?」
「言ったじゃん!」って言いそうになったけど、よくよく考えると言ってなかったので危うく売り言葉に買い言葉をしてしまうところだった。
「えっと……じゃあその花の髪飾りもらってくれないかな?」
「はい!よろこんで!大事にしますからね!」
俺の言葉にエナが満面の笑顔で返してくれた。
その笑顔が見れただけでどうしようもなく嬉しかったが、照れくささに負けて俺は目を逸らすのだった。
ちなみに結論から言うとエナはこの髪飾りをつけることはなかった。
どうしてかと尋ねたところ―――
「これは私の宝物ですから!誰にも見せないで、一人の時に眺めて幸せな気分に浸るための物ですから……ね?」
―――と悪戯っぽく微笑みながら言われて、またしても俺は照れて目を逸らしてしまうのだった。




