交渉~青龍の核石~
「君たちがアーデンハイツに着くまでの道中で、何度もカルマ教団から襲撃を受けたとスチカから聞いているよ」
「あいつらとは色々と因縁がありまして……」
どうしたらあの連中と縁が切れるだろうかと毎日考えてるが、どうしても行きつく先が「教団本部を叩きつぶす」しかない上に、それが一番分かりやすくかつ難易度が高いという現状にはため息しか出てこない。
「スチカから聞いた話では、リンデフランデでの神獣事件が始まりだそうじゃないか?教団の手で復活してしまった玄武を君たちが鎮めたのだろう?」
「色々と犠牲を払う結果にはなりましたけどね」
あの事件のせいでフリルは責任を感じてしまい一座を離れることになってしまったし、シエルの奴もこの世界の神様から厄介な頼まれごとをされる羽目になった。
あいつらと関わると本当に碌なことにならない。
「君がこの頼みに難色を示すのも勿論理解しているよ。でも現状では神獣のことを他の誰よりも理解している君たちにしか頼むことが出来ないのもわかってほしい」
さてどうしたもんだろうか?当然この国に来ることで神獣絡みの事件に関わることになるのは承知の上だったから、王様の頼みは勿論引き受けるべきだろう。
ただやることが多いんだよなぁ……神獣のこともそうだし、この後はエレニカ財閥とグウレシア家の内情も確認しに行かないといけないし、グウレシア家とカルマ教団の関係についても探らないとだし、ルカーナさんから紹介されたメイシャさんという人にも会いに行かないといけない。
別に明確な滞在日数を決めているわけではないんだけど、エレニカ財閥のティニアさんとグウレシア家のケニスさんとの結婚式が三日後に控えている関係上、あまり他のことに時間を割いてる暇がないのだ。
(シューイチさん、シューイチさん)
(ん?どうしたエナ?)
悩む俺に、エナがそっと耳打ちして来た。
(ちょっと打算的ですが、王様に協力するからその代わりに―――)
(なるほどね……どの道この頼みは受けるつもりなんだし、試してみる価値はあるかもな)
エナの提案を渡りに船とし、俺は王様に向き直る。
「王様、一つ提案があります!王様からの頼みは勿論受けるのですが、こちらも情報が不足してます!ですので情報を提供してほしいと思います」
「なるほど……それもまた当然の要求だな……いいだろう、こちらも隠し事はなしにして君たちに有益だと思う情報を全て提供しようじゃないか」
よし!エナの言う通りうまくいったぞ!
エナの提案は、実にシンプルで「協力する代わりに、知っている情報を全部提供させよう」というものだった。
おそらくエナのことだから、王様の知ってる情報から現状を有利に進めるために必要な物があるだろうと踏んだのだろう。
「それでは何について知りたいんだい?」
「失礼します王様、ここからは私が……」
王様に向けて一礼してから、エナが俺よりも一歩前に出た。
なんだろう……俺だとまたなにか失礼なことをするとか思われてるのかな?
でもこの提案をしてきたのはエナだし、ここは任せておくかな。
「王様は先ほど、青龍を復活させるためのアイテムが足りないから復活は出来ないと仰いましたが、そのアイテムに心当たりはおありでしょうか?」
「ふむ……ズバリと聞いてくるんだな……実のところこれについてはそう言う物があるのがわかっているというだけで、どこにあってどんな物なのかも判明してはいないんだよ」
「それを青龍に聞くことはできますか?」
「無理だな。青龍本体とは話すことは出来ない上に、分け身の青龍にはその情報が引き継がれていないのでね……」
まあ自分を復活させることの危険性を理解してるっぽいから、いくら恩人とその血族とはいえやすやすと教えるわけにはいかないよな。
王様の返答を受けたエナが口元に手を当てて、考え込む仕草をする。
いつになく真剣な表情をしているな……なんだろう、この表情のエナを以前にも見た気がする。
あれはたしか……。
「シューイチさん、一つだけ確実に情報を得る手段があるんですけど……その前に聞いておきたいことがあります」
「……なに?」
あまりにも真剣なエナの表情を目の当たりにして、俺の心を一気に例えようのない不安が覆っていく。
「『あの力』を使うことになりますが……いいでしょうか?」
「あの力……ってまさか!?」
思い出した……!玄武と戦ってるときに、魔力切れで動けなくなったフリルを復活させるために謎の力を使った時のエナの表情だ!
「やめさせた方がいい!」と俺の心が警笛を鳴らす。
「いやいやいや!ダメだよ!また倒れたらどうするんだ!?」
「多分今回は前ほどひどい結果にはならないと思います。使う力も恐らく最小限で済みますし」
エナ自身、前に力を使った後の状態が酷い結果だったと自覚してるんだな。
だったら尚更使わせるわけにはいかない!
「他に何か方法があるはずだ。それを探してからでも……」
「恐らく間に合わないと思います。今回の件は時間との勝負ですから、ここで打てる手は打っておくべきです」
お互いに未だかつてないほど深刻な雰囲気で話す俺たちを、みんなが心配そうな表情で見てくる。
どうするんだ俺?エナを犠牲にしてここで確実に情報を得る道か、もしくはここでエナの安全を優先して自力で情報を集める道か。
たしかにエナの言う通り今回の件は時間との勝負だし、ここで得られる情報があるなら逃す手はない。
だがそれとエナを天秤にかけるとまた話が違ってくる。
「……シューイチさんが悩む気持ちもわかります。でも私は出来る手を打たずに後になって後悔するのだけは絶対に嫌です」
エナの言葉から強い意志を感じる。
これって二択を迫ってるように見えるけど、実は全然そんなことはなくて、エナは自分の判断を俺に後押してほしいだけなんだろう……はぁ。
「……本当に大丈夫なんだな?」
「はい、命かけます」
ある意味命かけてる気もするけど、そこはもうスルーでいいか……。
結局エナの熱意に根負けする形で俺は首を垂れた。
「ありがとうございますシューイチさん」
「言っておくけど無理だけはするなよ?絶対だぞ!?」
俺の言葉にエナが薄く微笑んで頷いた後、王様に向き直った。
「王様お願いがございます。青龍が封印されているという核石を見せてはいただけないでしょうか?」
「青龍の核石を!?それはさすがに……」
「お父様、少し待つのじゃ!」
王様がエナの提案を断ろうとしたその時、傍らに立っていたティアの身体が青く輝いたかと思うと、その光がティアから離れ宙に浮かび小さな龍へと変わっていく。
『やあランクス!ちょっといいかな?』
「どうしたのだ青龍?」
『そのお嬢さんの提案を受けてあげてくれないかな?恐らく悪い結果にはならないと思うからさ』
「そうなのか?いやしかし核石は……」
『恐らくなんだけどそのお嬢さんは……』
青龍がなにやら王様に耳打ちすると、一瞬にして王様の表情が驚愕に彩られる。
なんだ?何を話してるんだ?
「……本当なのか?」
『ああ、間違いないね。恐らく来るべき時が来たんだと思うよ』
青龍の言葉に、王様が苦虫を噛み潰したような表情をし、頭に手を当てて考えるしぐさを取った。
10秒ほど悩んだ後、王様が顔を上げてエナをまっすぐに見据える。
「わかった……こちらも無理を言って事件の解決を頼んでいる身だ、その提案を受け入れよう」
「御英断、感謝します」
「核石はこの城の地下にある特別な部屋に安置されている。スチカ、彼女たちを連れて行ってあげてくれないかい?」
「地下の部屋ってあそこか?うちも入ってええんか?」
「どうせ君は彼らを手伝うつもりなんだろう?だったら一緒に行って少しでも情報を得ておいた方がいいだろう」
スチカが「たしかに」と呟き頷いた。
この国が出来る切っ掛けともなった青龍の核石か……一体どんな物なんだろうか?
『待ってくれないか?僕も同行せさせてほしいのだが、構わないよね?』
「青龍が行くならわらわも行くのじゃ!お父様!」
「ああ、ティアも行ってくるといい。特にお前は知っておいた方がいいかもしれないからね」
そんなわけで俺たち全員にスチカとティアと青龍を加えた七人と一匹は、スチカの先導の元お城の地下の青龍の核石が安置されている部屋へと赴くのであった。
長い階段を降りて地下へ到着すると、そこは地上とは違い少しひんやりとした空気の漂う空間が広がっていた。
明かりが松明の炎しかなく周囲は薄暗い上に物音一つしない静かなその空間を、足音を立てながら進んでいくと、やがて見るからに厳重にカギを掛けれらた大きな扉とそこを護る一人の兵士が見えてきた。
「王様からの命令で、この部屋の中に用があるんやけど、入ってもええか?」
「これはスチカ様!それに王女様も!?今カギを開けますからお待ちを……」
この国のトップに君臨するであろう二人を目の当たりにした兵士が、慌てながらも部屋の鍵を開けようと四苦八苦する。
さすがに青龍の核石がある部屋だけあって何重もの鍵が掛けられているらしく、すぐには開かないようだ。
「スチカやティアはこの部屋に入ったことはあるのか?」
「うちはないなぁ。この部屋の存在自体は知っとったけど」
「わらわもスチカと同じじゃな」
じゃあマジで謎の部屋なんだな。
俺たちなんかが入っても大丈夫なんだろうか?
まあ王様の許可ももらってるし、何よりエナの言い出したことだから、もうなるようにしかならないだろう。
「お待たせしました!皆さまどうぞお入りください!」
鍵を開けて扉を開けてくれた兵士に軽くお礼を言って、俺たちは一行はその部屋へと足を踏み入れた。
部屋の中は思ってた以上に明るく、内装も謁見の間ではないにしろ豪華に彩られており、部屋の中央にある大きな祭壇の上に青く淡い光を放つ大きな石が置かれていた。
石から感じる特異な魔力……間違いない、これが青龍の核石だ。
「エルサイムのダンジョンの最下層で感じた魔力と雰囲気が似ていますわね」
「本質的に神獣が纏ってる魔力は、四匹とも同じものなのかもしれないな」
「朱雀からは燃えるような熱い魔力の波動を感じましたが、青龍の核石からは冷たくて静かな川の流れのような魔力を感じますわね」
俺はまだエナやレリスのようにうまく魔力の質を感じ取ることが出来ないからなぁ……今感じてる魔力がう普通の物じゃないってのは辛うじてわかるだけで、その質まではわからないのだ。
『さてレディ?ここからどうするんだい?』
「……あなた、私の正体を分かった上で聞いてますよね?ハッキリ言って悪質ですよ?」
『これまた手厳しいね』
青龍のその態度に小さくため息を吐いたエナが、祭壇に祀られた青龍の核石へと近づいていく。
ていうか青龍はやっぱりエナの正体について何か知ってるんだな?聞いてみたいところだけど、多分こいつは教えてくれないだろうし、なによりこいつから聞き出すのは何か負けた気がするから嫌だ。
「えっと……今から少しばかり集中しますから、静かにしてもらってもいいですか?」
『僕も手伝おう。多分君への負担を減らせるだろうし』
「なーんか不安ですけど、まあ折角なのでお願いします」
そう言ったエナが青龍の核石へと手を伸ばし目を閉じると、エナの身体がいつぞやと同じように神々しい光を放ち始めた。
エナから放たれるその光が青龍の核石へと伝播していき、核石の青い光がその神々しい光に呼応するかのように、強く大きくなっていく。
あまりの眩しさに、俺を含めた全員が目を閉じる。
延々と続くかと思われたその現象だが、意外にも体感で1分もしないうちに収まっていった。
「……あれ?もう終わったの?」
「終わりましたよ?だから言ったじゃないですか?そんなにひどい結果にはならないって」
まるで何事もなかったかのように言い放つエナだったか、その額には汗が滲んでいて軽く息も上がっているし、そしてさっきよりも瞳の赤みが増していた。




