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第1号 調査簿 自己紹介 ”僕”

月更新で始める連載です。

気楽に読んでいただけると幸いです!

 

 今日も朝を迎えたようだ。ベッドの隣のアラームはピピッピピッという電子音を鳴らしながら僕に6時であることを伝えてくる。

 ニャーという声が隣から聞こえる。どうやら目覚ましの音とともに飼い猫のシャルも目を覚ましたようだ。

「おはよう、シャル。今日もよく眠れたかい。」

 もちろん猫が人の言葉を話すこともなければ、理解することもないだろうから、意思疎通ができていると思ってはいないが、まぁそれはよしとしよう。

 階段を降りてキッチンに向かう。

「今日の朝ごはんはどれにしようかな。」

 真空パッチされた袋を取り出して眺める。なんとなくトマトの味を感じたかったので、トマトスープの袋を取り出し、お湯を沸かす。

 待っている間、ここのところずっと読んでいる本を読む。

 昔はこれらの調理作業を全て自分達の手でやらなくてはならなかったそうだが、今、僕が送る生活では、それらが全て機械によって行われているためにその労力がほぼ0にまで削減された。

 ビピッピピッという音がする。どうやらトマトスープが完成したようだ。作製機の扉を開け、スープの入った皿を取り出す。スープからはほどよい温かさとトマトの匂いが漂ってくる。

「では、いただきます。」

 猫舌なので、スプーンの上でふうふう息をふいて、スープを冷ましつつ、本を読み進める。

 30分かけて朝食の時間を過ごした後、飼い猫のシャルに餌をやる。それが終わると、また僕は本を読み進める作業に戻る。

 読んでいる本のジャンルは地球の歴史に関することだった。

 本に興味を持つようになったのはふと自分が、生まれた時、僕は一体どのようにしてこの時間を過ごしていたのだろうかと考えたことがきっかけだった。それについて、思い出そうとしても思い出せることはない。その原因は僕がコピー生物だからだろうか。

 家の屋根裏に行った時に、大量の本を見つけてから僕はこのような生活を送るようになった。まず初めに取った本、そのタイトルは思い出せないが、家族の1日を描いた本であったことは覚えている。その時に僕は初めて家族という単語を知った。それと同時に何故自分が家族という単語を知らなかったのか疑問に思った。その日から僕の好奇心…いや疑問に近いものが広がった。

 例えば、何故僕が誰かに教わったわけでもないのに文字をかけ、そして読めるのか。何も不自由せずに生活ができるのか。ロボットという機械に関する話を読んだ時に、自分はもしかしてロボットなのではないかと疑ったが、その本に書いてあったような鋼鉄なボディをもっているわけでもなく、人間的な特徴を兼ね備えていたので、その可能性は排除された。

 しばらく読み進めた結果、ぼくはとある新聞の記事にたどり着いた。そこに書かれてあったのは、

 ついに人間の遺伝子の大量保存に成功!我々の未来の希望に

 という見出しのものと、

 遺伝子保存センター惑星78647に設立、人類の新たなる歴史づくりへ

 というものだった。

 その記事を読み解くにどうやら僕は地球という惑星に住んでいる人間から取った遺伝子をコピーして保存されていたものを復元したものらしい。記事によれば僕が復元して意識を持つようになったのはおよそ6歳頃らしい。それまでは遺伝子成長統制装置という機械に入れられ管理されていたそうだ。

 情報に関してはここまでしかない。それに関してはまだ謎のままだ。

 ゴロニャンと鳴きながら、シャルが僕の膝の上に乗っかってくる。他の生物といえばこの猫のシャルしか見つけていない。もしかして月の裏側にでも行けばいるのかもしれないが、まだそれを実行しようとする気はない。


 もう少し、自分を知りたい。それが今の1番の目標であり、気持ちであった。


 最近読んだ本のジャンルは主に人間とは何かというものだった。その問いに興味を持ったのは本当に偶然であった。いつものようにその日の朝、僕は朝食の時に読むための遺伝子のことについて取り出そうと、電子パネルを開き、蔵書番号を打ち込んだ。その時、飲んでいたコーヒーをうっかり足にこぼしてしまい、ついつい手元が狂ってしまい、打ち込む番号が9856に98568に変わったことに気づかなかった。

 書庫から蔵書番号98568の本、地球では小説と呼ばれていたその本は、自分に何かしらを与えてくれたように感じられるものだった。感情の表現や人物一人一人の表現の技巧はまさに素晴らしく、その場面を体験しているわけでもない自分にもはっきりと体感させるようなものであった。

 その時、僕は人間というものに興味を持つようになった。一体どうして人はフィクションの世界でさえもこう鮮やかに書けるのか。フィクションではない世界では一体どのように地球で過ごしていたのか。


 資料から細密な情報を受け取ることは難しい。やはり知覚をそのまま文字に移すことで完璧な再現をすることは不可能のように感じられる。たくさんの資料を読み終えても、まだ物足りなさを感じていた僕は、地下にあるビデオ資料室に行き、地球の映画を見始めた。


 そんな生活をして1ヶ月ほど経った時だろうか、いや正確な日付はわからないが。

 僕がいつもの日課の通りに朝食を作りに行こうとした時、家の外から物凄い爆音が響いてきた。

 もちろんそのようなことは多々あるので気にすることはないのだが、偶然今回は窓のそばにいたので、外を覗いてみることにした。


 そこにいたのは、もう1人の僕だった。

 それを初めて見たとき、別に驚きや恐怖を感じることは全くなかった。自分がクローンであることを理解していたから。僕が感じたこと、それはなぜ彼がここにやってきたのかだった。


 急いで僕は階段を駆け下り、玄関へ向かう。シャルが何事かというような感じで、フシャァと泣き喚いている。その時だった。何かが思いっきり足に突っかかる。

「あ……危な…。」

 階段10段目から転げ落ちる。あわてて防御しようとしたが、なにも間に合わないまま、視界が真っ暗になっていった。



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