遊園地は廃園にけってーい!
もはやホラーではありません
いや、始めはちゃんと書こうとしたんだよ?
「さて、どうしたものだろうか」
ヨーロッパへの出張も終わり、ようやく故郷である日本に到着したわけであるが、機内モードを解除した途端に通知された着信件数に私は驚いた。同一人物から何回もかかってきているのも合わせると100件以上。そしてその電話先は大きく分けて6か所からかかってきていた。飛行機の乗り換え時もずっと機内モードにしていたせいか。思えば丸一日は携帯に触っていない。それだけで世界に置いていかれたような気分だ。携帯は今や情報を得るためには必要不可欠な機器と言える。
「まず1つ目は……やはりこれからだろうか」
留守中に裏野ドリームランドを任せていた副社長からの電話。私に次ぐ責任者であるためこの人物からの電話が一番急を要するだろう。今まで一度も向こうからかかってきたことはないし。
着信は一回だけであるが、たまにはあの男の機嫌もとっておかないと何をしでかすか分からない。有能であるが性格に難がある。……性格の難を帳消しにするほどの有能さがあるから困るのだが。
「……。電源を切っているのかな?」
電話をかけても、電源を切っているか電波の届かない場所にいるかと言われてしまった。今どき電波の届かない場所は少ない。私のように飛行機に乗るために機内モードにしているわけでもないからきっと電池切れにでもなったのだろう。
さて次だ。後はもう通知件数の多い順でいいだろう。一番多いのは……ジェットコースター部か。あのジェットコースターは実は私が設計したものだ。だから何かあれば私にすぐ連絡するように言っておいた。お客様からの満足のお言葉も、たとえ罵詈雑言であったとしても。私が魂を込めて造ったものであるからこそ、どの言葉も私に向けられなければならないのだ。
こちらは数回のコールの後に出てくれた。
「ふむ、私だが何かあったのか?」
「あ、社長ですか! ……実はその……言いづらいのですがジェットコースターが崩落しまして……」
「は!? ちょ、ちょっと言っている意味が分からないのだが」
「はい。私も何が起きたのか分かっていません。何やら社長には話が付いているということで今解体作業が始まろうとしているようなのですが」
「ちょっと待っていたまえ。すぐに確認する。解体作業は一時中断だ」
ええと……ああ、一件だけなので見落としていたが秘書からも電話が来ていたのか。ヨーロッパ旅行を楽しみにしていたようだが、私だけと知ってかなり嘆いていたな。お土産は忘れていないから安心したまえ。
コールは一回のみ。できた秘書だ。
「ああ私だが」
「私私詐欺ですか? 名前を名乗らない人に覚えがありませんので、番号を確認したうえでもう一度掛け直しなさってください」
……電話を切られた。これで私の秘書だよな? やっぱりヨーロッパに連れて行かなかったことで怒らせてしまったか。
もう一度掛け直す。またもコール一回だけ。
「社長の業外由申だ。話を続けてもいいかな?」
「ええ。私は業外社長の秘書です。話を聞かないわけにはいきません。例え私の行きたい国ベスト3が全てヨーロッパで占められていることを教えたのにも関わらず置いていかれたとしても」
「……今度プライベートで連れていくことを約束しよう。それで、ジェットコースターのことなんだが」
「本当ですね! やった! ……ええと、コホン。ジェットコースターですね。例の能力者ですね。裏野ドリームランドに能力者の1人が来まして、それを追いかけてきた暗殺者と激突しました。幸い、一般客には被害はなく、火事場泥棒のようなことをしていた数名が腕や足に怪我を負ったようです。ジェットコースターはその際に完全に壊れ溶かされ崩落したもようです」
「……なんてこった」
だが、お客様に被害がなかったのは良いことだ。だが、それとは別に、
「それで、なぜ解体作業を?」
「え? だってもういらないでしょあんなの。邪魔になるし危ないしで」
ただの正論であった。正論であるがゆえに返す言葉もない。
「だ、だけど……展示とかできない?」
「できませんね。そんな場所ないですし。壊れたジェットコースターなんて見たい人、いるんですか?」
ここにいます。なんて言えなかった。秘書の圧力がすごい。
「他に何もないようでしたら解体は続けさせます。どうせ社長のことですから中断されてるようですし、それはこちらで進めさせます。ああ、他にも色々と電話がかかってきていますよね?」
「あ、ああ。何で今日に限ってこんなにかかってきているんだ?」
「社長が今日日本に帰ってくるということなので、纏めて掛けなさいと私が指示しておきました。海外では対応しにくいと思いましたので」
君のせいだったのか、とは思わない。こちらは純粋な善意からであるようだし、褒めてオーラのようなものを感じる。
「そうか、助かったよ。それでは君から纏めて聞かせてもらおうか。他に少なくとも4件はあるみたいだからね」
「ではまず、副社長が行方不明です。昨日から連絡がつかない上に自宅にも帰っていないようです。荷物はまだ副社長室にあるため、もしかしたらジェットコースターの下かもですね」
「こらこら。どんなに嫌いでもそんな冗談は駄目だぞ。私の方にも電話が掛かって来ていたのだがね」
「あ、それ私です」
これも君か。
「落とし物の中に副社長の携帯電話があったので、手当たり次第にかけてみました。もしかしたらご友人のところにいるのかなと思いまして」
「それで、どうだったんだ?」
「社長以外は全て固定電話でした。他の社員の番号は1つたりとも登録されていませんでした」
いや、そのオチいらないよ。友人は私1人だけとか……それ聞いちゃうと副社長可哀想に思えてきて、何か親近感沸いてくるよ。
「まあ副社長以外の件にしましょう。ああ、ジェットコースター繋がり、というか能力者繋がりですけど、『鬼子母神』こと永長傘美に観覧車の幽霊たちのことを依頼しておいた件、無事呼べそうです」
「おお、ついにあの子たちも成仏するのか」
永長傘美、彼女は除霊に関する能力を持っている能力者の1人だ。だが、子供の幽霊専門で、さらにその除霊の仕方はかなりトラウマものらしいと聞く。彼女の腹部に幽霊が吸い込まれていくと聞いて、大丈夫なのだろうかと疑ったが、どうやらそこから天国へと行けるらしい。最も、本人の言動は恐怖そのものであるため、他の能力者に彼女の能力を確認してもらったのだが。彼女自身も能力を把握していないらしく、どうやら吸い込まれた子供は自分の子供になると思い込んでいるらしい。
「……彼女もいつか救われてほしいのだが」
「ともあれ幽霊が、それも子供の幽霊がいなくなるのは良いことです。次に行きましょう」
「感傷にも浸らせてくれないのね君は」
「後は……大したものではないのがいくつかですね。山田さんに彼女ができたこと、志賀君が寿退社したこと、ドリームキャッスルから悪魔が飛び出てきたこと、ミラーハウスの鏡には平衡世界があったこと等々です」
「うん? ちょっと待って」
「ああ、すいません間違えました」
「だよね、大したことなくないものね」
「山田さんと志賀君が逆でした。志賀君は男性ですので妊娠できませんね」
「いやいやいや。言われるまでそんなの気づかなかったって。って、え? 山田さんってあの山田さん? 結構社内でも人気のある? これは男性陣がっかりするだろうねえ」
「……他に何もないようでしたら切りますけど」
隙あらば通話を切ろうとするなこの秘書。
「あー、そのだね。悪魔の件とミラーハウスの件。詳しく頼むよ」
「はい。ドリームキャッスルから飛び出した悪魔ですが、特段何をするわけでもなくどこかへと飛び去っていきました。どこから現れたのかは不明です。ミラーハウスのことですが、一定の条件を満たすことで平衡世界にいる同一人物と入れ替わるようです」
「悪魔は……どうしようもないか。能力者連合に一応報告はしておこう。それで入れ替わりの条件とは?」
「不仲のカップルが入場した場合ですね。原因のある方が入れ替わります。山田さんの婚約者がこれで入れ替わりました。私だけが知っている情報ですので今のところ問題はないです。むしろ仲が良好になっています。こちらはそのまま継続させましょう」
うーん、まあいいか。立ち入り禁止にするわけにもいかないし、本人たちが幸せならそれで。一応これも能力者連合に報告することにして、
「他にはないかね?」
「そうですね……以前から行方不明になっていた子供たちですが」
「ああ、あれか。心配していたんだ」
「どうやら親に虐待されて家出した子供だったみたいで志賀君が全員保護していました」
「志賀君! というか、山田さんと志賀君の話まだ続いてたのか。それでその子供たちはどうなった?」
「それぞれの親は親権を剥奪、志賀君が里親になることでそのまま引き取っています。彼女と2人で面倒を見て行くようです。彼は結婚する前に6人の父親になったというわけです」
……彼は何か背負い込む性格をしていたのかな? どこの主人公だ。
「彼には特別手当を用意しておいて。それと、山田さんには何かお祝いの品を」
「承知しました。そのように手配しておきます」
「もう、ないかな?」
この秘書は大切なことと割とどうでもいいこと――いや結果的にはどうでも良くはなかったが――の区別ができていない。それでよく仕事が回っているな。
「妖精姫が訪れたことはもう報告しましたっけ?」
「してないねえ。妖精姫来たの!? 確かそろそろ10歳になるくらいだったか。以前ちらっと見たことはあるけど綺麗な子に育ってそうだ」
「……ロリコンですね」
「こんなおじさん捕まえて何言ってるんだ。おじさんどころかその子とは孫と祖父くらいの年齢差だよ」
「そうでしたね(笑)」
絶対今私のこと笑ったね? もう50過ぎてるから大分身体にガタが来ているのは自覚しているさ。
「ああそうだ。さっきプライベートでヨーロッパと言ったけど、実は次はアメリカだったんだ。ハワイとかのほう。少し長くなりそうなんだけど君、来るかい?」
「ハワイですか! 私的行きたい海ベスト3の!? 行きます行きます。しかし、私がいなくなってこの遊園地大丈夫ですかね? 副社長もいなくなってますし」
「それなんだよね。私はほら、別にそこの遊園地以外にも他の企業持ってるから別にどうなろうと困らないんだけど……なら一回廃園にしてしまおうか」
「はい?」
うん、やっぱりこうなるよね。
「ジェットコースターも壊れてしまっているし、造り直さないといけない。どうせならリニューアルしてしまおうじゃないか。少なく見積もって一年。その間にどうせなら次の経営者も決めてしまおう。君は私とともに世界を回らないか?」
「いいですね! ぜひお供させてもらいます! では代わりは……中湖経理部長、中湖人事部長、中湖広報部長に任せてみましょう。あの三人は実は三つ子だって知ってました?」
「知ってるよ。苗字同じじゃないか」
「兄弟でしたら息も合うでしょうし、この三人でいいですか?」
「ああ、いいだろう。あ、そうだ」
そういえばあのアトラクションって特に何の目立つこともなかったんだよね。
リニューアルに伴いこれも造り直してもらおうかな。
「なあ秘書君」
「何ですか社長君」
「社長に君はいらないよ。それはそうと、メリーゴーランドあるじゃないか」
「はい。私、実は一番好きなんですよね」
「実はあのアトラクション、最近お客様が来ないらしいじゃないか。何か目立つような売り文句とともに造り直すことはできないかい?」
「そうですね……ここは思い切ってやってしまいましょうか」
「内容は任せる。それではまた、ハワイで」
「はい! 明日にはハワイに到着していますので」
「それは早すぎるよ……」
このような感じで通話は終わった。1時間近くも話してしまったか。まあ大事な業務連絡だ、仕方ない。
さて、各方面に廃園することを伝えなくてはな。少し忙しくなりそうだ。
秘書が考案したというかすでに開発まで進んでいた新たなメリーゴーランドは人が乗ろうとすると自動的に動き出すと言うものであった。人が近くにいないと一切動こうとしないメリーゴーランドは省エネに向いていると秘書が自慢げに話してきた。
それはお客様が楽しめるものじゃないでしょ、という指摘とともに、ならば同時に光り出させてみなさいとアドバイスしておいた。これでまだマシになるだろう。
キャッチコピーは『光とともに』らしい。
それから一年が経ち、裏野ドリームランドは無事に新たな遊園地としてリニューアルオープンした。まあ私も秘書も一切関与していないからあの三つ子に自由にやらせてみようと思う。多少なりでも利益が上がれば三つ子にとっても御の字だろう。
半年後、遊園地は潰れた。急ピッチな改装、その後の補修作業の怠慢が原因だったらしい。まあ私とは縁を切っている遊園地なので関係ないといえばないのだが……やってくれたな。
思っていたよりも私と秘書と副社長はあの遊園地を支えていたのかもしれない。
まあ私はハワイでのんびりとすることにしよう。秘書に全てを任せて。
「社長、海に行く準備できました?」
「今はプライベートだぞ? 私は社長はない」
「そうでした! ……では、由申さん、行きましょう!」
そう私に言う彼女の指には指輪が光っていた。
私は一体何を書いたんだろう……
というわけでこれまでのお話の総まとめでした
時系列としては
アクアツアーで幼女と遊んだ
ジェットコースター崩落
ドリームキャッスルの地下でおじさん虐められてる
そして今回のお話
秘書との会話後に、観覧車にて母親のご乱心
廃園してからリニューアルまでの間にミラーハウスでとあるカップルがラブラブになる
かなり後の世界でとある兄妹がメリーゴーランドを見つける
こんな順番ですね~