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普通な高校生に神が憑いていた。  作者: 耀偧(よーた)
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第一章 普通な人間が入学した件

歩くたびに擦れる新しいYシャツとズボンの感触を味わいながら山口柊太(やまぐち しゅうた)は今日から高校生だ。と思いながら新たに通うことになった学校へと向かっていた。


「よっ、柊太。また一緒だな。」


 ニッと笑いながら話しかけてきたのは俺の友達の青崎祐太(あおざき ゆうた)だ。茶色がかった髪に少し吊り上った目、そして高校生とは思えない背の低さ。幼稚園、小学校、中学校そして高校まですべて同じ学校に入っている。中学時代にソフトテニスのダブルスでペアを組み、中学から始めたというのに全国ベスト4まで駆け上がった。自分で言うのも照れくさいがいわゆる天才だ。高校でもソフトテニスでまたペアを組むつもりだ。


「組も一緒だといいな。その方が話しやすいし…」


 無論、俺はそこからテニスの話へとシフトするつもりだったが高校生らしいことを言い出し始めた。


「そうだな、俺はカワイイ子がいればそれでいいんだけど…」

「ちびっ子が何言ってんだ?」

「うるせー!吹っ飛ばすぞ!」


身長の話でおちょくっているとT字路から一人の女性が現れた。


「おはよー。柊太♪祐太♪」


 背が高くスラッとした体格そして持ち前の元気とロングの金髪が特徴的な翠川利華(みどりかわ りか)だった。中学の頃から知り合い、すぐに打ち解けた。彼女は中学時代に卓球部に所属し、俺たちと同じく全国ベスト4まで駒を進めた実力者だ。将来はモデルになりたいなどと言っているが、少しその姿を思い浮かべると…カ、カワイ…


「ねえ、柊太。」

「ほぇ?」


 話しかけられた本人の将来の姿を思い浮かべ、さらにカワイイなどと心の中で言いそうになっていたた

め、情けない声を発してしまう俺である。


「ふふっ…何でいきなりそんな声出すの?」

「たくっ…柊太はホント、ヌけてるところあるよなぁ…ククッ。」


 利華だけではなく、祐太にまで笑われてしまい照れ隠しのつもりでうるせえ!と吐き出したがその様子を見て祐太はさらに笑う。その時俺は利華から話しかけられていたことを思い出した。


「で?何を話そうとしたんだよ、利華?」


不機嫌そうに聞いた俺の表情を見たからか今度は笑うことなく話してくれた。


「あ、うん…えっと…その…」


モジモジしながらしばらく悩んでいたのが「またあとで言うね。」と言ってから、祐太の方を向いてアッカンベーをして、(その行動にも俺はキュンとしてしまったが…)一人でブツブツと「祐太もいるんだし、学校初日だし…」などと独り言を言っている。


そうこうしていると駅に着いていた。電車に乗り、長里(ながさと)駅という駅で降りる。そしてそこからさらに少し歩いたところが俺たちが新たに通う長里高校だ。思っていたよりも普通の外見だった。校門をくぐり抜けてい生徒もアニメやドラマなどで見たことのあるような感じで、特別何かあるという印象は受けない。


「まぁ、コイツが通う高校だし期待はしてなかったけどここまで普通とは思わなかったわ…」


 祐太も俺と同じことを考えたのかそんな事を言い出す。


「そのコイツっていうのは…」

「普通星の普通星人で有名な柊太さんに決まってるでしょうが。」

「はぁ…」


 自分の性格を祐太に的確に指摘され、久しぶりに深いため息をついた。テスト点?百九十。授業態度?普通。生活態度?普通。とにかく俺はいろんなことが普通なのだ。普通じゃないところは数少ないだろう。そんな自虐的なのか自画自賛なのかよく分からない事を考えながら歩いていく。昇降口で靴を脱ぎ、クラスが表示されている表が掲示された靴箱前まで来ると…


「二組だな。」


 我ながらまた普通な感じのクラスだなぁと思い、ため息をはぁっとつく。


「私も。」

「俺もだな。」


 二人が同じクラスなのは嬉しいがせめて二組ではなく一組や八組などの端のクラスが良かった。と思いながら階段を上っていると利華がクスクス笑っていた。


「…なんだよ?」


 俺がかなり不機嫌そうに聞いたからだろうか。利華はクスクス笑いどころか、吹き出しながらこう言っ

た。


「ハハ、また普通だって思ってたでしょ。」

「う…」


 返す言葉を必死に探したが見つかる前に利華の追撃が始まった。


「だって柊太、普通な事があるといっつもため息つくもん。まぁ、私みたいな美人がクラスメイトなんだから元気だしなよ。」


 ―ヨッシャー!


俺は大声で口にしかけた言葉を心の中におさめ、代わりにさりげなく祐太に話を振ろうと試みる。


「はいはい、誠に喜ばしいことですね。で?祐太、さっきも言おうとしたけどもちろんテニス部入るよ

な?」

「あ!ヒドーイ!」


 頬を膨らませながら言った利華の言葉をあっさり無視し、祐太はこっちの話に乗ってきた。


「もちろん。たくっ…強いヤツがいると良いな!」

「この学校に俺たちスポーツ推薦だぜ?強豪なんだから強い人だらけで下手したら俺たちボコボコかもしれねーぞ。」


 冗談交じりに答えると祐太は負けねえし!と威勢の良い返事を返してくれた。一年生の教室がある三階に着いた。そして利華、祐太、俺の順番で二組の教室に入ると…


「あ…」


 その一言だけが俺の口から風のように抜け出していった。その声は祐太の口からも抜けでた。


「やぁ、久しぶりだね。柊太君、祐太君。」


 透き通るような声に祐太が思ったことをそのまま口にする。


創介(そうすけ)…なんでお前がこの学校に…?」


 黒い艶のある前髪を少し長めにたらした青年。細い目の中で輝くグレーの瞳はアメリカ人の父譲りだろうか。沃神創介(いるかみそうすけ)。俺と祐太のライバルコンビの、沃神&雛神(ひなかみ)の神コンビの一人だ。だが、全国大会の初戦で敗北し俺たちと全国大会で当たる事はなかった。   

 ベスト4になり、スポーツ推薦された俺たちとは違う高校に行き、今度こそ全国大会で戦おうと約束したはずだったのだが…そんな思考を停止させられてしまうほど爽やかな笑顔で祐太の質問に答えた。


「それが、後になって気付いたんだ。そういえば君たちがどこの高校に推薦されたのか僕は全く聞いてなかったなぁって。それでこの長里高校を受験したら君たちと同じ高校だったみたいだね。」


 なるほど。単純にそう思った。俺たちもどこの高校に推薦されたかを言った覚えは全くなかった。偶然だな。と俺が言う前に創介が先ほどまでの眩しい笑顔は消え去ったその顔に闘争心が浮かび上がっていた。


「今度こそ、君達には負けないよ。絶対にね…」


 俺と祐太も受けてたつという思いで頷く。そんなバチバチとした関係の中に入り込んでくるお嬢様がい

た。


「どうも初めまして。翠川利華と言います。二人の友達です。これからよろしくネ♪」


 ―呆れるほどの単純バカだ。


と心の底から思ったが、それを前に言ったら、顔面に拳が飛んできたので口にはせずに代わりに呆れたような笑みを浮かべておく。


「お前、呆れるほどの単純バカっつーか、初対面でもぐいぐい行ぶごっ!」

 ぐいぐい行くよなぁと言いたかったのだろうがその前に強烈な右ストレートが祐太の頬目掛けて飛んで来た。

 しまった!と思ったのは祐太が鼻血を出しながらノックアウトさせられてしまった後だった。祐太は殴られた経験がなかったため、言葉にしてしまったのだろう。


「オメェ…何すんだよ!いきなり殴るとか乙女心とかお前にはないのか!?」

「あるし!そっちこそ単純バカって何?」

「おいオメェらよー!」


 チビ助と単純バカお嬢様の口喧嘩に割り込んできたその者は長髪の金髪を後ろに撫で付けた吊り眼の男だった。学ランの下には紫のTシャツを身に着けている。見るからに不良だ。だがなぜかその口の周辺には赤いジェル状の物体がついている。


 ―イチゴジャムか!?し、しかしなぜ!?


 口にイチゴジャムをつけた不良が目の前に現れ、祐太は吹き出す寸前、利華は口を手で塞ぎそこから微動だにしない。これは恐怖によるものなのか呆れているからなのか…創介は元から感情を表に出さないタイプだがここまで真顔だと相手をひょっとしたら馬鹿にしてるんじゃないかと疑いざる負えない。


「俺様が新しく支配する城でいきなり騒いでんじゃねえゾ!ああん!?」


 そう言いながら祐太と利華に近づいてくる不良を見て、祐太は若干吹き出したように「プクク…」という音を漏らした。それに反応してか、ジャム不良は祐太にさらに顔を近づけた。


「おいチビ。テメェ今笑いやがったか…?」


 眉間に(しわ)を寄せながら祐太に尋ねる。


「ククッ…いえ…笑ってなんか、クフ…いません…プククッ…」

「おうそうか。笑ってねえか。なら良い。」


 不良は振り向いて自分の席に着くべく歩きだした。

 相手が馬鹿で助かった。俺がそう思った瞬間の事だった。


「…って、ンなウソに騙されるわけねえだろうが!」


 そういいながら不良はもう一度祐太の方に向き直りつつ、右の拳を振りかぶった。


「…ッ!」


 俺は反射的に体を動かした。

 祐太と不良との間に入り、続いて振り下ろされた拳を左手で受け止める。そこから相手の腹部に右の拳で一撃喰らわす。


「っな!?」


 咄嗟の事に反応できなかったのか驚愕の声を上げたのは俺の拳が彼のみぞおちに入る直前だった。

 …トン。


「ぐ…ん?」

「ホントなら思いっきりぶん殴ってるけど…さすがに初日からそれはマズいからな。」


 俺は直撃するその直前で一気に正拳突きの勢いを殺し、軽くトンっと当てただけで済ませた。俺の目的は祐太を守るだけなので別に思いっきり殴らなくとももう目標は達成したのだ。無駄なゴタゴタは起こさずに済むし、停学だの退学だの面倒なことにもならない。


「サンキュウな、柊太。」


 いつの間にか青ざめた顔になっていた全ての元凶は後で思いっきりグリグリするとして、とりあえずは

「おう。」とだけ答える。

 

「俺は猪崎剛(いのざき つよし)。これから夜露死苦(よろしく)な!」

 どうしても「よろしく」という単語を普通に聞けないのは俺だけだろうか。あと…


「口にジャム付いてるぞ。」

「…え?」

「はーい、みんな。席に着いてー。」


 ジャム不良が不良に戻ったところで一人の女性が入ってきた。緑色の瞳をきらきらと輝かせながら口を開いた。


「新入生のみなさん、おはようございます。私はこのクラスの担任になりました。横井杏香(よこい きょうか)です。」


 スカイブルーの上着を羽織り、その中には紫のシャツを着ている。長い脚は白くひらひらとしたロングスカートに隠されている。


「今から入学式が始まります。体育館に移動するので廊下に男女混合の出席番号順で並んでください。」


 指示が出終わるとともに全員席を立ち、廊下に並ぶ。一組に続き体育館へと向かった。

 体育館にはたくさんのパイプ椅子が並べられている。学ランに身を包んだ一年生がその椅子に座ってい

く。ステージ付近でも学ラン姿の生徒たちがバタバタとなにか用意をしているようだ。おそらく二、三年生つまり先輩だ。

 一年生全員が席に着くと教頭らしき男性が呼びかけた。


「新入生、起立。」


 ザザッと衣類の擦れる音を立てながら起立する。


「これより第二十三回長里高等学校、入学式を始めます。一同、礼。」


 そこからの生徒代表の言葉、校長の話、一年生を受け持つ教師の自己紹介をサラ―ッと聞き流し、閉会。

 あぁケツ痛ぇ。と思いながら教室に帰ると机の上に積まれた書籍があった。教科書だ。

 俺たち生徒より少々遅れて教室に戻ってきた横井先生が教卓に両手を着くと真剣な面持ちで話し始めた。


「いい?みんなは今日から高校生。で、最初に言っとくけど私も今日から先生です。」


 一拍おいて「えぇ?」や「そうなんですか?」などの驚きの声を生徒が一斉に放つ。それを「はいはい、静かに。」と呼びかけ、静まったのを確認して今度はきらきらとした笑顔で話し始めた。


「まぁ、何が言いたいかというと…お互い初めて同士、分からないことも多い。だけど一度高校を経験している私には言えることが一つある。高校三年間なんてあっという間。だから、好きなように一生に一度の三年間を過ごしてみて。バリバリ勉強するも良し。部活で全国大会優勝を目指すも良し。なんとなく過ごすも良し。行き過ぎたことをしたら、そこは先生が止めに入ってあげる。だから自由に高校生活を楽しんでね!」


 最後の一文を満面の笑みで締めくくる。

 俺たちがはい!と返事をしたのを嬉しそうに確認すると先生は続いて俺たちに背を向けて、黒板にカツカツと音を立てながら何かを書き始めた。


「自己紹介を…しよう?」


 メガネを掛けた男子生徒が黒板に書かれた文字を読む。その声に反応したのはチョークを置き、こちらに向き直り笑顔を輝かせている横井先生だった。


「そう。早速だけど、皆さんには自己紹介をしてもらいます。」


 出た…俺の新年度に入って一番やりたくない事だ。

 俺がそんな事を考えているなど知る由もなく、先生は「じゃあ、窓側からやってこう。」と言い出す。


 ―窓側から…ってことは出席番号順にやっていくってことか。なら何とかなる…か?


 俺がなぜ自己紹介が嫌いかと言えば話すことが無い、それだけだ。特に入学後一番最初の自己紹介が苦手だ。流行している物のことを話せば良いと思うかもしれないがにわかだと思われ、速攻省かれるかもしれない。それ以外のことを話そうにも他のみんなが何が好きなのか分からない。

 そんなネガティブなことを考えていると青里という女子生徒の自己紹介が終わり、その後ろの席の祐太が立ち上がる。そしてシレッとした顔でサラサラと自己紹介をしていく。


「えー、桜中から来ました。青崎祐太です。えーと中学の時はソフトテニス部に入っていて廊下側の列の一番後ろにいる、柊太さんとペアを組んでいました。それで二人そろってスポーツ推薦で入学しました。あんまり頭良くないですけど体動かすのは大好きです。一年間よろしくお願いします。」


 ―ナイスだ!祐太!


 そうだ、テニスの話をしよう。それならみんな食付くし、別に何も言われないはずだ。

 そこから巡り巡って俺の番になった。


「桜中から来ました。山口柊太です。さっき祐太君が言ってたんですけど、テニスで推薦されて入学しました。で、えーと…」

 ―ま、まずい。ここからどう話せば…?

 これで終わりでは短い気もするがだからといって他に話すようなことはない。普通な高校生はこれだか

ら…あ!


「でも、テニスは上手いですけど、それ以外のテスト点とかはホント普通であんまり特徴ないですけど高校も普通に過ごせればいいなと思います。一年間よろしくお願いします。」


 普通という個性らしからぬ個性を紹介し、なんとか修羅場をくぐり抜けた。

 周りの生徒たちからは「推薦だって…すごいよね。」という感嘆の声や「チビと普通なヤツのペアとか…プクク。」その組み合わせの何が可笑しいのか分からないが笑う者もいた。

 とりあえず第一印象はそこそこかなと思いつつ席に着く。


「はいはい、静かに。じゃあ今日はもうやることないし時間になったら帰るから支度をしといてください。あと教科書に名前書いといてね。」


 教科書に名前を書いてはバッグに入れ、書いては入れの作業を終わらせるともう十二時近い。


「時間になりましたー。はい、起立!」


 はきはきとした声で号令をかける先生に生徒たちは従い起立する。


「じゃあ改めてこれから一年間よろしくお願いしますね。あと先輩たちが部活やってるから気になる人は見てっていいぞ。それじゃあさようなら。」

「さようなら。」


 先生に続き挨拶をしてみんな廊下へ出ていく。バックを背負い、帰ろうとしたその時、後ろから肩を叩かれる。


「おい柊太。テニスコート行くぞ!」

「行くよね、柊太君。」


 祐太に続き創介もテニスコートへ行くつもりのようだ。


「もちろん。」


 俺は笑みを浮かべながら、その問いに答えた。


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