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曇りのち曇  作者: 冬次 春
2/2

じゃんけん

僕が変われば、世界が変わる。

そんなことはわかっているんだ。


世界になじめない夜は、月によってかがやきを取り戻す。


「今日は12日。じゃあ12日番笠原さん、三行目から読んでください。」

「は、はい。」


なんだその選び方は。日にちと出席番号を関連づけて選ばないでくれ。これからの12日が心配だ

。緊張感に襲われて前日眠れなかったりしないだろうか。

仕方なく立ち上がって読み始めたが、頭の中ではそんなことばかり考えていた。


入学してから一か月。周りの目を盗みながら呼吸をする期間がやっと終わった頃だ。高校生になったと言っても、中学生の時との変化はあまりない。休み時間の過ごし方の正解がいまだにわからないし、先生が教室に入ってきた時の緊張感もあたりまえだ。

変わったことといったら、進級に単位が必要なことと生徒の人数が多くなったことぐらいだろう。




いや違った。一つだけ大きく変わったことがある。僕が変わったんだ。



”あの日”から僕の中にある憂鬱の鎖を彼女が少しずつなくしていってくれたんだ。





  ***




入学式の後、僕は彼女と二人で職員室へ向かい入学式で聞くはずだった説明を聞き、新しい教科書を受け取った。その間彼女とは話すどころか目を合わせることもできなかった。

保健室を出た直後から恥ずかしさの嵐に見舞われ、すべての動作がぎこちなかったのだ、しょうがない。

二人とも親が帰っていたので、職員室を後にするなり昇降口に向かった。

このままではいけないと思ってお礼の言葉なんかを考えてはみたりはするものの、いい言葉が出てこない。だからといって何もしないのは、僕の中の変なプライドが許さなかった。


そうこうしているうちに昇降口にたどり着いてしまった。

すでに彼女は上履きを脱ぎ始めた。


(やばい。やばい。やばい。)


気づいたときにはスマホを持って、[良いお礼の言葉]で検索していた。


(早くしてよ。)


やっと検索結果が出てテキトーに記事を選んだとき、突然画面が真っ暗になった。それと同時に僕の目の前も真っ暗になった。このままでは・・・



「一緒に帰ってください!」


お辞儀をしながら右手を前に差し出してそういった。まるでプロポーズのようだ。

その行動は僕の人生の中で一番かっこ悪くて、一番の勇気ある行動だった。今思うと俳優さんのようだった。俳優さんは、もっとかっこ良いけど。



・・・・・・・・・・・・・


5秒の沈黙の後、彼女が歩き出す。

彼女が一歩踏み出すごとに心臓が破裂しそうになった。僕の前に止まると、少し時間を置いてこういった。



「かった。」


え?なにをいってるんだ?

「はい」か「いいえ」で答えると思っていた僕にとっては意味不明だった。

顔を上げると「かった」の意味がすぐに分かった。僕の手は開いていて、彼女の手はピースサイン。


「じゃんけん・・・。」


「そう。私の勝ち。だから、今日はあなたの話を聞かせてね!

 私の名前は、内田月詠。よろしくお願い申し上げます。」


なぜ最後だけ敬語なんだとは思ったが、そんなことより彼女のやさしさには、驚いた。


「ぼ、僕の名前は笠原夜です。こちらこそ、あ、あの、よろしくお願い申し上げます。」


僕のひどく緊張した声に少し笑った彼女は、僕の手を握って校門へと走り出した。初めて握った彼女の手の感触はどこか懐かしいもので、僕を安心させた。



それは、世界になじめなかった 夜 が”月詠”によって輝きを取り戻した瞬間だった。

               僕   彼女



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