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桃色コメディ。

つっこみくえすと。

作者: 桃色 ぴんく。

 ある日、母親が俺に言った。


 

―この国では、15歳になると王様のところへ行くのです。



 「えっ?国って?てか俺、もう35歳なんやけど!?」



 とりあえず、身支度をさせられ、少しのお金と薬草・・・

「ほうれん草やないかいっ」

まぁ、あのポパイもほうれん草食べてムキムキになったことやし、薬草ってことになるんかな。とにかく、お金と薬草を持たされ、俺は家の外に出た。

 ていうか、ここは普通の街並み。まず、王様なんかおるわけがない。と、いうわけで家に帰ってみる。



 ―どうしたの?王様に会いに行ってらっしゃい。



「もうええって。王様なんかおるわけないやろ」

 俺はそう言ったが、またもや母親に背中を押されて家の外に出された。これからどうしたらいいんや・・・。ワケがわからず頭を抱えていると、



 ―もしもし、若いの。もしや、王様をお探しかな?



 顔を上げると近所のじいちゃんが立っていた。え、じいちゃんも王様がどうとか言うんかい!そこで、俺もヤケになってじいちゃんに聞いてみた。

「王様に会いたいんやけど、城ってどこなん?」



 ―お城はこの道を真っ直ぐ行って、一つ目の角を右じゃ。



「わかった、さんきゅ!」

 じいちゃんに礼を言って、俺は言われた通りの道を進む。そこに建っていたのは・・・

「小学校やないかい!」

 俺は手に持ったほうれん草を見た。そうか、これが薬草なら、もしかしたら小学校は城で、中に王様がおるかも知れんな。俺は足を踏み入れた。



 ―旅の者、何用だ。立ち去るがよい。



 学校に一歩足を踏み入れると、管理人のおっちゃんに止められた。やれやれ、こういう時はどうしたら・・・

「あの、15歳になったから王様に会いに行けと言われて来たのですが」

と、とりあえず言ってみる。どう見ても俺大人やし、こんなん通用するわけ・・・



 ―そうだったのか。それは失礼した。王の部屋はここの2階だ。



と、道を開けてくれたのだった。まさか、通用するなんて。じゃあ王様役の誰かもおるってことやな。俺は階段を上がり、2階の奥へと進んで行った。遠目に、教室の入り口に見張りの人が立っているのが見える。きっと、あそこが王室だな。俺はやや緊張しながらそこへ向かった。



 ―門番から話は聞いております。どうぞ中へお入りください。



 急に対応が丁寧になったような気がする。これは一体どういうことなのか。俺は教室の中に入って行った。きっと中には校長先生が王様っぽくおるんやろな。



 ―よくぞ来た!勇者オンドレよ!



「なんでやねんっ」

 俺に声をかけてきたのは、美術のデッサンなどに用いられる、上半身だけの石膏像だった。しかも、今なんて呼んだ?オンドレって・・・なんて口の悪い。



 ―勇者オンドレよ。わしの頼みを聞いてくれるか。闇の魔王を倒して欲しいのじゃ。



 まぁ、こういう展開になるとはわかってたけど、俺がほんまに勇者なんか。もうこうなったら話に乗るしかない。

「わかりました。やってみましょう」

 俺が引き受けたので、王様から『地図』と『盗賊のカギ』を受け取った。いよいよ、冒険が始まるのか!俺は少しワクワクしてきた。




「え~と、闇の魔王の居場所は・・・」

学校を出てすぐに地図を広げる。地図に×マークがついている。きっと、ここやな。えっと、現在地はどこや・・・

「ちかっ隣やん!」

 なんと、闇の魔王の城は、隣の幼稚園だった。なんやこれ、あっという間に冒険終了ちゃうんかい。俺は幼稚園に向かった。




 幼稚園の門には鍵がかかっていた。ははーん、こういう時にこの鍵を使うやな。俺は、盗賊の鍵を門に差し込もうとした。



 ―カギが合わない!



「なんやねんっ」

 盗賊の鍵で開けられんかったらどないしたらええねん!その時だった。



 ―私は旅の商人です。あなたのその鍵と私の持っている鍵を交換しましょう。



 振り向くと、商店街の八百屋のおっさんが立っていた。え、おっさんが旅の商人かい。そういえば、いつも店は奥さんに任せてフラフラうろついてるもんな。あ、とりあえず鍵の交換や。



 ―勇者オンドレは『魔法の鍵』を手に入れた!



「よし、開いた」

魔法の鍵で、幼稚園の門は開いた。俺は中へと進んで行った。

 一応、この幼稚園が闇の魔王の城ってことやろ。ってことは、行く道行く道めっちゃ敵とか出てくるんちゃうん。俺、武器持ってないけど戦えるんかな・・・。




「ん?誰かいるな」

 廊下の隅に、かなりヨボヨボのおじいさんが座っていた。

「こんにちは。魔王はどこにいるか知ってますか?」

 話しかけても返事がない。



 ―返事がない。ただの屍のようだ。



「って生きてるし!ご長寿なだけやないかいっ」

 返事がないのは、きっと耳が聞こえにくいだけだろう。俺は先へと進んだ。



「あっ!」

 何かにつまづいて、こけそうになる。足元を見るとホウキが転がっていた。誰やねん、危ないな。俺はホウキを手に取った。



 ―勇者オンドレは必殺の剣を手に入れた!



「え、これが剣かい」

 どう見てもホウキだが、この世界では剣のようだ。俺は必殺の剣とやらを握りしめ、先を進んだ。



「ここ、なんか怪しいな」

 教室の扉に隙間が少し開いている。俺が中に入ったら何か始まる仕掛けなのか。俺は中に入らずに扉だけ勢いよく開けることにした。


「そいや!」

             ガラガラガラガラ!



 ボンッボンッボンッ・・・



「うわっなんや!」

 扉を開けた途端に、黄色いドッジボールが6、7個飛んできた。



 ―ゴムスライムの群れが現れた!



「え・・・これ敵かい。全然こわないし」

 俺は散らばったボールを拾い集めて、教室の中のカゴに戻した。最後に拾ったボールから声が聞こえた。




 ―魔王さまは、給食室におられまする・・・ぐふっ・・・



「おお、教えてくれてありがとな!」

 給食室に闇の魔王がいるとは・・・すごい大きくて食いしん坊の給食のおばさんとかかいな。どうやってやっつけたらええんやろ。




「ここか・・・」

 ついに給食室にたどり着いた。この中に闇の魔王がいる。よし、一気に攻めてやる!俺はドアを開けようとした。あ、くそ!鍵か。よし、魔法の鍵の出番やな。



 ―カギが合わない!



 くそう、闇の魔王の部屋を目前にして、鍵が合わないとは。一体どうすればいいんや・・・ん~、もしかしたらどこかに別の鍵が隠されてるかも・・・俺は給食室の周りを探し出した。ないなぁ・・・

「ん?」

給食室の前の廊下を抜けると、裏庭が見えた。草むらの中で鍵発見とかもあるかも知れない。俺は裏庭に向かった。すると、給食室に繋がる裏口の扉を発見した。

「ここも鍵かかってんのやろな」

と、ドアノブに手をかけたら、なんとすんなりとドアが開いた。

「よっしゃ!」

 これで闇の魔王のところに行ける。いよいよ、ストーリーもクライマックスや!俺は中へと足を踏み入れた。



 日も暮れてきて、給食室の中はすっかり暗くなっていた。電気はどこや・・・スイッチが見つからない。仕方ない、暗闇の中を進んで行くしかない。



 ―闇の魔王が現れた!



「えっ!いきなりか!どこや!」

 暗闇の中、辺りをキョロキョロ見渡すが、闇の魔王らしき人物はいない。けれど、確かに感じるこの存在感・・・いきなり襲われたりとかしたら勝たれへんやん。どこや・・・?俺は、壁にスイッチがあることを確認し、電気をつけた。




「わっ」

 足元に1匹のゴキブリがいた。俺に気付いたのか、じっとしている。



 ―闇の魔王は様子を見ている。



「え?・・・まさか、コイツが闇の魔王???」

 俺は再び足元のゴキブリを見た。給食室の中には、コイツ以外に何もいない。

「はっは、んなもん楽勝じゃ」

 俺はゴキブリ目がけて、ホウキを振りかざした。



 ―勇者オンドレは必殺の剣で闇の王を倒した!



「よし!これで世界も平和になるな!」

 こうして、勇者オンドレの旅は終わった。





「・・・だから?」

「と、いうわけで、勇者オンドレに大至急キッチンに来て欲しいの」

「へ?」

「キッチンに闇の魔王がいるのよ!早くやっつけて!」

「・・・しゃあないな。てかゴキブリやっつけて欲しいだけの話が、長すぎるねん」

「だって普通に言ってもおもしろくないでしょ」

「まぁそやけど・・・前置き長すぎてゴキブリ逃げてるかもやで」

「えっ・・・急いで、勇者オンドレ!」

「人に物頼むのに『おんどれ』とかないやろが!」

 俺はそう言いながらも、我が家のキッチンに向かった。母親の怖がる闇の魔王とやらをやっつけるために。



               ~つっこみくえすと。(完)~ 





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