高校生は二階堂博明18歳(後編)
村田と桐生は揃って起立したままの二階堂へと顔を上げる。この高校生はまだまだ話し足りずに爽やかな笑顔をして次の質問を待っている。
「まるでアルバイト用の履歴書、いや、お見合い用の履歴書ができますよ」
「俺らはその相手?」
また二人は同時に二階堂を見る。その手の揶揄を耳にしても、二階堂の好奇心に満ちた表情に変化はない。堪らずに、二人して、
「ハハハハハッ」
冗談が冗談では済まされないような冗談に、二人顔を見合わせながら大口を開けて笑い出す。仕事仲間としての四年の付き合いのせいか、見た目の雰囲気は異なるものの、この二人は変なところで感性に似たところがある。
「二階堂君、だっけ? 君はどうしてそんなに爽やかに明るく俺たちの事情聴取に臨んでくれるんだい? 普通に考えて、正直驚いたと思うけど。あんな変てこな現象が起きて、こんな組織が存在して、それに自分が関わってしまっていると。俺の経験で、何人も君のように関わってしまった人を見てきたけど、君のような人は初めてだよ。怖いとかっていう気持ちはないの?」
「いや、むしろ、こういう組織が本当にあったんだと、ああいう御伽噺や怪談話のようなことが現実にあったんだと、自分が夢見ていたような世界の存在に嬉しくて楽しくて、怖いだとか、驚きだとか、そんなものを感じている暇なんかないんです。もっと知りたい、もっと関わりたい。あわよくば、自分も秘密裏に動くこんな戦隊に加わることができるのかもしれないと期待してしまって、ただそれだけで顔が綻んでしまうんです。あ、こんな気がたるんでいる奴はいらないということでしたら、はい、すぐにニヤけるのをやめます」
一人で説明して一人で自制を口にして、言葉どおり俄かに真剣な面持ちに作り変える。が、長くは続かない。彼の興奮は持続中で、次第に強張ったその口元と目尻が緩み始めて、元の爽やかな笑顔の高校生に戻ってしまう。ああ、やっぱり駄目だと、卑下を口にするも、笑顔で言えば、どこまで反省しての独り言なのかも分かったものではない。
「これはまた、凄い奴がいたものだな。この業界に憧れる少年か。高校生だし、爽やかだから少年というのも変かも知れないけど、いや、頭の中は実に若い。漫画とかでも、よくこういった業界の世界が描かれているから、そのせいかな?」
桐生は小首を捻る。村田は肩をすくませる。ほかの事務員の女性二人もおかしな少年がいるものだと微笑むばかり。滋は、反応に困った感情の薄い表情をして、開いた口も塞がないで、ずっと二階堂のことを眺めている。彼の考えるところ、自分より年下でも、この業界に自分以上に積極的な二階堂こそ、この仕事に向いているであろう。
「誰かさんは、着ぐるみの熊を前にしただけで気絶したっていうのに、そういうのに限って能力者だったりするんだから、不思議な世の中だなぁ」
桐生にも言われるくらいである。滋は苦笑するしかない。
続きます




