穂高の開発課
地下三階、開発課の部屋はエレベーターから一番離れた奥にある。隣は訓練所で、開発課の穂高が作ったアイテムを訓練と称して実験している。ちなみに滋は、この訓練所を使ったことはない。彼が魔法力の訓練を受けたのは地下二階の瞑想室と呼ばれる、六畳ほどの狭い一室であった。
開発課の扉の前に立つと、まず目に付くドアの文様。どこの国か、いつの時代か、読めない文字の羅列が上から下へと隅から隅まで続いて、中央には「目」を模った金のオブジェが取り付けられ、そこからフックが伸びて、「開発課」と書かれた板がぶら下がっている。
「センスがいいのか悪いのかわからないといった顔だな。正直、俺にも理解できん。じいさんが言うには魔除けらしい。邪なものを退けても、福まで寄せ付けない感じがするんだよな」
と言って、ノックもせずに扉を開けて、
「おい、じいさん、来てやったぞ」
中を覗きこむと十二畳ほどの室内、正面にはデスクが一つ。右を向けば天井にまで届きそうな背の高い本棚が、左を向けば理科の実験室を思わせる実験器具の入った戸棚と、大きな白いシンクが見える。他、床には、これから使うのか、それとももう使わないのか、自作したであろう武器やアイテムの数々が散乱して足の踏み場もほとんどない。組織の一部署とはいえ、一人で使うとこんなものかと、驚いてしまう。比べて慣れた桐生は、返事がないと思うと勝手に入って、器用に床の品々を避けて、奥へと進む。
「お邪魔します」
滋も続けて中へと入ってしまうが、近くで見ると転がっているアイテムのどれもが歪である。美術作品でいえば前衛的と褒められなくもないが、そのほとんどが機能的には少しも新しく感じられない。一つ手にとってみた足元の扇子は、鉄でできているのか随分と重く、閉じることもできない。指元にスイッチらしきものを見つけて押してみると、その途端、扇子の先端から針が五本同時に撃ち放たれて、本棚の書籍に突き刺さる。何事かと振り返る桐生は、しかし案外に冷静で、
「勝手に使うと、あとで怒られるぞ」
滋はたいそう面食らって、黒い瞳が真珠のように丸くなる。真一文字に結んでいた口を鳥の嘴の如く突き出すと、
「…うん、そうする」
「しかし、じいさん、いないな。隣かな?」
桐生は本棚の側へ寄ると、おもむろに棚に手をかけ、ガラガラと音を立てながら戸のように開く。この課と訓練所は繋がっている。
続きます