報告書
水竜薙刀と二階堂博明に関する報告書
<回収後の処理について>
(二階堂博明)
基地に招き、事情聴取を行った二階堂博明(以下、二階堂)に対し、基地の所在、ならびにUWの存在についての記憶の抹消に取り掛かる。場所は児童会館隣接のプラネタリウム内。方法は穂高開発課長の発明した催眠用お香キットを使用。プラネタリウムの休憩時間内に忍び込み、誰もいないことを確認した上で実行。
催眠術における効果について、基地の所在については上手く抹消できたと思われる。当初の目標として、今回の事件を遡り、二階堂が薙刀を拾った事実から抹消することを図ったが、それは不可能であった。また、二階堂本人に潜在するこの業界への憧れのためか、UWの存在についての記憶を消すことも不可能であった。
所長より電話で指示を仰ぎ、二階堂の今後の記憶障害等、弊害を危惧してそれ以上の記憶抹消を断念。所長の許可により、二階堂を帰宅させる。彼の自宅まで桐生誠司(以下、桐生)が車で送る。
(二階堂に関する追記)
前述したように、二階堂には超人的戦闘者や怪奇現象を解決する組織に非常に強い憧れがあり、UWの詳しい説明を望むと同時に、自分をUWに加えてくれるよう懇願する傾向がある。彼を自宅へと送った際にも、その質問は途切れることがなかった。UWの基地の所在について、上手くその記憶を消すことに成功したが、彼のその傾向から、自身で調べ、いずれ基地が発見されてしまう可能性が高い。組織の存在が口外されないよう、いっそ彼の望みどおりUWに入隊させてしまうことも一つの解決策として提案する。とはいえ、能力者でもない彼を入隊させて良いものか否か、入隊させてどこに配属させるべきか、問題も多い。所長との協議の結果、二階堂には以下のことを伝え、危惧されるいくつかの項目に対し、抑止を図る。
第一に、UWという組織に、将来、二階堂が就職できるよう所長が推薦状を書くことを約束する。
第二に、しかし、それにはまず、二階堂本人が、しっかりと高校を卒業し、大学へと進学、学位を修めることを条件とする。大学の学部については問わない。ただし、その学部により、UWのどの部署に推薦するか、見極めることとする。
第三に、UWという組織、ならびに、同組織が取り扱う不思議な現象、事件、この世界において認知されていない生命体の存在について、一切の口外を禁ずる。これが守られなかった場合、その時点で二階堂の名前を組織のブラックリストに載せ、推薦状の話も白紙に戻す。
以上の項目に対する二階堂による返答は、「全てを承諾」。
その後、数日間、彼を監視するが、マスコミや友人はおろか、家族にも口は割っていない模様。監視者からの報告では、毎日、受験勉強に励んでいるとのこと。律儀で誠意のある性格、そしてUWへの入隊の気持ちが本物であると判断し、監視を解く。
(水竜薙刀の処理について)
人間が触れることで水竜が発現する薙刀の性質は前述したとおりであるが、保管するにも扱いが難しいため、Vice Cifer(以下、ヴァイス)に依頼し、「あちら側」へと送ることに決定する。ヴァイスの報告では「あちら側」の某国の某池の中へ沈めたとのことだが、おそらく「阿国」であると推測される。
また、ヴァイスの調査により、水竜薙刀は少なくとも五百年以上も昔に制作されたものであると判明。「阿国」の隠れた名工によって究極の武を求めて作られたという文献あり。それによれば、水竜はその名工のペットとして飼われていたとのこと。日本の戦国時代に「こちら側」へと渡り、戦場にて使用された形跡あり。「こちら側」へと持ち込まれた経緯は不明。当時の祈祷師(UWの者ではない)により封印されるとある。しかし、日時、場所等は一切不明。祈祷師の詳細も不明。また、いまから百年ほど前、「あちら側」の某国にて水竜薙刀が使われたと思われる資料あり。それらから推測するに、水竜薙刀が複数存在するか、もしくは「こちら側」で封印された薙刀が、一度「あちら側」に渡り、再度「こちら側」に戻ってきた可能性あり。今後も調査が必要である。
ヴァイスの見解では、水竜薙刀が複数存在する可能性は極めて低いとのこと。誰かが再度「こちら側」に持ち込んだと考えるほうが自然で、今後、重要視される点はそこにあると考えられる。
<了>




