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二階堂、粘りの説得

 言い負かして少しは気が済んだか、弥生は薙刀を足元に放り投げてしまう。水竜は姿を消す。済ますときはあっさりである。味気も余韻もなく、まるで弥生一人で解決してしまったかのようである。プラネタリウムの屋根から桐生とヴァイスも飛び降りてくる。


「さて、こいつをどうしてくれようか?」


 運ぶにも手を触れては面倒な薙刀を、桐生はこの場で破壊してしまうかと冗談半分で提案する。それに真っ先に反対するのはUWでもない二階堂である。まだまだこの武器を、そして水竜の力を使いこなせるようになれると己を信じている。


「どうせ破壊してしまうのであれば、わずかでもこの武器を使いこなせるかもしれない人材を試しに育ててみてからでも遅くはないと思われます。あなた方は勿体無いと思わないのですか? ましてや一度は実験を行ってその性能を、その性格を調べようとしていたじゃないですか。それはつまり、この武器が何かに使えないかと、そのように少なからず一度は考えたからでしょう。それをたった一度の暴走で、それも、途中からはだいぶコントロールできるようになったというのに、そういった事実を無視して臆病風に吹かれて、すぐに廃棄なんて、それでは組織の今後の発展の芽をみすみす潰してしまうのと同じじゃないでしょうか?」


 一つ間違えるとUWへの挑発とも取れるものも、滑らかに話されると、もっともらしく聞こえてくる。


「う~ん、まあ、でも、もともと、この薙刀を基地に持ち込んだのは俺たちじゃないからなぁ。あのじいさんがどう考えているかによるんだよね、結局のところ。多分、あの人なら取っておくと言うに違いないんだろうけど、それでも、君に預けて、君が使いこなせるように仕向けるとは思わないよ」


「何故です?」


「偏に責任問題なんだけど… まあ、大人の事情というやつだね。なかなか理屈っぽく説明するのが難しいけどね」


「それはつまり、あなたではこの件に関して、何らかの決断を下せないということですね。では、あの、自分を基地に呼んで実験を主導していたその人は、いまどこにいるんですか? できることなら、いますぐ呼んでもらいたいものです。自分も、埒のあかない桐生さんではなく、直接その人に頼んでみたいと思います」


 真面目な喋り口で丁寧でも、勝気なことでは礼節に欠ける。酷い言われよう故に桐生も怒っていいものを、相手が素人の未成年の高校生ということでそれもしない。


「う~ん、まあ、そうだな… あのじいさんに聞くのが一番手っ取り早いか。ただ、あのじいさん、基本的に携帯を持ち歩かない人だからな。基地にいなかったら呼びたくても呼べないかもしれないぜ」


「誠司、僕らみんなで一緒に出てきたから、基地にはいないはずだよ。少し離れたところで待機しているはず。僕が電話、掛けてみようか? 村田さんの番号をもらっているから」


 滋が掛けてみるとすぐに繋がって最初に場所の確認をされる。現状を説明し、次に二階堂の言い分を説明しようとすると、なかなか上手くいかない。聞く分には聞こえはいいが、それを自分の口から誰かに発してみると意外と難しい。


「とにかく、穂高さんを呼んでくれと、そう言っていますので、お二人、来てくれませんか?」


 しばらくして村田と穂高が彼らの元へやってくる。用心のため車は少し離れたところに停めて、歩いてきた彼らの手にはブルーシートが一枚。横にされた薙刀をそれで被ってしまう。


「それで、ワシに話って言うのは、なんや…?」


 穂高は斜めに睨む。二階堂は畏まって背筋を伸ばす。


「いえ、この薙刀をですね、どうなさるのかと思いまして… もう必要ないと処分してしまうのか、それともどこかに保管なさるのか、もう実験はなさらないのか、と…」


「処分なんて、せん。そんな勿体無いこと、誰がするか。研究所の連中にも渡すつもりはないなぁ。もしかしたらいざというときに使えるかもしれんので、あれはワシが保管する予定や」


 二階堂の顔が期待にみるみる明るくなる。もう一声を望んで、


「では、では、実験のほうは…」


「まあ、それなりにこの薙刀のこともわかったしな、これ以上する必要もないかもしれんけど… なんや、お前さん、やってみたいんか?」


 二階堂にして、これ以上ない言葉の運び。だが、


「ちょっと、お店壊したの、忘れてない? 上に報告しなきゃいけないんだから、勝手は言えないと思うわよ」


 冷めた目をして弥生が水を差す。いや、彼女が正しい。



続きます

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