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基地は和菓子屋の下

 某所、町の外れの丘の上に三階建ての小さなビルがある。一階では和菓子屋が営まれ、二階、三階は事務所や会議室として使われている。店の評判は上々で、大福餅をデパートや駅にも出荷している。市内でも名は知れ渡っているが、その店の地下に桐生たちが所属するUW日本支部の地方基地が存在していると知っている者は関係者以外ではいない。


 地下の広さは地上のビルの四、五倍はある。この地域における情報収集、武器研究、対外交渉、その他、超常現象に対する細かな活動を委任され、その判断も責任も基地に依存する。所長の下に五つの部署が設けられ、それぞれに一から五人くらいの人間が配置されている。この基地で、いわゆる能力者は、現在、桐生誠司と平塚弥生、そして佐久間滋の三人のみ。彼らは実行部という部署に所属し、特殊能力部隊を編成して桐生が隊長を務めている。


 滋はこの基地にほとんど足を運んだことがない。桐生たちの手を借りて能力の覚醒に成功した後、組織の存在の説明を受けた際に一度、それから自身の能力の修行、特に魔法力の基礎的な訓練の際に一度と、併せて二度しかない。隊員として働くようになってからは、命令の全てが桐生より直接伝えられるため、滋がここに赴く必要も特になかった。基地内での顔見知りも少なく、せいぜい数名と挨拶を交わした程度で、その名前もはっきりと覚えていない。


「お前、基地には久しぶりだよな?」


 道中、桐生は運転しながら滋に訊ねる。


「うん。UWに入ったころ以来だから、二ヶ月は行ってない。正直、ちょっと緊張しているんだけど。場所も、多分、僕だけなら辿り着けないと思う。道もあまりはっきりと覚えていないよ」


「まあ、それは今回で覚えてくれればいいけど。緊張ねぇ、基本的に普通の人たちだし、いい人ばかりだから構える必要はないとは思うけど。まあ、中には変な人もいるか」


 桐生はニヤリと笑う。滋が困るのが好物のようである。


 和菓子屋の前に着く。滋の目にも、この和菓子屋はどこにでもある普通の菓子屋である。地下に組織の基地があるとは今このときでも不思議でならない。ちなみにこの和菓子屋は自分たちが所属する地方基地が切り盛りしている。桐生も弥生も、アルバイトとしてこの店で働くことがある。近所の目を誤魔化すために、それもまた必要な仕事の一つである。


 滋はこの地方基地の所長とも、入隊する際に一度だけ挨拶を交わした程度の面識で、これまたあまり詳しく知らない。常時スラックスに上は作業着姿だそうで、当時の滋の印象も、「どこかの工場長」であった。物腰も柔らかく、私物の入ったビニール袋を片手に現れて挨拶されたときは、偉ぶらない庶民的なスタイルに却って恐縮してしまったものである。また、その口調も丁寧で棘がなく、特別な能力を持たない普通の人間でありながら、まるで普通らしからぬオーラを纏っているように見えた。見えたのは、しかし気のせいで、人の魅力、人の才能は魔法力の有無では語れないと思い知る。所長はよく県外に政治的な理由で出張に出ていることが多く、基地内でもなかなか見かけることが少ない。部署ごとのリーダーに現場での指示を任せているため、滋への組織の説明も訓練もこの業界の勉強も桐生が中心となって行われた。なお、所長は一階の和菓子屋の社長も兼任している。出張の半分が、菓子屋の営業という噂もある。桐生でもその辺りは詳しく知らない。



続きます

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