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二階堂の夢(後編)

「それはマズイだろう。自分が所属しようと希望するその先の先輩をやっつけて入ろうとしている奴を、どうして俺たちが認めると思う? はっきりと言っておくと、この業界は別に戦闘が全てじゃないから。戦闘だけで解決できないことのほうが多いくらいだよ。地味な仕事ばっかり。夢だけ持って入ったとしたら、後でがっかりすることのほうが多いと思うぜ」


 UWが能力者を見つけ次第、確保して入隊へと仕向ける傾向にあるのは、そうした人間がこの世界において孤立することを救い、またはその力を使って犯罪に手を染めることを事前に阻止するためである。また、UWは決して人員が充足しているわけでもない。増員のため、能力者をスカウトすることは一番手っ取り早く、理に適う。だが、だからといって能力者でもない普通の人間に、人為的に力や能力を添加し、強大化させて、それを能力者と呼んで隊員に加えるようなことは絶対にしない。自然の摂理に反し、戦闘員を機械のように増産することは「あちら側」の協定、条約でも禁止されている。それに照らせば、二階堂の言うことは違反行為である。さらに推測するに、薙刀の水竜は「あちら側」の生体である。「迷子」を「こちら側」に利用することを良しと思わない国も「あちら側」には多い。政治の中で組織は存在し、両者の利害調整のためにUWのような組織は存在する。こういった背景を細やかに説明すれば二階堂の妄想も覚めるかとも思うが、この話、特に「あちら側」の存在について、UWの一員ではない人間に話して良いものでもない。


「何か、頭ごなしに自分があなた方の組織に入ることを拒んでいるような、いい訳じみた説得のようにも聞こえるのですが、それで納得しろというのもどうかと。自分自身は特に手に入れた力を自分のためだけに使おうとしているのではありません。竜の言うように、自分こそが武を極め、自分こそがナンバーワンだと、そういった欲や思想にも興味はありません。自分の力を、仕事として使いたい、ただそれだけなのです。確かにまだまだいまの自分は不安定かもしれない。でも、いつかこの力を自分の意思でコントロールできるくらいまでになれれば… いえ、なります」


「扱えるようになってから言ってくれ、と言いたいところだけど、そのためにも、もっともっとその薙刀を振ってみたいということなんだよな。まいったな。段々と君の言っていることが理屈の通った話に聞こえてくるよ。でもねぇ、どうしたものか… どう思う? ヴァイス。近くにいるんだろ?」


 突拍子もなくヴァイスの名を呼ぶが、独り言でもない。児童会館の屋上の端のほうで人影が飛び上がって桐生の側に着地すれば、彼である。


「よくわかったね」


「そりゃ、付き合いが長いからね。お前は気配を消しているつもりだろうけど、いや、確かに気配はないんだけど、俺の動物的勘がね、だからこそ怪しいと思ってしまうんだよ」


「要するに、確証のない、当てずっぽね。それはそうと、近くで話を聞いていて思ったけど、彼はなかなか熱心だね。まるで組織への就職活動のようだよ。君も面接官としてはなかなか厳しいね。まあ、立場上、仕様がないことだと思うけど」


 ヴァイスの登場に二階堂はその刃先を一旦彼に向けて、桐生に戻して、またヴァイスに、と、それを繰り返す。


「俺の立場がわかるっていうなら、どうかそれを彼に伝えてやってくれ」


「おや、泣き言かい? 彼の押しの強さと屁理屈にも似た理屈は政治的なところで役に立ちそうな気もするけどね。いっそ、そういうポストで雇ってあげたら」


「なるほど。でもそうなると俺の一任では無理だね。管轄じゃない。上の人の仕事だよ」


「でも、その方面で話をまとめてみては? それで彼も了承、薙刀も手放すとなれば万事解決ということになるんじゃないのかい?」


「それはお前、こちら側の勝手な理想だろ。話を聞いてなかったのか? 彼は薙刀を振るう能力者として仕事をしたいって、そう願っているんだぜ」


「それはそうなんだが、何事も試してみないと、聞いてみないとわからないだろ?」


 好き勝手言っているようにも聞こえるが、間違ってもいない。桐生は悩む。



続きます

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