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二階堂の夢(前編)

 河川敷沿いに市営の児童会館がある。ロボット、遊具、掲示板を用いて科学や物理、自然環境等の体験や紹介を行うその施設に隣接してプラネタリウムがある。水竜に操られる二階堂はプラネタリウムのドーム状の屋根に登り、それを追って桐生が児童会館の屋上に立つ。距離は五メートル強。その間で二人は対峙する。二階堂の呼吸は乱れている。ただ体はまだ動く。桐生もまだまだ体力に余裕がある。


「訓練所のときと比べて構えが違う。逃げながらの戦闘のうちに慣れてきたってことなのか? だとしたら厄介な戦闘センスだな、その竜も。そうでなければ… 二階堂君、本人かな?」


 桐生は一旦構えを解いて、目を細めて二階堂の瞳を深く見つめる。推測だが、水竜のパワーはそのままで、薙刀の技術は二階堂本人によって繰り出している可能性がある。


「いえ、そうです。実際に武器を振るイメージを起こしているのは自分です。竜に操られたこの体は、そのイメージどおりに動いてくれています。代わりに疲労を直に感じるようになりましたけど」


「それはつまり、これまでの、逃げるも戦うも、君の意思だったと、そういうことになるのかな?」


「そのあたりは、ちょっとわかりません。最初は竜の意思で逃げ出して、戦闘も相変わらずのオートでした。でも、その途中、あの交差点を抜け出したくらいからですかね、あなたとの戦闘中、頭の中だけでこうしたらいいのに、ああしたらいいのにと思っていたら、体がそのうちにそのように動き出してきたんです。そうしたら何だか逃げながら戦うことが次第に楽しくなってきて、何か世界がいっぺんに広がったような気がしました。自分としても、このままあなたに捕まって、この素晴らしい感覚、体験を、いまこの時までで手放さなければならないと思うと、正直それは嫌だと、拒否の気持ちが生まれたのも事実です。正直、どこまで自分の意思が働いているのか、戦いながら逃げているのが全て自分の意思によるものなのか、その辺りは微妙なんです。この竜だって捕まりたくないと思っている。そして戦闘を欲している。でも、それはいまあなたと戦うことじゃない。この薙刀はもうすでに認めています。あなたと、あの黒い服の人のどちらかが武を極めしものだと。そしてその両方を破ることができるときこそ、自分にとっての、武を極めるということだと。そのためにはさらに強くなる必要がある。自分を受け入れ、イメージしたテクニックどおりに動いてくれる理由も、おそらくそこにあると思います」


「君は、こういう展開を想定してその薙刀を握ったのかい? だとしたら、したたかだね」


「想定というより、夢ですね。所詮、願いに過ぎないものでした。あの室内での戦闘のときは、もう駄目だろうと諦めていましたが、結果的にそれが、十割とはいきませんが、九割がた叶ったというところです」


「叶ったいま、次は何をしようと? 君もやっぱり、武を極めたいと、そう思っているのか? そもそも君の夢っていうのは?」


「それはもちろん、あなた方のいる業界の人間になることです。自分が子供のころから毎日やってきた薙刀一本で仕事になる。それこそ自分の夢です」


「う~ん、やっぱりそこにくるか。しかし今の君はまだまだ不安定だ。それに武器に頼って力を得ても、君自身は普通の人間と変わらない。すぐに入隊というのは、正直難しいよ」


「それでは、何をどうすればあなた方の組織に入れてもらえますか? 不安定とおっしゃるのであれば、この力を逆に自分が支配できるくらいに使いこなせるようになれればいいということですか? それとも実力の程を示せばいいのですか? 竜が望むように、あなた方を倒して武を極めれば、それで認めてもらえますか?」


 二階堂は毅然として言い放つが、言っていることは分別のつかない十代の少年そのもののように幼稚で過激である。



続きます

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