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「どうせ、アレでしょ?」

 車体は跳ねたり傾いたり、体も横Gを受けて右に左と振られて落ち着く暇もない。あっという間に麓まで辿り着く。だが道中、二階堂や、それを追って先行した桐生やヴァイスを目にできなかった。


「追い抜いたかな?」


「いったん、戻るしかないわね」


「あの、その際は、できればゆっくり運転してもらうと…」


 平静でいられる村田と弥生と違って、滋は粗い運転に顔を引き攣らせている。


「ん? 大丈夫。飛ばすのはいつも下りだけだから」


 道路の隅々に目を配りながら、車は中腹付近まで戻る。二階堂や桐生たちの姿はそれでも見つけられない。


「あの、一つ疑問に思ったんですけど、二階堂君、あの高校生を確保した後、彼をどうするつもりなんですか? 薙刀の実験データも十分取れたみたいですし、その、薙刀の呪縛から彼を解き放った後、彼はどうなるんですかね? 素直に帰してしまうんですか?」


 車内の誰と特定するでもなく、滋はふと質問を放る。


「まあ、素直には帰せないかな。色々と見られているわけだからね」


 運転しながら村田が答える。穂高を見ても弥生を見ても、それが当然と小さく頷いている。


「実際、そうですよね。相手はあくまで普通の人なんですよね。そんな人を、世間からは知られずに行動しているUWの基地へと案内してしまって、本当にいいのかどうか、正直、ずっと疑問に思っていたんですよね」


「まあ、はっきり言うとマズイかな。本人を前にこう言うのもなんだけど、今回、彼を連れてきた件は、穂高さんの得意の身勝手から始まったことだからね」


「そ。本当ならあの薙刀だけ持って帰ればいいものを、データ作成と実験目的にあの高校生まで連れてきたのよね。おかげで、これよ」


 村田も弥生も、呆れているのか穂高のほうを見ない。


「おいおい、二人して人聞きの悪いことを言うなや。どれもこれも組織の今後の発展のためを思っての行動やろ。結果はどうあれ、そんなことにいちいちビクビクしていてもこの業界ではたいした実験もできんやろ。むしろそんなアクシデントは常に付き物やと、そういう前提なんやと、うまく解決させるのもこの業界人の腕の見せ所、本領というものやろ」


 穂高が口答えをするので、弥生もようやく一瞥をくれる。それがまた冷めた目をしている。


「所長が知ったら絶対に怒られるわよ。だいたい実験なんて研究所に任せればいいのに」


「駄目駄目、あいつらなんかに任せられるかって。ワシのほうが経験が長いんや。ワシに出来るならワシがやるほうがいいに決まっとるやろ。それに今後の武器作りの参考のためにも自分がやって、自分の目で、手で確かめるのがいいんや」


「やれやれよ」


 弥生はついには肩を竦めている。間を取り持つように、滋が口を開く。


「あの、それはそれでもうやってしまったことだからいいんですけど、その後の処理、つまり二階堂君は、具体的にはどうするんですか? 彼はなかなか口も堅そうだけど…」


「それは… どうせ、アレでしょ?」


「アレ、だろうね」


 弥生と村田はその解決策を知っているようだが、二人の反応は芳しくない。


「アレや。わしが開発した催眠用の薬を使って、暗示にかけて基地の場所の記憶を削除するんや」


 穂高の方は自信に満ちている。


「催眠術ですか… そんなに上手くいくものなんですか?」


「まあ、その人によりけりやな。組織と関わったそれまでの記憶を全て消そうなんて、そりゃほとんど無理な話やけど、基地の場所だけっていう限定でやれば、大概は上手くいくやろ」


「つまり、二階堂君からしてみれば、僕らと接触した記憶は残っているし、不思議な現象や、信じられない戦闘をしたという体験や記憶も残っているけど、それがどこでやったのかわからないと、そういうことになるわけですか?」


「そうやな。組織の存在を口外されても、それを立証できるような証拠がないんやったら、いくらでも世間に誤魔化しが利くわい」


「それはまた… それで、催眠術の成功率っていうのは、どれくらいなんですか?」


 痛いところを問われたのか、穂高は急に不味そうな顔をして滋を睨む。代わりに村田が、


「被験者も少ないけど、約、六割くらいで成功、だったかな」


「六割… 三人に一人は失敗する可能性がある… それ、本当に大丈夫なんですか?」


「まあ、基地の記憶だけ消そうなんて試みは過去に数回しかないからね。保護じゃなくて、事情聴取だけで基地に連れてきたのだって、俺のキャリアの中では今回が初めてだからね」


「ハハ… もし成功しなかったら…」


 滋は、その続きを聞くのが怖くなる。穂高は自棄のように、


「そんなもん、駄目やったら駄目で、次や、次。誓文を書かせて、口外しないように約束してもらって、しばらく監視やな」と言う。


「国家事業でもないのにですか? そんなことをして、いいんですか?」


 滋もいちいち五月蠅い。


「一応、半分は国のものだからねぇ。それも駄目そうなら… 俺みたいに入隊になるのかな。二階堂君はどうやらそれを望んでいるようだから、彼としては願ったり、叶ったりなんだろうけど」


 村田のように特別な能力もない、いわゆる普通の人間がUWに入る経緯は、大概、以前に「あちら側」の住人と接触して、UWに保護されたことから始まる。また、いわゆる能力者は発見され次第、保護して組織に加えるよう働きかけられるが、それと同じように情報処理能力やその道のマニアックな知識、戦闘技術、救命技術等を買われて一般人でもスカウトされることがしばしばある。ほか、一般公募もあるらしいが、ケースとしては実に稀である。


「あの、とりあえず催眠術を使うことはわかったんですが、その場合、いや、その場合に限らず、店の名前の書かれたこの車ってちょっと拙くないですか?」


 車内はしばし沈黙する。


「う~ん、そうだね」



続きます

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