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二階堂×水竜の攻撃

 その場で一度薙刀捌きを見せつけると、水竜に取り衝かれた二階堂は急に瞑想し始める。一同、何の真似かと戸惑った一瞬の隙を突いて、二階堂は猛然と桐生目掛けて駆け出す。薙刀を大きく振りかざし、必殺の間合いに入ると躊躇なく振り下ろす。間一髪で避けきる桐生の顔に余裕はない。すぐに自分の得物を取り出そうとするが、さて手元に刀がない。


「いけねぇ!」


 開発課への入り口の脇に立てかけてある。取りに行こうにも二階堂の連撃が放たれる。いずれも躱して、躱しながらいつの間にか得物に辿り着いて握り締めている。ついには二階堂の薙刀を得物の刃で受け止めてみせる。と、足癖悪く、相手の脇腹に蹴りを叩き込んでしまう。怯んだ隙に今度は顎先へと回し蹴りを入れる。二階堂は後方へ五メートルは吹っ飛ばされる。


「誠司! やりすぎりるなや! 相手はあくまで普通の高校生やぞ!」


「了解だよ! ちゃんとデータ取ってよね!」


 UWの面子も抜け目がない。こうなってしまえば実験、検証開始。ヴァイスはといえばこの状況を静かに眺めている。滋はといえば、手出しは出来ないから、桐生が上手くやってくれることをただ祈る。


 飛ばされた二階堂だが、水竜の力で強化された肉体を以って起き上がる。口惜しいようで、その場で地団駄する。


「倒す!」


「いつでもどうぞ」


 再び駆け出すと、一撃目と同じ大振りをする。


「またか」


 一度避けた技は桐生には通用しない。が、その一撃は囮で、二階堂が翳した右手より水竜の顔が飛び出してくる。これが桐生の腹に重くめり込んで、吹っ飛ばしてしまう。それも十メートルは飛ばされたか、桐生の体はそのまま訓練所の入り口を越えて廊下に飛び出してしまう。


「誠司! 大丈夫か!」


 穂高が叫ぶが、しかし返事はない。


「もしかして、気絶しているんじゃないんですか? ものすごい勢いで飛ばされましたからね」


 穂高と村田は顔を見合せると、慌てて桐生へと駆け寄っていく。滋は、桐生も心配だが、水竜に操られた二階堂も心配と、どっちに気を注げばいいのか右往左往する。見かねてヴァイスは、


「誠司はあの二人に。君は水竜を」


「は… はい!」


 返事と共に結界の構えを取る。二階堂を正面にすると滋の足は震える。


「頭突きだったね。水竜の頭突き」


 そうヴァイスは見たままを口にする。二階堂の手にはすでに水竜の姿はない。得物を振り回す単純な格闘以外では勝てないと見込んでの隠し技。水竜と二階堂、二人で勝つと言っていたことは嘘ではなかったのだ。「武」を強調していただけに、若干卑怯にも見えるが、これこそがこの業界の戦い方である。誰も文句も言えない。油断すれば負け、死ぬことだってあり得る。滋はUWの、その中でも実行部隊として働くことの、危険で汚くきつい現実を目の当たりにする。


 この業界に興味を示していた二階堂は、では、いまの自分の攻撃をどう思っただろうか? たとえ水竜に体を操られていたといえ、卑怯な手段だったと罪悪感を抱いたか? それとも、これこそ自分が思い描いたとおりの業界の戦い方だと、胸を躍らせているのだろうか? 滋は二階堂の顔を憐れむ目で見つめる。二階堂の目は、躍動する身体に反して、どこか精気が抜けている。


「お~い! 誠司は無事やぞ!」


 訓練所の外から穂高の声が聞こえる。滋もそちらへと振り返る。すると、視線を逸らした隙を突いて二階堂は猛然と駆け出し、今度は滋目掛けて薙刀を振りかぶる。反応速度が人並み以下の彼には避けることはできない。それをヴァイスが飛び蹴りで割って入る。二階堂をまたも吹っ飛ばしてしまう。


「いよいよ、見境なくなってきたね」


「いまの音は何や!」


 二階堂が壁にぶつかる音を聞いて、穂高も村田も訓練所に戻ってくる。


「桐生誠司のほうは?」


「おお、一瞬、のされたみたいやけど、意識もある。問題ない」


「ふ~ん、いい具合に入れられたと思ったけど、さすがに体力馬鹿はタフだね。それじゃ、あの薙刀の子は、そろそろ止めてもいいかい? もっとデータを取りたい気持ちはあるだろうけど、軽くいなせるような相手でもないからね。あの高校生自身の体がボロボロになる前に終わらせたほうがいいと思うよ」


「でも、どうやって止めるんや?」


「握っているあの得物を放させればいいんでしょ?」


「まあ、確かにそうやろうと思うけど… 上手くいくか?」


「やらなきゃ、そっちが大問題でしょ」


 二階堂が再度すっくと立ち上がる。


「ヴァイスさん、後ろ!」


 滋が叫んだときには、今度はヴァイス目掛けて駆け出している。やはり薙刀を大きく振り上げる。対するヴァイスは即座に、どこから出したか小太刀ほどの自身の得物で受け止める。掌を翳して水竜を飛ばす攻撃も読み切ると、逆にカウンターの拳を顎先に打ち込む。二階堂は一瞬白目をむいてしまう。


「いけない。顔は彼のものだったっけ?」



続きます

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