二階堂博明の将来の夢(後編)
水竜の薙刀を発見したときも、彼は鬱憤を打ち払うように体を動かしていた最中であった。汗にまみれ、その汗が為に手が滑って、木製の得物が水の中へとすっ飛んでいってしまったのだ。覚悟を決めて得物を探しに水に飛び込み、そこで偶然見つけた薙刀から水竜が現れたとき、戦慄が走ったものである。このような生命体が存在するなら、それと関わる我々人間側の、一般には知られていない組織も必ず存在するであろうという期待が瞬時に胸に広がったのである。彼は、薙刀をこっそり持ち帰っても良かったが、そういった組織の存在の確認を一刻も早くしたいと、すぐに警察に連絡した。そして現実にUWの隊員が現れ、詳しい話を聞きたいと頼まれる。これまでの人生の中でそのときほど興奮したこともない。
彼は長年、UWのような、人知を超えた存在を相手にする影の組織が実在するなら、そこで働きたいという、密かな夢を抱いていた。自分でも、あまりにも幼稚な夢であると思っていたために、家族にも友人にも先生にも、誰にも話したことがなかった。が、その一念は強く厚く、そのため彼は、基地での事情聴取に就職の面接のような気持ちで臨んだ。清水たち事務員に応接室へと案内されたとき、彼の目には彼女たちが人事課の人間に見え、さしずめ、聴取に当たった村田は面接官に見えた。自分が何者であるかと最初に聞かれたとき、彼は自分というものをよく知ってもらおうと、聞かれること以上のことを自分から話した。積極性があればここで働ける可能性も増すと、彼は本気で考えていたわけである。それでいて、取り乱しては印象も悪いと、努めて冷静に、己の雰囲気にも気を配った。とはいえ、それが普段の彼とかけ離れた態度というわけでもない。毎日、素振りを続けるところからわかるように、彼の性根は律儀で真面目で純粋である。
桐生誠司が佐久間滋とともに部屋に入ってきたときには、一目で二人が只者ではないと彼は感じた。一見してその辺りにいる普通の大学生に見えながら、しかし一般人とはどこか違う、注意しても見落としてしまうような、特別な雰囲気、物腰をしていた。いわゆる能力者は、常人よりも魔法力が豊富で、人によっては体外に溢れる者もいるが、エネルギーゆえに肉眼で確認できるわけではない。それでも能力者の中には肌で魔法力の強さを感じ取り、その程度を測れるものもいる。二階堂はただ直感で二人に脅威を感じただけかもしれないが、その感性が勘違いではないなら、彼にも能力者としての才能があるのかもしれない。
彼は、自分がもしゲームや漫画のように常人を超えた才能なり能力を持ち合わせていたなら、その力を彼個人のためではなく、地域のため、国のため、皆のために使いたいと考えている。薙刀一本で異種格闘技の大会でチャンピョンになるのではなく、秘密の組織に組み込まれ、指令のもと、一兵卒となって働きたく、しかも、その組織は個人の持ち物であっては駄目で、国が管轄、もしくは関与、援助していなければならない。加えてそれが日本という自分が生まれ育った国によるものであればベストである。軍隊を持たない日本に生まれた彼は、いっそどこか別の国に帰化して、その国の軍に入隊するという将来を思い描いたこともある。特別な能力がなくとも、薙刀を銃に持ち替え、現実ある武力部隊に入隊すれば、それなりに自分に合った仕事と呼べるのではないかと考えるからである。それも、やはり自分は日本という国が好きという理由で、すぐに捨てている。では日本の何が好きかと問われれば、彼はまた悩んでしまう。故郷だからと言うほかなく、敢えてくだけて下世話な理由を用意すると、清楚な日本女性が好きだから、であった。話は一周して、それでは自衛隊に入れば良いではないかと、そこに戻ってくる。そしてまた、やはりしっくりこないと小首を捻る。薙刀を活かしたい、さらには特別な能力を手に入れ、それに見合った存在を相手にしたい、と。現実的な将来のビジョンが目の前に広がっても、彼の固執は非現実的な願望を抱きたがる。夢や妄想に縛られるのは若さ故の欠点である。残念なことに、この欠点を彼は自覚していない。自覚がないが、胸の底がもやもやとする、その靄を晴らそうと、彼は薙刀を素振りしてしまう。
何のために、何を目指して薙刀を振るうのか。水竜の薙刀、そしてUWと出会ったことにその答えを見つけた気になれば、二階堂はそこに運命を見ようとするのであった。
続きます




