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二階堂博明の将来の夢(前編)

 二階堂博明の毎日は、朝六時前に起きて玄関前で何十、何百と薙刀を振るうことから始まる。夏だろうと冬だろうと、学校があろうがなかろうが、一日たりとも欠かすことなく、薙刀を習い始めた歳からずっと続けている。すでに十年は経つ。外泊して薙刀がないときには、長い箒やモップを代わりに振って、雨や雪のときは家の中で振る。隣の道場の師範も感心するほどの真面目な習慣だが、何故にそこまで出来るのかと首をかしげる者は数多い。師範も然り、二階堂の両親も然り。彼の妹などはむしろ馬鹿にした目で見て、友だちも、彼を変人と呼ぶことがある。


「お兄ちゃんはどうして毎日そんなことを続けているの?」


 妹が以前にそう聞いたことがある。その際は、


「子供のお前にはわからないだろうな」


 と、あしらっている。彼の友だちもついこの間、


「そんなに毎日続けて、いったい何になろうとしてんだか」と、聞いている。これにも、


「さあね。毎日続けているのは子供の頃からの日課だからなぁ。成れるものなら、自分の武芸が活かせる仕事をする人になりたいけれど…」


 今日、この日本において、薙刀の腕を活かせる仕事はまずない。戦国時代、刀を振るい、槍で戦う世であれば、彼の望みも叶えられようが、今の世では武芸を活かすといえば、せいぜい警備員や自衛隊ぐらいのもので、それらにしたって薙刀を使う機会は皆無に等しい。友人の一人は彼のことを時代錯誤と揶揄し、また別の友人は彼のことを探求者と呼ぶ。どちらも間違ってはいないが、どちらも正しいとはいえず、彼自身が一番、何のために朝から毎日薙刀を振るっているのか、ゴールがどこにあるのかわかっていない。これを続けることに大した意味も意義も、そして将来性もないことも彼自身がよく理解している。それでも振ってしまうのは、いうなれば薙刀に取り憑かれていると例えるか、もしくは前世の何者かの習慣が、彼の体に残っていると言えば多少は格好がつく。


 彼は趣味で格闘アクションのゲームをよくする。小学校のときに友人に連れて行ってもらったゲームセンターで体験してから、ずっと嵌っている。ソフトも何本も持っている。ゲームの腕はそこそこで、友人間では強くもなく弱くもない。彼が格闘アクションゲームをしながら常々思うところは、自分もいつかこんな戦闘を繰り広げられる人間になりたいと、子供じみたものであった。小学生のときに抱いたその憧れを、高校三年生になった今でも抱き続けている。


 受験勉強をそろそろ本格的に始めなければならない時期に入り、しかしこれといって希望する大学もない彼は、暇さえあれば将来の目的探しに思い耽る。が、そんなものは徒に鬱々としたものを胸にため続けるばかりで、どれだけ一人で悩んだところで答えらしい答えに辿り着かない。候補に挙がったものといえば、自衛隊、警備員、プロ格闘家、等々。どれもしっくりとこず、翌日には、「ああ、どれも違う」と頭の端へと追いやって、そしてまた何をすればいいのか、どう考えればいいのか悩みに悩む。そのうち頭が痛くなってくると、考えることにも飽きてくる。そういうとき、彼は決まって薙刀の素振りを始める。振るって、振るって、無心になり、少しは気も晴れる。



続きます

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