手持無沙汰の中の会話
ヴァイスが到着するまでの一時間、滋は二階堂からいくつか質問を受ける。UWに入ったきっかけ、入って何年目か、これまでどのような仕事に携わったか等々、概ね、この業界に関することを聞いてくる。とはいえ、まだまだルーキー。語れるほどの仕事をこなしてもいない。基本は秘密裏に動くこの組織の性質上、どこまで素人に話していいのかもわかっていない。結局どの質問もあやふやに答える。素直に自分を曝け出せない自分にもどかしく、不慣れなことをさせる二階堂を少し煩わしく思う。心疲れて一時間が非常に長く感じられる。二階堂の方はそれでもめげない。潔い性格かと思えば案外に粘り強い性質である。滋が駄目なら、次は村田へ質問の矛先を向ける。あれこれ滋にしたのと同じことを聞く。滋も興味のあるところだが、
「悪いね、それらは企業秘密」
一切払いのけてしまう。次には穂高に狙いを定めると、
「わしか? わしはもう随分とむかしからここにおるからな~」
意外なことに、こちらは返事に明るい。隠すことがポリシーとしながら、本当は自分の昔話を他人に喋りたいのかもしれない。そしてすぐに我に立ち戻って、
「おっと、いかん、いかん。わしとしたことが、危うく自分の経歴や素性を素人に漏らしてしまうところやった。危ない、危ない」
二階堂に背中を向けてしまうが、穂高を最も落としやすいと睨んだ二階堂はそれからしばらく穂高ばかりに付き纏う。滋は、さて手持無沙汰になる。
「そういえば、誠司はいつからUWに入っているの?」
「俺か? いつだったかな、もう随分前のことだからな。小学生の高学年くらいかな。キャリアにして十年近くだね」
「小学生で? それじゃ、中学で僕と同じクラスだったあの頃にはすでに組織の人間だったってこと? 確かに運動神経がずば抜けている人だと思っていたけど…」
「学校じゃ全然本気出してないぜ。一応、組織からは才能を隠すよう、止められていたしね。本気を出すと大問題。一躍、陸上界、うんにゃ、スポーツ界全体の常識を覆す人物の登場ってことで世間の注目を浴びてたよ」
「そういえば、バスケ部に所属していたよね」
「おお。あれはほとんど趣味だったな。公式戦には一度も出ていないし。試合は練習試合だけ。UWの世界規約で、能力者はスポーツの大会に出ちゃいけないんだ。俺なんか、どれだけ足が速くてもオリンピックには出られないからね。俺たちは人間だけど、普通の人間じゃないからね」
「そうだったんだ… むかしから色んな噂は聞いていたけど、知らなかった。キャリアもそんなに長いなんて」
「俺の場合はうちのじいちゃんが元UWの隊員だったから。あ、いまは年取って落ちぶれているけど、一応、能力者ね。そのじいちゃんにつんだって、ここにも昔から出入りしていたんだよ。正式に所属したのは小学校高学年だけど、もっと低学年の頃から業界そのものは見ていたね」
「誠司が、いわゆる能力に目覚めたっていうのはいつの頃からなの?」
「さあね、覚えていないなぁ。物心ついた頃からじいちゃんに修行させられてて、分別がつくような歳には、自分は人と違うんだって、理解してたね。ちなみにいわゆる魔法力っていうのは、どんな人にもわずかながら持っているもんでね、俺たちはその量がはるかに多いってことなんだけど、お前も、お前本人や周りの人が気がついていなかっただけで、意外と子供の頃から、その潜在的な魔法力の量は多かったのかもしれないぜ。数ヶ月前、覚醒したときに突然に増えたってことはないはずだからね。それと、お前の母親側のじいさんも、この業界の人だったって話だぜ」
「え? それは初耳なんだけど。僕の母親側のおじいちゃんって、僕が生まれる前に死んでしまっていたから会ったこともないし。え? それって本当にそうなの? いままで、そのおじいちゃんのことって家の中でもほとんど語られなかったけど、それもつまり、そういうことなの?」
「そういうことって… アバウトだな。要するに普通じゃなかったってことだろ。どうして亡くなったのかも、結局はそういうことなんじゃない? お前、親には自分の能力やUWに所属していることなんかを話したのか?」
「いや、話してないけど。バイトを始めたって、その程度だけで、自分の結界についても特に何も…」
「知らない振りをしているだけで、本当はすでに何もかも知っていたりして… いや、それはないか。もし気付いているとしたら、お前の母親側のばあちゃんくらいだろうな」
「おばあちゃんは生きているけど、一緒に住んでいないし、市外に住んでいるから、最近、会ってもいないし…」
「ふ~ん、知られていないってことか。よかったな、秘密裏に動くUWぽくって。一応、これからも話す必要があるときまで隠しておけば? そのほうが、何かと面倒もなくていいと思うぜ。大学生活も謳歌しやすいってものじゃない?」
「そういうものなの? でも、誠司のところはどうなの? 家の人は誠司がこんな仕事をしているって、知っているの?」
「ああ、知ってるよ。いわゆる能力者として覚醒してるのは、じいちゃん抜くと家族でも俺一人だけど、百も承知。承知しているから、子供の俺をじいちゃんに預けていたわけだしね。親は普通のサラリーマンだけど、そういう一家なんだよ」
「誠司って、兄弟いたっけ?」
「いや、俺は一人っ子。まあ、そんなもんだから、ガキの頃は俺が危険できついこの業界に関わることを周りで反対していた人もいたんだよ。大事な跡取りをどうとかいってね。まあ、俺の先代って、あのじいちゃんだから、正確にはちゃんと跡を継いじゃっているようなものなんだけどね。そんな反対も最近じゃ、ほとんど聞かなくなったね。名実共に、俺も成人として認められたということだね」
「弥生さんって、その辺りどうなんだろう。彼女の周りの人は知っているのかな?」
「さあね、今度本人に聞いてみれば。親は、確か普通のサラリーマンだったと思うけど。普通の親の感覚なら、いくら能力があったとしても、こんな業界は反対だろうな。自分の娘が訳のわからないものを相手にする戦闘員なんて考えられないよ。俺があいつの親なら… うん? 俺があいつの親なら… まあ、許してしまうか。一般論的には、ないね。俺たち、言ってしまえば突然変異。一歩間違えると、世間から忌み嫌われる存在になっていたかもしれないけど、こうやってちゃんと仕事として活かせているんだから恵まれているよ」
二階堂に付き纏われる穂高と、その光景を面白そうにカメラで写す村田の姿を眺めながらそんなことを話していると、長いと思われた一時間も、気がつけばじきに経つ。
続きます




