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人間以外でも実験

 人間以外の生物が触れた場合、水竜は出現するのか否か、疑問に思えば即行動に移す桐生、穂高、村田の三人は揃って訓練所を出て、適当な動物を探す。間もなくして穂高が開発課からトノサマガエルを一匹、村田は丸鉢に入った金魚を一匹、桐生は外より白の猫を一匹連れてくる。実験好きなのか、どれも嬉しそうな顔をしている。


「とりあえず、小さい金魚からいってみます?」


 村田はそう言って、薙刀が浸る簡易プールの水の上で丸鉢をひっくり返して金魚を投入する。生きた金魚は自から薙刀に触れてくれない。ガムテープを用意して、金魚を水から引き上げ薙刀の刃に貼り付けてしまう。実験というよりは子供の悪戯である。


 が、魚類では数秒、数十秒と経っても水竜は現れない。続けてカエルが刃の上に乗せられる。これも変化がない。


「やっぱり、知能が低い生き物じゃ駄目だということなんじゃない?」


 桐生は猫を刃の上に座らせてみる。すると水竜が柄を伝って上り始めたが、すぐに何かを思い出したように引っ込んでしまう。


「猫も、明らかに戦闘員じゃないからね。武を極めるとは無縁だね」と村田が言う。


 結論から言えば人間以外の生き物では水竜が現れることはない。その人間にしても、戦いに向いていないと判断されれば消えてしまう。


 ならば女だったらどうか? これもまた試してみたくなる。この場合、打ってつけなのは店でバイト中の弥生である。三人とも、同じ考えのようである。


 そういうことで桐生が店番をしている弥生を呼びに駆け足で訓練所を出て行く。あまり待たせることなく彼が戻ってくる。その隣に彼女の姿はない。


「あれ、どうして一人?」


「あいつ、頑なに拒否しやがった。店番優先だとか言って。お客もこの時間じゃ、ほとんどいないっていうのに。よほど実験台にされるのが嫌らしい」


 彼女で実験することはすぐに諦める面々だが、代わりに最も危うい疑問が挙がる。


「戦闘員が触れて、武を極めんと欲した場合は、どうなるっていうんだ?」


 こう桐生がボソリ。これには滋が口を開く。


「僕が丁度調べていた話と同じものだったとしたら、やっぱり体を乗っ取られて、戦闘マシーンになってしまうじゃ…」


 逸話に倣っても、話の流れからしても、おそらくそうなるであろうと村田も穂高も否定はしない。ただ、まだそうと断定するには決定的な証拠が足りない。誰を実験台にして実際に水竜の問いかけに答えてみるか。それが悩みどころとなる。戦闘員としては、桐生が適任である。そして本当に体の自由を奪われ暴走するのであれば、誰も止められなくなってしまうだろう。村田も穂高も戦闘員としての自信もない。滋は使えない。となれば、皆一斉に二階堂へと振り返る。すると彼は、自分に白羽の矢が立ったと思い込んで俄かに顔を綻ばせる。


「いや、やはり素人にやらせるわけにはいかないか。暴走しました、取り押さえられなくなりました、もしくは元に戻りません。それじゃ大問題だもんな」


 こう桐生が取り下げると、村田も、


「この実験は、やっぱりこれで終わりかな。これ以上データを取れないのは残念だけど、何が起きるかわからない代物だから、とりあえず上に報告して被験体が見つかるまで開発課で封印ということで」


 ただ、穂高は、


「う~ん、納得がいかんなぁ、こんな奇怪なアイテム、なかなか手に入らんというのに、詳細もわからず報告なんぞ、わしの流儀に反するぞ。そんなことしたら結局、研究所に持って行かれてしまうしな。まだ危険なものかもわからんのや、一度でいいから水竜の返事に答えさせても、いいのと違うか?」


「う~ん、いくらなんでも、それは所長が許さないでしょう」


 この村田と穂高の間に再び滋が言葉を挟む。


「あの… 僕、一人だけ心当たりがあるんですけど…」


 ところがすべてを言い切る前に、


「お前、それ、ヴァイスのことだろ?」と、桐生。


「え? わかる?」


「ああ、俺も同じことを考えていたからな。あいつなら、まあ、確かにこちらにもほとんど責任は掛からないからな。本部には危険視されているし、いくらでも言い訳できる。ただ…」


「ただ… 何?」


「あいつ、強いぞ。それに、無料で協力してくれるとも思えないんだよな。馬鹿みたいに勘がいいし、危ない実験だと気付いたら絶対にこっちの足元を見てきそうなんだよ」


「それじゃ、やっぱり駄目?」


「いや、それでも一応、連絡してみる価値はあると思うぜ」


続きます

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