薙刀を拾った経緯(後編)
「公園で薙刀の素振りをしていたら、手からすっぽ抜けまして、それが池の中に落ちてしまったんですよ。それで、慌てて飛び込んだと、そういう経緯です」
「水竜は、水中で握ったときには現れなんだか?」
「さあ、水から上がるのに気をとられていて、そのときは気付きませんでした。ただ、上がってじっくり見てみようと思ったときには、水の竜は柄を上り始めていましたけど」
ちなみに連絡があってから警察の一人も同じように薙刀に触れてみて水竜が出現したことを確認している。それからまたUWへと話が渡って、駆けつけた実行部の一般隊員の一人も実際に同じように試してみている。三者は共通して竜が腕にまとわりついてきた時点ですぐに手を放している。この基地に運ばれる際は大きなペンチ状の器具が使われ、直接には触れられていない。
「水につけていたら水竜が出ないという可能性はあるのかな?」
「さあなぁ、試してみるか?」
そう言って穂高は早速隣の開発課に入っていって空気で膨らませる子供用のプールを運んでくる。張った水に薙刀の半身を沈ませる。では誰が握るか、との相談の段で、二階堂が挙手をして自分にやらせてくれと志願する。が、素人にやらせるわけにはいかない。結局、隊長の独断で滋にやらせる。
「何事も経験」
「そういうことを言うときの誠司の嬉しそうな顔が一番怖いんだけど」
渋々、滋は水に浸かった柄を握ってみる。しばらく握ってみるが、目に見えて特に変化らしい変化はない。しかし、それは竜が水でできているためで、気付いたときにはすでに滋の腕を竜が上り始めている。肩口で止まると、
「汝、武を極めんと欲すれば、我を…」
決まり文句を言う。しかし、どうしたことか竜は途中で言葉を止める。沈黙すること十秒足らず、
「汝… 戦には不向きの者。我を使うには値せず」
水竜はこう言い残して、瞬時にただの水となる。滋の肩口、脇腹、パンツの側面、靴が濡れてしまう。
「おやまあ、これはまた予想外な結果が出たもので」
桐生は淡々と呟いて、次には大口を開けて笑いだす。仕舞いには抱腹して床に転げまわる。
「竜も人を選ぶか」
村田は冷静にデータをノートパソコンに入力している。
「これは人間以外の生き物に触れさせてみても同じような結果になるんやろうか?」
穂高の言うところ、まるで滋が人間以下とばかり。滋は深い溜息をついてしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
二階堂は気に掛けてくれるが、嬉しいやら、情けないやら。これを見て桐生は跳ね起きると、
「あ~ 面白かった。そんじゃ、他の生き物でも試してみる?」
続きます




